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13話

第十三話 回収役


黒パーカーの男が消えた後も。


しばらく誰も動かなかった。


補給地点は目の前にある。


食料も。


水も。


手を伸ばせば届く場所にある。


それなのに。


誰も近付かない。


「まあ、そうなるよな」


スーツの男が言う。


ついさっき一人死んだ。


誰だって慎重になる。


俺も近付きたくなかった。


「でも誰か行かないと始まらないよな」


俺が言う。


「お前行くか?」


「行かない」


即答だった。


男が呆れた顔をする。


「知ってた」


その時だった。


遠くから声が聞こえる。


「罠は一つじゃないぞ」


全員が振り向く。


声の主は年配の男だった。


五十代くらい。


作業着を着ている。


能力者には見えない。


少なくとも強そうには。


「見つけたのか?」


誰かが聞く。


男は頷く。


「さっきの爆発だけじゃない」


周囲がざわつく。


男は地面を指差した。


「線がある」


言われて初めて気付く。


道路の一部。


確かに薄く何かが描かれていた。


遠目には見えない。


だが近くで見れば分かる。


「うわ……」


美咲が小さく声を漏らす。


補給地点の周囲。


いくつもある。


罠だ。


「誰が仕掛けたんだよ」


誰かが呟く。


誰も答えられない。


すると。


年配の男が前へ出た。


「俺が確認する」


周囲が驚く。


だが男は構わず歩き出した。


慎重に。


一歩ずつ。


地面を見ながら。


そして。


無事に補給地点へ到着する。


何も起きない。


歓声が上がる。


男は振り返った。


「見える罠は避けられる!」


その一言で空気が変わった。


今まで動かなかった参加者達が動き始める。


一人。


また一人。


補給地点へ向かう。


「行くか?」


スーツの男が聞く。


俺は少し考える。


食料は欲しい。


水も欲しい。


でも。


なんとなく。


嫌な予感がした。


「俺は後でいい」


そう答える。


「また勘か?」


「たぶん」


男は苦笑した。


「便利だなその適当能力」


「俺もそう思う」


その時だった。


美咲が小さく呟く。


「……あれ」


「どうした?」


美咲は補給地点を見ていた。


正確には。


さっきの年配の男を。


「何か変」


「何が?」


「分からない」


そう言った。


だが。


次の瞬間。


周囲から悲鳴が上がる。


全員が振り向く。


補給地点にいた年配の男だった。


男が突然倒れる。


何かに撃たれたみたいに。


胸を押さえている。


だが。


誰も攻撃していない。


何も飛んでいない。


「なんだ!?」


混乱が広がる。


男は苦しそうに地面を転がる。


そして。


数秒後。


動かなくなった。


沈黙。


誰も理解できない。


俺も分からない。


ただ一つ。


確かなことがあった。


あの男は死んだ。


『現在生存者数』


放送が流れる。


空の数字が変わる。


【962】


【961】


また一人減った。


「ふざけんな……」


誰かが呟く。


その声は。


たぶんその場にいた全員の気持ちだった。あの人を殺した人以外は


補給地点は目の前にある。


だが。


誰ももう近付きたがらなかった。


そして俺は気付く。


さっきから。


黒パーカーの男がいない。


いつの間にか。


姿を消していた。


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