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二十四章 全員集合



 掌サイズの小銃を腰のポシェットに仕舞い、母はまだ停止し切っていないエイから軽やかに降り立った。流石に抱えたままは邪魔なので、今俺は全身タイツの細い肩に乗せられている。

「大丈夫、お嬢さん?まあ、怪我しているじゃない!?」

「掠っただけよ。放っておけば止まるわ」

 顎へ伝う血を滴らせた夢使いは、そう言ってフイと顔を背けようとした。が、闇組織の長はあっさりそれを阻んだ。

「触らないで!」

 頬骨を掴まれた少女が拒絶反応を示すも、母は意にも介さない。

「黴菌が入ったら大変だわ。今絆創膏を貼ってあげるから、ちょっと待ってて」

「平気だって言っているでしょう!?」

 ごそごそ。再びポシェットを探り、銃の横からお花柄の治療キットを取り出した。チャックに指を掛け、ジジジ。

「あったわ」

 取り出された可愛いデフォルメの猫のプリント絆創膏を見て、それまで冷静だった夢使いが悲鳴を上げた。

「ちょっと、そんなの貼らないでよ!!」

「だってこれしか持ってないもの。贅沢言わないの」

「それ一枚で普通の物が箱ごと買えるでしょう!?止めて!!」

 逃げかけた肩を、何時の間にか背後に控えていた政府員がしっかり掴む。

「放して、このロリコン!!」

「駄目だよエミルちゃん。お姉さんは君の雇い主だろう?」

「そうそう。暴れないで、真っ直ぐ貼れないわ」

「う、うう……!」

 華奢な拳を握り締めつつ、白いほっぺたへの屈辱を耐える。お、中々似合ってる!こうして改めて見ると、年相応で愛らしい普通の女の子だな(生憎俺のタイプではないが)。

「あら可愛い。ねえ煌?」

「ほうやな。髪飾りとか付けたらもっとイケそうやけど。ボス、帰りに何か見繕ってあげたらどうや?一人でよう頑張ってくれたし、御褒美って事で」

「あなたにしては素晴らしいアイデアだわ」

「嫌!夢を閉じ次第、私は帰る!!」

 激昂。この娘っ子、人の親切に慣れてないのか?特殊な術を使うようだが、一体どう言う環境で育てばこんな性格になるのやら。

 半分頭の吹き飛んだ死体を一瞥し、にしてもまさか復活するなんてね、まだ信じられないわ、驚き混じりに呟く母。

「しかも何故か件の時計がここへ移動しているし。トレジャーハンターさん、これよ―――な、何!!?」

 直立したままのダイヤクロックが、突然眩い蒼白の光を放出し始めた。それに呼応するように、脳漿と血に塗れた死体が光り輝く。


「―――時空エネルギーノ回収ヲ開始シマス。尚動作二伴イ、当機周辺ニハ高圧ノ磁場ガ発生シマス。総員、速ヤカニ退避シテ下サイ」


「と、時計が喋ったぞユアン!?」

「聞こえている!しかし、退避しろだと?一体何をやらかすつもり―――っ!まさか……」

 口籠もり、顎に手を当てて考え込む相棒へ、俺は急いで駆け寄った。何故かって?全身の毛がヤバい空気をひしひし感じていたからさ!

「おい、これから何が起こるんだ!?」

 肩に登り、囁き声で問う。

「何分生まれていないので詳しくは知らんが……アンドレ氏の遺体は、『崩落した』屋敷の中から発見されたらしい。つまり」

「こいつのせいでここが崩れるって事かよ!!?」

「阿呆!!」

「何?」

 俺の上げた大声に、真っ先に反応したリィは素早くエイの操縦者を見やった。

「おい。ほれホンマなんか坊主?」

「恐らくな。見ろ、奴の影響で夢が崩壊を開始したぞ」


 パチン、パチンッ!ゴゴゴゴ……!


 空間を漂っていたシャボン玉が次々と割れ、上から壊れた柱や石壁が降ってきた。

「拙い!時計が空間を歪めていたせいで、夢と現実の境が消えかけている……加えて、この屋敷は既に多くの恨みを孕んでいる。私の制御で外に遮断されていた思念も一緒に入ってくるわ!!」

 術者の半狂乱の叫びを聞くなり、母は一早くその手を取った。

「エミルちゃん、冤罪を掛ける云々はもういいわ!とにかく逃げましょう!政府員、あなたも早く乗って!!」

「勿論。にしても本気でヤバそうだなー」

 一人暢気なジョウンが最後に乗り込み、猿使いは怯えるエイに発進命令を出した。




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