21話
第二十一話 特別対象者
『なお、特別対象者の生存を確認』
放送が終わった後も。
しばらく誰も喋らなかった。
特別対象者。
なんなのか分からない。
誰のことなのかも分からない。
ただ。
嫌な予感だけはした。
「特別対象者か」
スーツの男が呟く。
「強い能力者とかじゃないのか?」
俺が聞く。
ゲームならそういうものだろう。
ラスボス。
チート能力者。
そういう連中だ。
だが。
美咲は首を横に振った。
「違うかもしれない」
「なんで?」
「放送」
美咲は少し考えながら言う。
「順番がおかしい」
俺とスーツの男は顔を見合わせた。
「補給地点イベント終了」
「能力カード回収確認」
「特別対象者生存確認」
美咲は指を折りながら並べる。
「わざわざ別にしてる」
確かにそうだった。
もし能力カードを手に入れた人間なら。
同じ報告で済むはずだ。
「じゃあ別人か」
スーツの男が言う。
「たぶん」
美咲は頷いた。
そして。
少し考え込む。
「一番人を殺した人」
「ありえるな」
スーツの男も納得していた。
このゲームなら十分ありえる。
「それか」
美咲は続ける。
「何か拾った人」
「何か?」
「運営にとって大事な物」
俺は少し笑った。
「デスドロップアイテムかよ」
「ゲームじゃないんだから」
「でもゲームみたいなものでしょ」
美咲が言い返してくる。
確かに反論はできなかった。
その時だった。
前を歩いていた黒パーカーが立ち止まる。
全員が足を止めた。
「どうした?」
俺が聞く。
黒パーカーは道路脇のコンビニを見ていた。
壊れたガラス。
荒らされた店内。
珍しくもない景色だ。
「何かあるのか?」
黒パーカーは頷く。
「食料」
「それは見れば分かる」
俺が言うと。
黒パーカーは少し考えた後。
「人もいる」
そう付け加えた。
美咲が目を閉じる。
観測。
数秒後。
小さく頷いた。
「二人」
空気が少し変わる。
「迂回するか」
スーツの男が言う。
俺も賛成だった。
わざわざ他の参加者と関わる必要はない。
だが。
黒パーカーは首を横に振る。
「もう気付かれてる」
その瞬間。
コンビニの奥から男が出てきた。
若い。
大学生くらいだろうか。
手には金属バット。
その後ろから。
痩せた男も姿を現す。
二人ともこちらを警戒していた。
しばらく沈黙が続く。
誰も動かない。
誰も喋らない。
やがて。
金属バットの男が口を開いた。
「四人か」
その言葉に。
なぜか少し違和感を覚えた。
俺達は四人。
間違ってはいない。
でも。
黒パーカーを最初から仲間として数えているような言い方だった。
「そっちは二人だな」
スーツの男が返す。
男は頷く。
そして。
意外なことを言った。
「戦う気はない」
俺は少し驚いた。
このゲームで初めて聞いた言葉だった。
「俺達もない」
スーツの男が答える。
それは本当だった。
戦うより逃げる。
それが俺達のやり方だ。
しばらく見つめ合う。
やがて。
金属バットの男は肩をすくめた。
「じゃあいい」
そう言ってコンビニへ戻ろうとする。
空気が少しだけ緩んだ。
その時だった。
黒パーカーがぽつりと言った。
「嘘だ」
全員が固まる。
「は?」
俺が聞き返す。
黒パーカーは金属バットの男を見ていた。
表情は変わらない。
だが。
声だけは妙に確信していた。
「嘘をついてる」
空気が凍る。
そして。
金属バットの男の顔から笑みが消えた。
その瞬間。
俺達は理解する。
黒パーカーは。
何かを見抜いたのだと。
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