7話
第七話 生き残るために
しばらく誰も動けなかった。
崩れた入り口。
瓦礫の下から伸びる手。
さっきまで話していた青年。
名前すら聞いていない。
それなのに。
もう死んでいた。
「……行こう」
最初に口を開いたのはスーツの男だった。
声が掠れている。
「ここも危ない」
誰も反論しなかった。
外ではまだ戦闘音が聞こえている。
あんな連中の近くにいたら、いつ死んでもおかしくない。
俺達は最低限の食料だけ持って店を出た。
空はかなり暗くなっている。
夜が近い。
街もさらに静かだった。
さっきまで人がいたはずなのに。
まるで世界に俺達しかいないみたいだった。
「なあ」
歩きながらスーツの男が言う。
「このままじゃ無理だろ」
俺もそう思った。
食料を見つけても。
隠れる場所を見つけても。
能力者同士の戦闘に巻き込まれたら終わりだ。
「能力を知らないと」
男が続ける。
「自分の能力も」
「相手の能力も」
美咲が俯く。
俺も自分の能力を思い出した。
【生存】
意味が分からない。
役に立っているのかすら分からない。
「二人はどんな能力なんだ?」
男が聞く。
しばらく沈黙が流れた。
誰も簡単には答えない。
当然だ。
能力は命綱だ。
知られれば利用されるかもしれない。
奪われるかもしれない。
男は苦笑した。
「そうだよな」
「俺も言いたくない」
少しだけ空気が軽くなる。
その時だった。
遠くで何かが光った。
三人同時に立ち止まる。
空だった。
いや。
正確には空に浮かぶ数字の近く。
青い光。
見間違いかと思った。
だが違う。
光は徐々に大きくなっている。
「なんだあれ」
男が呟く。
俺達は見上げる。
次の瞬間。
放送が流れた。
『ゲーム開始から六時間が経過しました』
聞きたくもない声だった。
『これより第一回補給地点を解放します』
「補給地点?」
美咲が呟く。
『補給地点には食料、水、医療品が存在します』
三人の顔色が変わる。
食料。
水。
今一番必要なものだった。
だが。
放送は続く。
『また、ランダムスキル獲得権が存在する可能性があります』
その瞬間。
嫌な予感がした。
能力。
その言葉を聞けば人は集まる。
絶対に。
『補給地点の座標を表示します』
空に巨大な光が現れる。
街の中心部だった。
かなり遠い。
だが目立つ。
誰でも分かる。
『なお、補給地点の開放時間は一時間です』
『皆様のご参加をお待ちしております』
放送が終わる。
沈黙。
そして。
スーツの男が笑った。
乾いた笑いだった。
「罠だな」
誰も否定できなかった。
あんな目立つ場所。
能力者も。
逃げている参加者も。
全員集まる。
間違いなく危険だ。
「行かない方がいいよね」
美咲が言う。
俺もそう思った。
普通なら。
だけど。
問題があった。
俺達の水は少ない。
食料も十分じゃない。
この先どれだけ生き残るか分からない。
「どうする?」
男が俺達を見る。
誰も答えられなかった。
行けば危険。
行かなければ生き残れないかもしれない。
どちらを選んでも地獄だった。
その時。
俺はなぜか街の中心部を見た。
理由は分からない。
ただ。
胸騒ぎがした。
補給地点そのものじゃない。
その近く。
どこか別の場所。
そこに何かがある気がした。
もちろん根拠なんてない。
ただの勘だ。
それでも。
なぜか気になって仕方がなかった。
空では補給地点の光が輝いている。
まるで参加者達を誘うように。
そして今この瞬間も。
どこかで誰かが、そこへ向かっているのだろう。
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