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地獄の訓練と魔法

18


 ベルはラルゴの庭仕事を手伝い。ジェラルドとアリアと遊び。三バカを横目に楽しむと言う日常を送り、約一月が過ぎた。

 今日はバズトレイル砦へ交代の兵士と共にカナリアさんに会いに行く日である。

 ベルは心なしかあのカナリアに会いに行く事に緊張している。

 一応道中もしもの事があったときの為にラルゴが小さいナイフをベルに渡したのだが。それでも以前噛みつかれたシルバードッグの恐怖で身震いする。


「大丈夫だよベル!一緒に行く兵士もいるし!いざとなりゃお前には快速の逃げ足がある!ガハハハ!」

 と言った具合のラルゴからカナリア宛ての手紙も携えてベルは馬車でバズトレイル砦へと向かった。




 そして特に何事もなくバズトレイル砦に到着し、神官カナリアの前で膝をつく。

 カナリアは相も変わらず無愛想な表情で、ラルゴからの手紙を読む。


「ふん。キチンと役に立っておるようだな。まあそんな話しはいい。今日から一週間は兵士達と同じように鍛錬をし、夜は今後必要になるであろう事を学習してもらう。何か問題があるか?」


「いえ、ありませんよろしくお願いします」


「ん。では修練場の兵士に混ざってこい」


 ベルはやっぱりカナリアさんはニガテだなと思いながら修練場に走っていった。


 修練場ではまず基礎トレーニングの障害物走があり、次に腹筋、背筋の筋力トレーニング、次に武器を使った剣術や弓術を鍛える。

 全員でやると言う事には意味があり団体で組織的に動く事によって大規模な戦闘ではその攻撃力は計り知れない。


 トレーニングとは言え、大の大人に混じってベルが参加するのは酷である。しかしカナリアは冷たい表情でそれを静観している。

 砦の兵士達も最近締まりがないので、カナリア的には「こんな子供がやれる事で音を上げるとは情けない」とでも言いたいのであろう。しかしその言葉にならぬ声の効果は絶大で、兵士達は痩せ我慢気味に、ベルに笑ってみせたりしている。


 流石にその後の実践形式の武装してでの打ち合いはベルには無理なのでカナリアが直々に教える。


「ほら、どうした?それで終わりか?」


「やあ!」


 ベルの木剣がカナリアの木の棒に弾かれる。


「遅すぎて欠伸が出るぞヴェルハルト。考えろ、疲れているときこそ、脚を使え。止まればカカシと変わらんぞ」


 ベルも革製の防具をつけていていくらか動き辛いとは言え、カナリアの打ち込みになすすべもなく脚を止めてしまう。

 カナリアの乱れ打つ姿は端からみれば完全に弱いものイジメの様であった。


「ほらほらどうした?魔物は待ってはくれんぞ?私を殺す気で来い!」


「……」


 ベルの体力は限界であった。過酷な筋力トレーニングからの打ち合いである。


 カナリアの良い一撃がベルの脳天に入る。その瞬間フッとベルは気を失ってしまった。

 カナリアはそれを見て、横の重装の兵士に水を掛けろと命令する。それを見ていた兵士達は悪寒が背筋を走り、より過激に打ち合う。


「神官殿。何故これほどの……」


「獅子は我が子を千尋の滝へ突き落とし、なお這い上がって来たものを育てる。私は名付け親なのだ私の考える最悪を教えてやる事が責務であり、役目だと思っている」


「恨まれますぞ」


「かまわんよ。人には逃れられぬ試練と言うものが必ずある。耐えて乗り越える時、頼れるモノは結局己の能力しかないのだからな」


 カナリアの言っていることは間違いではない。だがその鍛える度合いが下手なのであった。それに本人は全く自覚がないのだから酷いものである。



 地獄の鍛錬が終わって、ベルは筋骨隆々の兵士達と共に水浴びをしていると、そこへカナリアがやった来た。

 驚いた兵士達は自分のナニを隠そうとオタオタしているがそれを興味なさげに見回すカナリア。


「何をそれくらいで騒いでいる。貴様らの粗末なモノなど目に入らんわ。ヴェルハルトはおるか!ヴェルハルト!」


 ベルは腰巻きを巻いて、ヨタヨタと前に出て行く。

 ベルは体中がアザだらけでみるも無惨な姿である。それを見てさすがにやりすぎたと思ったのかカナリアはベルの頭をコネる。


「う……む。次は座学だ一時間後に聖堂に来い」


「はい!」


 その後座学が始まるまでの一時間、宿舎でベルは他の兵士達に凄い親切にしてもらい。本来自分で用意するベッドなんかも一番上等な材質で用意してもらったり、甘いモノやらなんやら沢山もらったりした。当の本人はどうしてこれほど良くしてくれるのか不思議であった。




「さて、以前我がヴァーテ教の歴史は教えたな。今回は現在アーガイアにある国についてから始める」


 カナリアは聖堂の隅の黒板に大陸の地図を張り出し。指揮棒を振るい話し出した。


 アーガイア(世界)には様々な大陸に別れているが、事詳しくわかっているのはエスラント大陸。つまり今ベルがいる大陸である。

 エスラント大陸には大まかに三つの人種の国がある。一つは南方のアークリュース竜皇国で人間の多く住む国だ。二つ目は北方のガーランド帝国、エルフ族が多く住む国。そして三つ目は国と呼ぶにふさわしいかどうかわからないが大陸の至る所に点在する集落をシーア領と呼ぶ。シーア領は亜人と呼ばれる者達の国だ。

 アークリュース竜皇国の成り立ちは説明する必要はないが、ヴァーテ教の祖、ヴァーティリアの子孫が王家の血族であり。巨大な翼竜を打ち破った事で近隣の小国をまとめ上げ連合国の覇者となって今に至るのであった。

 ちなみに近隣の小国と言うのは三つあり。貿易の海洋国家メラキアと鉄のボルケーノ王国。そして森の国オルグレンで、その四国の同盟をドラゴン同盟といわれている。

 次にカナリアは、懐の巾着からバラバラとコインを机の上にバラまき。お金についての話しを始めた。

 四国で取引される貨幣は同一規格で。石貨、半銅貨、銅貨、半銀貨、銀貨、半金貨、金貨、白金貨。となっている。金貨以上のモノはまず庶民にはお目にかかれない。

 ちなみにカナリアが出したのは半金貨までで、これだけでも日本で言う十万円くらいの価値がある。


 そこまで話した所で、時刻は深夜をまわっており。ベルも昼間の疲れから集中力が切れ気味だったので今日の授業はこれまでとなった。



19


 翌日は昨日より軽めのメニューでトレーニングを終えたベルは聖堂で再び座学である。


「うむ。昨日教えた事は頭に入ってるみたいだな。なかなか賢いのう……誉めたわけではないぞ!覚えて当然の事だ!次は魔法学について教える!」



 魔法学は体内にある魔心から抽出した魔力を火、水、地、風の四大魔法に変換する術の事を言う。もちろん魔心に蓄えられる魔力と言うものは人それぞれで、全く無い者もいれば一人で兵士一個大隊を撃滅するほどの魔力を保有する者もいる。魔力の保有量は先天的なもので増えたり減ったりもしない。魔力が枯渇するほど使うと失神してしまう。

 ちなみに傷を直したりするのは白魔法と呼ばれ、四大魔法に比べて少量の魔力で済むため民間でも多く使われる。

 人それぞれ魔力には性質の違いがあり、四大魔法へ変換で得手不得手がある。カナリアは水と風属性に偏りがあり、四大魔法の派生属性氷を主に使う。が、そこは魔力が低いため、氷属性が呪付された矢などを使い魔力を増幅して使用している。


 その話しを聞いたベルの目はキラキラとして、流石にカナリアも苦笑いをする。


「では、まず魔力がどれ位あるか調べてみよう」


 魔力を測る方法は単純に魔法が使える者と掌を合わせて、探ると言う方法である。

 感覚的には魔法が使える者が掌から魔力を送り、その者の魔心から魔力を引っ張り出すと言った感じだ。

 それは測ると同時に魔力がなんなのかわからない者に体感させ、発動を助けると言う役目もある。ある無しに関わらず掌の経絡は非常に太いため、引き出すのは容易……のはずなのだが。


「うん?おかしいな。引っ張れぬ。くう!」


「?」


「なんだこの強情な引きこもりみたいな魔力は!」


「僕には魔力が無いんですか?」


「いや反応はある。ただなかなかひっつかない。ぬううう」


 ベルも体感的に何か熱いモノが身体の中心から肩腕の方に寄って行くのがわかる、が、フッとまた中心に戻る。


「ぬおおおおおおお、おおこのデレスケがぁぁぁ!!」


 顔を真っ赤にしたカナリアが歯を食いしばりながら頑張る。目の前でベルが心配そうに見つめる。


「うぐごおおおおぬうううえああ!!」


 その時、ベルもなんとなく掌に暖かさが宿ったような気がした。


「ふう、はぁはぁ!わかるか?繋がったぞ!」


「はい!」


 モヤモヤと湯気の様に揺れる魔力。


「うむ。魔力はほぼ無い。これでは属性もわからんな」


 ガックリとうなだれるベル。


「まあ、かすり傷くらいは治せるだろう。今から”ヒール”を教える」


「あ、ありがとうございます!」


 それからヒールのコツを教えてもらい、訓練で傷付いた兵士達のかすり傷にヒールをやってみる。

 まず魔力で患部を覆い、収束させるように中心へ引っ張るイメージで魔力を送り込む。


「どうですか?」


「ベル坊よー。傷薬の方が良いんじゃ才能ねぇよ」


 ゲラゲラと笑った兵士達にベルは落ち込む。確かにベルには魔法の才能はなかったのであった。そのため魔法学の勉強はそこそこに切り上げて、またも一般教養の授業に戻ったのであった。



29


 砦での生活が一週間過ぎて、ようやくアリシア村に戻る日がやってきた。


 馬車にはベルと交代の兵士五人。見送りにはカナリアの姿はなかった。代わりに兵士達から「鍛錬を怠るな!」と言うカナリアの言葉を貰った。


 腰に刺さっているボロボロの木剣がその訓練の凄まじさを物語っている。


 帰り道、アリシア村まであと一時と言う所でシルバードッグに出くわした。


 兵士達は素早く、馬車から飛び降り。ベルに「ここで待ってろ!」と言い。シルバードックを包囲する。皆手にはブロンズソードを構えている。


 ベルが馬車の上で安心して見ていると、なんと馬車の背後にもう一匹隠れていたらしく、大きな銀色の肢体が馬車に飛びかかる。

 兵士達もシルバードックを仕留めながら振り向き「ヤバい!戻れ!」と踵を返す。


「ガオオ!!グァ!」


 シルバードックはベルに覆い被さり、馬車の御者は青い顔で道端で立ち尽くす。


 兵士達は一斉にシルバードッグの背に剣を突き立ててトドメを刺し、シルバードッグを馬車の荷台から落とす。

 兵士達はベルが無事かどうか覗きみると。

 仰向けの状態で目を見開いて、シルバードックの歯形の付いた木剣を構えたまま震えていた。


「ベルぅぅ!!良かったな!」

「すまねぇ!油断した」

「良かったなぁぁ!……マジで」

「訓練も無駄じゃなかったな!」

「いや、マテお前ら。不意打ちとは言え、全員で一匹を囲む事なんてなかっただろ?反省しろよ」


 ベルは抱きつかれた兵士達によってようやく我に返った。


「すいません……ありがとうございます」


「いいよ!むしろ俺らが謝る所だろ!」


「シルバードッグの皮剥いでくるわ!」


「よく戦ったって誉めてぇトコだよ!」


「アイツらが集団戦を仕掛けて来たんだから、俺達の勝ちさ!ベル坊だってシルバードッグに勝ったんだぜ!誇っていいぞ!」



 そんな感じでワイワイと賑やかに馬車はアリシア村へと帰って行った。



20


 暫くぶりに帰って来たベルはラルゴとクレアにバズトレイル砦であったこととシルバードッグの事を話した。


 ラルゴはガハハと笑い。クレアは笑うラルゴに怒ったりと。終始賑やかしく日が暮れて行った。




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