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十五章 悪徳業者の本拠地へ



 ギギギィィッ………。


 どうやら初めて入るのは俺達だけらしい。扉が開くと同時に、他の業者達は慣れた様子で屋敷のあちこちへ消えていく。あっと言う間に玄関は五人だけになった。

「済まない。私はこう言う者だが、主人のアンドレ氏はどちらに?」

 リィが茶封筒から依頼書を取り出し、ドアの横に佇んでいた執事に見せる。

「ああ、鑑定の方ですか。お待ちしておりました。昨日の電話では四人と伺いましたが―――おや、どうして政府員の方が一緒に?」

 制服の胸ポケットからはみ出す(わざとか?)独特な紋章の手帳を指差して尋ねる。

「ちょっと今月ピンチでね、日雇いのアルバイトだよ。そう言う訳だからパティシエ君、どうぞお気になさらず」

 あらま。こいつが例の死の預言を聞いた菓子屋だったのか。

「生憎店主が風邪でダウンしてしまったんだ。しかし見ての通り手伝いもいるので、鑑定には支障無い。案内を頼む」

「それはお大事に。ではまず、主の部屋へ御案内致します。それと、先程から気になっていたのですが……」

 言葉を濁し、熊のぬいぐるみへチラチラ目線を送る。

「ただの娘へのプレゼントだ。何か問題でも?」ギロッ。

「い、いえ!滅相も御座いません!!ささ、中へどうぞ!」

 世紀が違っても、ユアンの眼力は相変わらず一種の破壊兵器だな。可哀相に。

 全面大理石のロビーを抜け、階段で二階へ。窓を見ると、早くも職人が屋根から吊り下がって掃除に取り掛かっていた。まぁ屋敷の窓はざっと百枚以上、もたもたしてたらあっと言う間に夕方になっちまう。植木職人も庭で刈り込みをバンバン始めているし、俺達も負けてられないな。

「ん?」

 案内されるまま角を曲がった、次の瞬間。目の前の廊下を小さな何かがサッ!と横切った。残像は俺に似た大きさだ。

「何だ、ネイシェ?」

「今、そこを何かが通ったような。ここって猫でも飼ってるの?」

「え!?」

 パティシエは何故か激しく狼狽し、首をブルブル横に振る。

「い、いいえ!御主人様は動物が大嫌いなんです。入り込んでいるなら早く捕まえないと……」

「手伝おうか?俺鼻利くし、狭い所も入れるよ」

 こう見えて瞑洛では偶に猫捜しも引き受けている。自慢になるが捜索技術は中々の物だ。

「いえ、お客様の手を煩わせるまでもありません。後でメイド達に捜させます」

「そう?」

 ああ。きっとあちこちに高い調度品を飾っているから、余り部外者に歩き回られたくないんだな。万が一壊されたら自分がクビにされかねないし。ならしょうがない。 

 一際豪華な装飾の扉の前に立ち、背筋を伸ばす。一度深呼吸してからコンコン。大きくノックした。


「御主人様、骨董店の方がいらっしゃいました。お通ししても構わないでしょうか?」 

「………」

「御主人様?眠っていらっしゃるのですか?」


 コンコンコン。先程より幾分強い力で叩くが、矢張り返事は無い。

「留守か?」

「いえ。先程デザートのティラミスをお持ちしたばかりなので、それは無いかと……ハッ!もしや」

 預言を思い出したのか、長年の苦労が刻まれた目尻に笑い皺が浮かぶ。

「様子が変ですね。まぁ主人は悪徳金融業者なので、怨恨から暗殺者の十人や二十人差し向けられても全くおかしくはありません。何せ毎日スイーツを食べるためだけに私を陥れた、最低最悪の畜生蛆虫野郎ですから……そうだ!本当に死んでいるなら、金庫から証文を回収しておかないと!!」

 おいおい、喜びで思考がだだ漏れしてるぞオッサン!隣には一応司法の手先がいるんだぞ?せめてもうちょっとお口チャックしろ。

「鍵は?」

 言うなり喜色満面のパティシエを押し退け、ノブに手を掛ける相棒。

「あ、ちょっと!?」

「掛かってないな。―――緊急事態だ。入って構わないよな、ジョウン?」

「勿論」

 返事を聞くか聞かないかの内に、相棒はホルダーから拳銃を取り出す。そして室内へ油断無く構えながら、勢い良く扉を蹴り開けた。




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