5話
第五話 最初の遭遇
ギィ……。
扉がゆっくり開く。
俺も美咲も息を止めた。
足音の主が姿を現す。
男だった。
二十代くらい。
スーツ姿。
額には汗が浮かんでいる。
男は俺達を見る。
そして。
固まった。
俺達も固まった。
数秒。
誰も動かない。
誰も喋らない。
緊張だけが部屋を支配していた。
やがて男が口を開く。
「……よかった」
聞き覚えのある言葉だった。
三話の時の美咲と同じだ。
男は壁にもたれかかる。
「人がいてよかった……」
そのまま座り込んだ。
今にも倒れそうだった。
俺と美咲は顔を見合わせる。
少なくとも襲うつもりはなさそうだった。
「大丈夫ですか?」
美咲が恐る恐る聞く。
男は力なく笑った。
「大丈夫じゃないな」
その顔は青白かった。
スーツも汚れている。
どこかで逃げ回ってきたのだろう。
「追われてるんですか?」
俺が聞く。
男は少し黙った後、頷いた。
「能力者だ」
部屋の空気が変わる。
能力者。
もちろん俺達も能力者だ。
だが意味が違う。
男が言っているのは。
戦う側の人間だ。
「見たんだ」
男が震える声で言う。
「人が吹き飛ぶところを」
誰も喋らない。
男は続けた。
「警察官だった」
「能力を使った男がいてな」
「止めようとしたんだ」
「でも」
男は拳を握る。
「何もできなかった」
静かな部屋に男の声だけが響く。
「一瞬だった」
「本当に一瞬だったんだ」
俺は何も言えなかった。
美咲も同じだった。
想像できてしまうからだ。
男の言いたいことが。
俺達も見た。
遠くからだったが。
普通ではない戦いを。
「もう無理だよ」
男が呟く。
「能力なんて反則だろ……」
その時だった。
外から悲鳴が聞こえた。
全員が反応する。
窓へ駆け寄る。
下の道路。
誰かが走っていた。
女子高生だった。
必死に逃げている。
そして。
その後ろ。
黒いコートを着た男が歩いていた。
走っていない。
歩いているだけだ。
それなのに。
距離が縮まっていく。
異常だった。
「なんだあれ……」
スーツの男が呟く。
次の瞬間。
逃げていた女子高生の体が宙に浮いた。
俺は目を見開く。
ありえない。
何もない。
何もないのに。
女子高生が苦しそうにもがいている。
首を押さえながら。
まるで見えない誰かに締め上げられているように。
そして。
体が投げ飛ばされた。
コンクリートの壁へ。
鈍い音が響く。
女子高生は動かなくなった。
美咲が口を押さえる。
スーツの男も青ざめる。
俺は言葉を失っていた。
空を見る。
数字が変わる。
【984】
【983】
一人減った。
今。
目の前で。
男は何事もなかったように歩いていく。
まるで虫でも踏み潰したかのように。
その姿が見えなくなるまで。
誰も動けなかった。
そして。
放送が流れる。
『参加者983名』
『残り983名です』
明るい声だった。
まるでゲームの実況みたいに。
俺は初めて理解した。
これは本当にゲームなんだ。
俺達の命を使った。
最低のゲームだ。
その時。
窓の外で何かが光った。
俺だけが気付く。
黒いコートの男が消えた方向。
一瞬だけ。
赤い光が見えた気がした。
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