3話
第三話 誰かがいた
建物の奥に、人がいた。
女の子だった。
俺と同じくらいの年齢に見える。
向こうもこちらに気付いたらしく、少し驚いた顔をしている。
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数秒。
お互い何も言わない。
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先に口を開いたのは彼女だった。
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「……よかった」
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思わず聞き返す。
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「え?」
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「誰もいないと思ってたから」
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そう言って彼女は少しだけ笑った。
無理に作ったような笑顔だった。
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俺も少しだけ肩の力が抜ける。
正直な話。
安心した。
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知らない場所に連れて来られて。
意味の分からないゲームが始まって。
さっきまで人が死ぬところを見ていた。
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そんな状況だ。
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一人はきつかった。
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「ここにいたんだ」
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「隠れてただけ」
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「私も」
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それだけの会話だった。
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だけど、それだけで十分だった。
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窓の外を見る。
遠くで黒い煙が上がっている。
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爆発音も聞こえる。
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さっきまでは映画の中の話みたいだった。
でも違う。
あれは本当に起きている。
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「帰れるのかな」
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彼女がぽつりと呟いた。
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俺は答えられなかった。
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帰れる。
そう言い切る自信がなかった。
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「家族、心配してるかな」
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その言葉で胸が少し痛くなる。
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俺も親の顔を思い出した。
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朝までは普通だった。
学校へ行って。
授業を受けて。
帰ったらゲームでもしようと思っていた。
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それが今は。
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命を懸けた殺し合いの中にいる。
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現実感がなかった。
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その時。
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ドォン!!
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爆発音。
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建物が大きく揺れる。
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思わず身を縮める。
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「な、なに!?」
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彼女の声が震える。
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俺はゆっくり窓へ近付いた。
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そして。
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言葉を失った。
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遠くのビルの一部が吹き飛んでいた。
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崩れたのではない。
破壊された。
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誰かが戦っている。
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普通の人間じゃない。
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能力者だ。
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離れているのに分かる。
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車が宙に浮いている。
信号機が折れている。
コンクリートが砕けている。
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俺達がいる場所まで振動が伝わってくる。
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「嘘だろ……」
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思わず声が漏れる。
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あんなのに巻き込まれたら終わりだ。
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すると。
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ピシッ。
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小さな音がした。
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天井だった。
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ヒビが入っている。
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「まずい」
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次の瞬間。
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ガラガラッ!!
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コンクリートが崩れ落ちる。
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反射的に後ろへ飛ぶ。
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轟音。
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さっきまで立っていた場所に瓦礫が落ちていた。
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一歩遅ければ潰されていた。
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しばらく誰も喋れなかった。
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彼女も青い顔をしている。
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俺は崩れた天井を見上げる。
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心臓がうるさい。
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本当に死ぬところだった。
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「ここも危ないかも」
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彼女が言う。
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俺も頷いた。
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正直、もうここにいたくない。
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だけど外はもっと危険だ。
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どこへ行けばいいのか分からない。
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何が安全なのかも分からない。
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ただ一つだけ分かる。
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このゲームは始まったばかりだ。
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そして。
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俺達はまだ何も知らない。
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空に浮かぶ数字は。
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【997】
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さっきよりさらに減っていた。
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