16話
「何を回収してるんだろうな」
俺が呟く。
当然、答えは返ってこない。
黒パーカーの男は相変わらず死体の近くを歩き回っている。
その姿を見ていると、だんだん犯人には見えなくなってきた。
だからといって信用できるわけでもない。
むしろ余計に不気味だった。
その時だった。
補給地点の中央で声が上がる。
「開いたぞ!」
全員がそちらを見る。
コンテナだった。
補給地点の中心に置かれていた巨大なコンテナ。
誰も近付かなかったそれが、いつの間にか開いていた。
ざわめきが広がる。
さっきまで近寄ろうとしなかった参加者達も反応していた。
「行くのか?」
美咲が聞く。
「行かない」
俺は即答した。
「即答だね」
「ここまで来ると逆に怖い」
それは本音だった。
今まで何人死んだと思っている。
補給地点に近付いた人間ばかりだ。
「でも気になるな」
スーツの男はコンテナを見ていた。
分析の能力があっても中身までは分からないらしい。
やがて。
一人の参加者が前へ出る。
若い男だった。
慎重に近付く。
罠を警戒しながら。
そして。
無事にコンテナへ到着した。
何も起きない。
周囲がざわつく。
男は恐る恐る中を覗き込む。
そして。
固まった。
「なんだ?」
「何があった?」
周囲から声が飛ぶ。
男はしばらく黙っていた。
そして。
震える声で言った。
「能力だ」
空気が変わる。
「能力?」
「追加能力か?」
誰かが叫ぶ。
男は頷いた。
「カードみたいなのがある」
その瞬間。
補給地点の空気が一変した。
食料でも。
水でもない。
能力。
それは参加者達にとって何より価値があるものだった。
今まで様子を見ていた人間達まで動き始める。
「最悪だな」
スーツの男が呟く。
俺も同意だった。
食料ならまだよかった。
能力なんて出したら全員集まる。
絶対揉める。
「帰らない?」
俺が聞く。
「少しだけ様子を見る」
男が答える。
その時だった。
コンテナの前で騒ぎが起きた。
能力カードを見つけた男が後ろへ下がる。
別の参加者が近付く。
さらに別の参加者も。
誰も攻撃していない。
でも。
全員が牽制している。
空気が重い。
嫌な予感しかしなかった。
そして。
黒パーカーの男だけは。
そんな騒ぎに見向きもしなかった。
相変わらず死体の近くにいる。
何かを探し続けている。
能力カードにも興味がないらしい。
「変な奴だな」
俺が言う。
すると。
スーツの男が小さく呟いた。
「いや」
「ん?」
「あいつだけ目的が違うのかもしれん」
俺は黒パーカーを見る。
補給地点。
能力カード。
参加者達。
誰もがそっちを見ている。
でも。
あいつだけは違う。
まるで最初から。
能力カードなんてどうでもいいみたいだった。
その時。
黒パーカーが立ち上がる。
そして。
ゆっくりとこちらを向いた。
俺達の方だった。
正確には。
俺を見ていた。
目が合った気がした。
数秒。
本当に数秒。
それだけだった。
だが。
なぜか背筋が冷たくなる。
黒パーカーは視線を外す。
そして歩き出した。
補給地点から離れるように。
誰にも声をかけず。
誰とも戦わず。
ただ一人で。
「どこ行くんだ?」
俺が呟く。
その時だった。
美咲が小さく顔をしかめる。
「どうした?」
「……分からない」
そう言った後。
少し迷うように続けた。
「でも」
「なんか」
「今の人、悠人を探してた気がする」
部屋の空気が止まった。
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