20話
第二十話 回収役の仕事
「死んだ人の能力を回収する」
黒パーカーは当然のように言った。
俺達は誰も言葉を返せなかった。
風が吹く。
遠くで何かが崩れる音が聞こえた。
それでも。
今は目の前の男の方が気になった。
「待て」
最初に立ち直ったのはスーツの男だった。
「死んだ人の能力って何だ」
「そのまま」
黒パーカーは答える。
「死んだら残る」
「残る?」
「うん」
また意味の分からないことを言う。
だが嘘をついているようにも見えなかった。
「能力って消えるんじゃないのか?」
俺が聞く。
黒パーカーは少し首を傾げる。
「消える前に回収する」
「だから何を回収するんだよ」
「能力」
会話が進まない。
美咲が頭を抱えそうな顔をしていた。
俺も同じ気持ちだった。
その時。
スーツの男がふと考え込む。
「待てよ……」
男は補給地点の方を見る。
「だから死体を調べてたのか」
黒パーカーは頷いた。
「仕事だから」
また仕事と言った。
その言い方が引っかかる。
まるで。
最初からそう決まっているみたいだった。
「誰に頼まれたんだ?」
俺が聞く。
黒パーカーは少し考える。
そして。
「最初から」
そう答えた。
「答えになってない」
「そうかもしれない」
本人も分かっていないらしい。
その時だった。
美咲が顔を上げる。
「来る」
全員の表情が変わる。
追手だ。
観測の能力が反応している。
「何人?」
「五人」
減っていた。
だが安心はできない。
五人でも十分危険だ。
「移動するぞ」
スーツの男が言う。
全員が頷く。
俺達は再び歩き始めた。
今度は走らない。
音を立てないように。
追手を避けるように。
しばらく進んだところで。
ふと気付く。
黒パーカーが普通に隣を歩いていた。
「お前さ」
俺が声をかける。
「なんだ」
「名前は?」
黒パーカーは少し考える。
数秒。
本当に数秒考えてから答えた。
「覚えてない」
沈黙。
「は?」
「覚えてない」
「名前を?」
「うん」
俺はスーツの男を見る。
男も困った顔をしていた。
美咲まで黙っている。
「じゃあ今までどうしてたんだよ」
「回収役」
答えになっていない。
だが本人は本気だった。
黒パーカーは少し考える。
そして。
「そう呼ばれてた」
と付け加えた。
俺達は顔を見合わせた。
回収役。
能力じゃなくて。
呼び名らしい。
「じゃあ回収役でいいか」
俺が言う。
「いい」
本人も納得した。
なんなんだこいつ。
補給地点からずっとそう思っている。
でも。
不思議と嫌な感じはしなかった。
変な奴だとは思う。
怪しいとも思う。
けど。
少なくとも今のところ。
敵には見えなかった。
その時だった。
空から放送が流れる。
『補給地点イベント終了』
全員が足を止める。
またあの声だ。
『能力カードの回収を確認しました』
回収。
その言葉に全員が黒パーカーを見る。
本人も空を見上げていた。
『次回イベントまで残り二十四時間』
『現在生存者数九百四十三名』
数字が減っていた。
また誰かが死んだのだろう。
その時だった。
放送は続いた。
『なお、特別対象者の生存を確認』
俺達は顔を上げる。
初めて聞く言葉だった。
特別対象者。
なんだそれは。
『引き続き観察を継続します』
放送が終わる。
沈黙。
誰も喋らない。
そして。
ゆっくりと。
全員の視線が一人に集まる。
黒パーカーだった。
だが。
黒パーカーは首を横に振る。
「違う」
「まだ何も言ってないぞ」
「でも違う」
本人も心当たりがないらしい。
その時。
美咲が小さく呟いた。
「でも……」
俺達は美咲を見る。
美咲は少し迷ってから言った。
「なんか」
「悠人な気がする」
俺は固まった。
「なんでだよ」
「分からない」
美咲は首を振る。
だが。
観測の能力を持つ彼女が言うと。
なぜか笑い飛ばせなかった。
そして。
黒パーカーも。
初めて少しだけ驚いた顔をしていた。
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