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15話

第十五話 黒パーカー


黒パーカーの男は動かなかった。


補給地点の奥。


倒れた参加者達の向こう側。


ただ立っている。


それだけだった。


なのに。


目が離せない。


「見えるか?」


スーツの男が小声で聞く。


「見える」


「見えるね」


美咲も頷いた。


黒パーカーの男はこちらを見ていない。


補給地点を見ているわけでもない。


何を考えているのか分からない。


そもそも。


本当に人間なのかすら分からなかった。


「能力は?」


俺が聞く。


男は首を横に振る。


「まだ見えない」


距離が遠いらしい。


少しだけ安心した。


見えない相手に近付きたくない。


「帰るか?」


俺は言った。


かなり真面目に。


すると。


二人とも俺を見た。


「なんだよ」


「いや」


スーツの男が苦笑する。


「お前らしいなと思って」


「だって危ないだろ」


「それはそう」


誰も否定できない。


補給地点は危険だ。


黒パーカーもいる。


死体も増えている。


近付く理由がない。


その時だった。


「動いた」


美咲が呟く。


全員が黒パーカーを見る。


男はゆっくり歩き出していた。


補給地点の中央へ。


倒れている参加者達の方へ。


そして。


しゃがみ込む。


「何してる?」


誰にも分からない。


黒パーカーは死体の近くで何かを確認している。


数秒。


やがて立ち上がった。


その手には何かが握られていた。


カードだった。


小さな金属製のプレートにも見える。


遠くてよく見えない。


「回収してる?」


美咲が言った。


その言葉に。


スーツの男が反応する。


「回収……」


男は何か考え込む。


「どうした?」


「いや」


男は黒パーカーを見たまま言った。


「もしあいつが犯人ならおかしい」


「なんで?」


「殺した後に堂々と残るか?」


確かに。


普通は逃げる。


隠れる。


疑われないようにする。


でも。


黒パーカーは違う。


むしろ堂々と姿を見せている。


「じゃあ犯人じゃない?」


美咲が聞く。


「分からん」


男は首を振った。


「ただ」


そこで言葉を切る。


「犯人を探してるようにも見える」


俺達は黙った。


そんな発想はなかった。


黒パーカーが犯人。


そう決めつけていたからだ。


その時だった。


遠くで悲鳴が上がる。


補給地点とは別方向。


全員がそちらを見る。


道路の向こう。


誰かが走っていた。


追われている。


後ろには別の参加者。


能力者なのかもしれない。


だが距離が遠い。


よく見えなかった。


「またか……」


誰かが呟く。


俺達じゃない。


近くにいた別の参加者だった。


気付けば。


補給地点の周囲には人が集まり始めていた。


誰も近付かない。


誰も戦わない。


ただ様子を見ている。


そんな中。


黒パーカーだけが動いている。


倒れた参加者の近くを歩き。


何かを確認し。


また別の場所へ向かう。


まるで。


仕事でもしているみたいに。


その時。


スーツの男が小さく息を呑んだ。


「どうした?」


「見えた」


男は黒パーカーを見ている。


「能力か?」


「ああ」


男は頷いた。


そして。


少しだけ信じられないものを見るような顔で言った。


「回収」


俺は聞き返す。


「回収?」


「能力名だ」


沈黙。


予想外すぎた。


炎でもない。


雷でもない。


念動でもない。


「回収?」


俺はもう一度聞く。


「回収」


スーツの男も繰り返した。


そして。


小さく呟く。


「なんだその能力……」


黒パーカーは相変わらず死体の近くを歩いている。


まるで。


その能力名が当然であるかのように。


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