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8話

第八話 少しだけ安心できる場所


夜になっていた。


街は静かだった。


昼間よりも静かだ。


静かすぎる。


だから逆に怖かった。


俺達は放置されたオフィスビルの一室に身を隠していた。


コンビニで手に入れた食料を床に並べる。


カップ麺。


お菓子。


ペットボトルの水。


大した量じゃない。


それでも今は十分ありがたかった。


「なんか変な感じだな」


スーツの男が言う。


「何がですか?」


美咲が聞き返す。


「昼までは普通に仕事してたんだよ」


男は苦笑した。


「今は知らない高校生二人とカップ麺食ってる」


少しだけ笑いが起きる。


本当に少しだけ。


だがその時間は悪くなかった。


俺も気付いていた。


ゲームが始まってから初めてだった。


少しだけ。


安心できたのは。


「そういえば悠人って学校で何してたの?」


突然、美咲が聞いてきた。


「ゲーム」


即答だった。


「え?」


「ゲーム」


「いや、学校で」


「ゲームの話」


「放課後は?」


「ゲーム」


「休みの日は?」


「ゲーム」


美咲が黙る。


スーツの男が吹き出した。


「お前、それ大丈夫なのか」


「何がですか」


「人生」


「失礼だな」


俺が言うと、二人とも笑った。


なんなんだ。


本当に。


数時間前まで殺し合いゲームだったはずなのに。


「彼女とか」


美咲が聞いてくる。


「いない」


「好きな人は?」


「ゲーム」


「そういう意味じゃなくて」


「ゲームだけど」


「終わってる……」


なぜか引かれた。


納得いかない。


「美咲はどうなんだよ」


聞き返してみる。


すると美咲は少しだけ視線を逸らした。


「普通だよ」


「怪しい」


「なんで!?」


「普通って言う奴だいたい普通じゃない」


さっきの仕返しだった。


美咲は不満そうな顔をする。


その様子が少し面白かった。


気付けば。


笑っていた。


ゲームが始まってから初めてかもしれない。


その時だった。


美咲がふと窓の外を見る。


一瞬だけ。


本当に一瞬だけだった。


何かを確認するような視線。


だが俺が見ると、


「どうした?」


「ううん」


美咲は首を振った。


「なんでもない」


そう言って笑う。


少しだけ不自然だった。


でも、その時の俺は気にしなかった。


その後。


交代で見張りをすることになった。


最初はスーツの男。


次が俺。


最後が美咲。


そう決まる。


深夜。


俺は窓際に座っていた。


眠気はある。


でも眠れない。


静かすぎるからだ。


人の気配もない。


車の音もない。


まるで世界に取り残されたみたいだった。


「起きてたんだ」


後ろから声がする。


振り返る。


美咲だった。


「寝ろよ」


「眠れない」


そう言って俺の隣に座る。


しばらく沈黙。


不思議と嫌じゃなかった。


「ねぇ」


「なんだよ」


「もし帰れたらさ」


美咲は窓の外を見たまま言う。


「何したい?」


少し考える。


そして答えた。


「ゲーム」


「それ以外」


「新作ゲーム」


「それ以外」


「続編待ってるゲーム」


「もういい」


美咲は呆れたように笑った。


だが少しだけ嬉しそうでもあった。


夜風が吹く。


遠くで爆発音が聞こえる。


現実を思い出させる音だった。


空を見上げる。


そこには数字が浮かんでいる。


【975】


また減っていた。


今もどこかで誰かが死んでいる。


だけど。


今だけは。


ほんの少しだけ。


この時間が続けばいいと思ってしまった。


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