雄蝙蝠4.血が飲める事に気付いたヴァンパイア
俺っちは家を飛び出した後、いつもとは違う酒場へと向かった。
(あの酒場に来る常連客は一通り持ち帰ったから、新規を開拓したいな…)
そんな事を考えつつ走っていると、人とぶつかる。
「きゃあっ!」
「ごめん!怪我はない?」
「肩にぶつかっただけで大丈夫です…」
そう言うと彼女は肩をさすりながら去ろうとする。
「ちょっと待って!足、怪我してるよね?」
「え?」
「かかとに血がにじんでる…」
俺っちは、彼女の手を引いて座れそうな場所を探した。ちょうど近くに宿屋があった為、受付で部屋をとった。
「そこに座って」
「は、はい」
俺っちは彼女にベッドに座るよう促した。
「右足を見せて」
恥ずかしそうにしながらも、彼女は靴を脱いで血のにじむ右のかかとを差し出した。
「結構ひどいね」
「新しい靴を降ろしたばかりだからだと思います」
「手当てしてあげる」
「…っ!」
俺っちは傷口を舐めた。そして吸った。
「昔、俺っちの親父が母さんに『傷の消毒』って言ってやってたんだ」
「えっ、今私の血を吸ってましたよね?」
「ごめん、やりすぎちゃった。なんか、キミの血を舐めたら美味しくってさ☆」
「もしかして、あなたはヴァンパイアですか!?」
「そうだけど、こう見えて血を吸ったのは初めてなんだ。生まれてから今日まで、ヒトと同じ食事をして育ってきた」
「う、噂で聞いたヴァンパイアと全然違う…」
「他のヴァンパイア達は普通だよ。俺っちの家族が変わっているだけで。それより、また血が出ないように布を巻いてあげる」
俺っちは自分の服を割いてちぎる。その切れ端を怪我したかかとに結びつけた。
「早く良くなるといいね!」
「ありがとうございます。でも、服がボロボロになってしまいましたね」
「これくらい構わないよ。気にしてくれるなんてヤサシーね☆」
「私、そろそろ帰らなきゃいけないんです。家族が待ってるの」
「家族ってダンナとか?」
「いいえ、両親と住んでいます。彼氏すらいません」
「なら、いいじゃん。朝には帰すから一緒に泊まろうよ☆」
「そんなつもりじゃ…」
「あ、もしかして怖い?大丈夫。俺っち結構ヤサシーから。それに、またキミの血を吸いたくなってきた」
「私、あなたの番になるんですか?」
「んーん。それはないかな。番としてのセンサーはないけど、血を吸わないと元気が出ないカンジがして。今夜だけだから。ね、お願い!」
「…お礼になるのなら、引き受けます」
「ありがとう!早速いただくね☆」
首を差し出した彼女に牙を刺して軽く吸った。
彼女の負担を考慮して少量に留めた。
「…思ったよりは痛くなかったけど、このくらいで足りましたか?」
「うん。普通の食事より断然力が沸くし、美味しい!ありがとう☆」
首の吸血痕を隠す為に、また俺っちの服を引き割いて巻き付けた。
「痕が残るだろうから、隠れる服を着た方がいいよ。他の番達も痕を隠す服をいつも着てるんだ」
「そうなんですね」
「血を吸う前は、いつものように朝まで寝かさないつもりだった。でも、今は満足しててそんな気が起きないし、キミの体調が心配だから添い寝にしよっか☆」
「やっぱり不安だったので、正直助かりました」
「いつか好きな人が見つかるといいね!俺っち応援してる☆」
「ありがとうございます。ヴァンパイアさんも番と出会える事を祈っています」
「うん、俺っち頑張る。今日はもう寝ようか。おやすみ☆」
「おやすみなさい」
今日は色々あったけど、ヴァンパイアの本来の姿である血を飲んだからか、空っぽだった心が少し満たされた気がした…。
初めてヒトの血を飲んだ日から、普通の食事ができなくなった。
あの後も目覚めると血が欲しくなり、少しだけ血を吸ってから彼女とは別れた。宿屋を出て仕事に向かっている間も、女性とすれ違う度に血が飲みたくなる衝動に駆られる。初めは我慢できていたが、次第に歩けなくなってきた。ふらついて道端にしゃがむと、ある女性が声をかけてきた。
「顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。ほっといてくれ」
「ここは人通りがあるので、せめて端に寄りましょうか」
「ああ、そうするよ」
女性に肩を借りて、路地裏まで移動した。
「突然のお願いで申し訳ないが、俺っちにキミの血を吸わせて欲しい」
「え?」
「俺っちはヴァンパイアなんだ。少しでいいから頼む」
「む、無理です」
「じゃあ、せめて血を吸わせてくれそうな女性を連れてきてくれる?」
「それの方が厳しいですよね…分かりました。本当に少しだけですよ」
「助かる。首を俺っちに向けてくれ」
「はい…」
渋々ではあるが、協力してくれたので牙を優しく刺して少し吸った。
「ありがとう。キミのおかげで命拾いしたよ。傷痕が残るからこれで隠してくれ」
「はぁ…」
服を割いた切れ端を渡した。今の俺っちにできるのはこれくらいしかない。
助けてくれた女性に礼を言って別れた。今日は仕事には行かずに住処へ帰ろうと考えを改めて歩き出す。
その後も何度か血が欲しくなり、道行く女性に助けを求めた。血を吸う度に服の切れ端を渡すから、住処へ辿り着く頃には、シャツを脱ぎ上半身裸でボトムスが短パンの長さになっていた。
「ただいま…」
「カルーア、何があった!?」
「え、追い剥ぎされたの?大丈夫?」
家に帰ると、ただならぬ様子の俺っちに驚いて2人が駆け寄ってきた…。
雄蝙蝠5へ続く…
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小話④ヴァンパイアの本能には抗えなかったのです。気付いたらもう戻れない…。




