雄蝙蝠5.ストライクゾーンが広すぎるヴァンパイア
俺っちはこれまでの経緯を説明した。
「カルーアは、やっぱりヴァンパイアの子なのね…。ウチが特異体質だからあんたもそうだと思ったのに」
「もう、人間か動物の血しか吸えないんだな」
「家出した罰だよな。今も血が吸いたくてしょうがない…」
「いや、ヴァンパイアとしての本来の姿になっただけだろう。住処にいれば野生動物がたくさんいるから、家出はしなくていい。3人で穏やかに暮らそう」
「ミモザの家に一緒に行きましょう!これからの過ごし方について教えてくれるだろうから。その前に着替えを用意しなきゃね」
「うん、こんな俺っちの為に尽くしてくれてありがとう…」
母が出してくれた服に着替えて、ミモザおばさんの家に向かった。
「あら、家族揃ってどうしたの?」
「家出したと思ったら、人間の血を吸って帰ってきたのよ!これからどうしたらいいか分からなくて…」
「それならあたしが適任ね。動物を捕まえてくるわ!ちょうど娘もご飯の時間だから」
「ミモザさん、ありがとうございます。よろしくお願いします」
俺っちは立って居られなくて、床の敷物の上で横になる。限界が近く、無意識の内に自分の腕を噛んで血を吸っていた。
「エリカは離れてて。オレがカルーアを見てるから」
「分かったわ…」
母が部屋を出ると、ちょうど狩りから帰ってきたミモザおばさんと鉢合わせた。手にはウサギの耳がしっかり握られている。
「きゃあっ!」
「エリカ、大丈夫?外に出てな」
「うん…」
母にとっての最適解は、現場からとにかく逃げる事だ。
「ほら、ウサギを捕まえてきたから。首の所をガブッと行きな」
「ありがとう…」
血に飢えていた俺っちは、思い切り噛みついた。生き返りはしたが、なんせ味が不味い。
「ヒトの血が恋しい…」
「最初から美味しい方だと、これは辛いかもね」
「そんなものなんですね。エリカがあんな感じだから、いざという時に何もできないのがもどかしい…」
「カルーア、体調は大丈夫そう?まだ娘の分を狩ってないから捕まえに行くよ!」
「うん、とりあえずは動けるようになった。おばさん、ありがとう☆」
「『おばさん』って呼ぶな!『お姉さん』だろうが」
ミモザおば…お姉さんの鋭いツッコミが飛ぶ。母も『ババア』と言われるのを嫌がる為、妙齢の女性に対しては注意しなければならない。(ヴァンパイアは誰も見た目が若い為、正確な年齢は知り合い同士でも分からないものだ)
気を取り直して、俺っちは父と共に狩りに同行した。今後は自分で血を確保する為だ。
「小動物はすばしっこいけど、初心者には向いているわ。人外の並外れた動体視力とフットワークで一気に捕らえるの」
「そうなんだ。やってみる」
茂みにモルモットが見える。草を食べているようだ。
「今よ!」
「うん」
手を伸ばして捕らえようとするが、あと一歩で逃げられてしまった。
「惜しい!筋はいいからあきらめないで」
「オレと挟み撃ちにしよう。どちらが捕まえてもいいように」
「分かった」
今度は茂みからヘビが出てきた。作戦通り2手に分かれる。
俺っちの方に向かってくる。とっさに首を掴んだ。しかし、ヘビも必死で逃げようとする。父も応戦してナイフでトドメを刺した。
「さすが親子ね!息ぴったりだわ」
「よっしゃ!」
ひとまず獲物を捕らえたので、狩りは終了となった。ちなみに、ヘビはアオダイショウと思われる。
「カルーアがあなたの分を獲ってきたわよ!」
「そうなの?今行く…」
俺っちを優先した為に、彼女も限界だったようだ。ふらふらしながらこちらにきた。
「なんでコイツは狩りをしないんだ?」
「ミルクはどんくさいのよ。今まで捕まえられた事がないから、あたし達も困ってて」
「ママ、ごめんね。迷惑だよね…」
「いいのよ。誰にも得手不得手はあるから。カルーアも吸血デビューしたから、一緒に練習したら?」
「うん、やってみる!」
「ミモザお姉さんには借りがあるから仕方ないか…。練習はするけど、足を引っ張んなよ!」
「カルーア、なんでミルクちゃんにはいつも当たるんだ」
「コイツ、変顔しかできない奴だぜ?先輩達からもウザがられてるし(ミルクは5歳くらい年上)」
「皆を楽しませようとしてやってるのに、何がだめなのかな…」
ミルクは、幼い時から両親を笑わせようと変顔をしていたらしい。昔は面白い子で通っただろうが、今ではただの変な奴だ。普通にしてればかわいい方だと思うのに、いつそれに気付くのだろう。
アリウムおじさんが帰ってきた所で、お暇する事にした。外に出ていた母を見つけて一緒に帰路に着く。
「大分遅かったわね。何してたの?」
「狩りの練習をしてた。てか、そう思うなら先に帰ってればよかったのに」
「1人で帰るのは寂しいのよ。せっかくあんたが帰ってきたのだから、待っててもいいでしょ」
「俺っち、また家を出るから。動物の血は不味くて非常用にしたいw」
「反省しなさい、バカ息子!どうして皆の気持ちを踏みにじるの」
「どれだけ心配をかければ気が済むんだ」
「番を見つければいいんだろ?無駄に遊んでるワケじゃねーし」
「…」
俺っちは言葉を失った両親をよそに、家を出る事を決意した。仕事も無断で休んでしまったし、遊ぶ金も欲しいし、何よりヒトの血を飲みたい。
ひとまず狩りの練習をして、血を確保するのが得意になった頃、深夜にそっと抜け出した。小さな容器に血を入れてポケットにしまい込む。どうしても血が補給できなかった時の為だ。できれば使いたくない。
久しぶりに街へ出ると、宿屋を探した。今の時間帯で営業してるのはこれくらいしかない。仕事は夜が明けてから探す事にした。今までは食事を売る露店で働いていたが、もう賄いを食べる必要がなくなった為、別の業界を選ぼうと思った。
宿屋に着くと当然女将さんが受付をしている。いつもなら気にもかけないが、今はヒトの血に飢えている。
しかし、追い出されては仕方ないのでぐっと堪えた。
どうにか朝を迎えた。しかし、血が恋しい為に小瓶に入った1つを取り出して飲んだ。やっぱり不味い。慣れないものだ。
宿屋を出て、仕事を探す。服屋もいいかと思ったが、女性用の服はよく分からないので断念した。ふと、診療所が目に留まる。これなら地頭の良さでどうにかなりそうだし、血を効率的に吸えそうな方法も思いついたので、早速職員募集の張り紙を確認して院内へ入った。
案の定、人手不足ですぐに採用された。薬草の勉強をして、薬師として働く事になった。
俺っちは早速考えた方法を試した。
薬代を引く代わりに、吸血させてもらうのだ。(大人の女性限定)
男性には申し訳ないが、女性の血にしか興味が持てない。女性は働いても賃金が少なかったり、結婚・妊娠・出産・育児で何かと大変だからと上司に訴えて実現した。(吸血行為はヒミツ☆)
結論から言えば、大いに協力してくれた。
若い人から、高齢女性まで幅広い層の血を吸う事ができた。ただ、明らかに男性と思われる人が、薬代を払う時だけ急にオネエ言葉を話してきて戸惑った。(今日はたくさん血をいただいたからと丁重に断ったら、逆ギレして帰っていった)
作戦はこのまま上手くいくだろうと、高をくくってしまったのが間違いである事にまだ俺っちは気付かない…。
雄蝙蝠6へ続く…
読んでいただきありがとうございます!
小話⑤新キャラのミルクは前作にも出てます。変顔で両親を笑わせていたあの娘です。名前は今作で考えました。




