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12話

第十二話 読めない


「能力名が読めない」


スーツの男の言葉に、俺と美咲は顔を見合わせた。


「そんなことあるのか?」


俺が聞く。


男は首を横に振る。


「知らん」


「でも見えない」


「見えないって?」


「本当に見えない」


男は目を細める。


「今まで全員見えてた」


「炎熱も」


「念動も」


「身体強化も」


「全部」


「でもあいつだけ見えない」


補給地点の反対側。


人混みの向こう。


一人の男が立っていた。


黒いパーカー。


年齢は二十代くらい。


特徴らしい特徴はない。


なのに。


なぜか目立つ。


周囲の参加者も少し距離を取っていた。


「強い能力とかじゃなくて?」


美咲が聞く。


「分からん」


男は答える。


「見えないから」


それが余計に不気味だった。


能力名すら見えない。


そんな参加者がいるのか。


その時だった。


放送が流れる。


『補給地点開放まで残り三分』


周囲がざわつく。


今まで動かなかった参加者達が少しずつ前へ出始める。


誰もが食料を欲しがっている。


水を欲しがっている。


能力も欲しい。


でも。


誰も最初には動きたくない。


そんな空気だった。


「絶対面倒なことになるな」


俺が言う。


「なる」


男が即答する。


「なるね」


美咲も頷く。


珍しく意見が一致した。


その時。


補給地点の近くにいた男が叫んだ。


「もういいだろ!」


そして走り出す。


補給地点へ向かって。


誰よりも早く。


誰よりも先に。


「馬鹿!」


誰かが叫ぶ。


次の瞬間だった。


男の足元が光る。


地面に何か描かれていた。


模様。


いや。


文字だ。


そして。


爆発。


轟音が響く。


男の姿が消える。


周囲から悲鳴が上がった。


「……は?」


俺は固まる。


今の何だ。


地雷か。


罠か。


補給地点の周囲には何かが仕掛けられていた。


『補給地点開放』


放送が流れる。


まるで何事もなかったかのように。


『どうぞお楽しみください』


最悪だった。


補給地点は開放された。


だが。


誰も動かない。


さっき一人死んだからだ。


沈黙。


重い空気。


その時だった。


黒いパーカーの男が歩き出した。


誰も止めない。


誰も声をかけない。


男はそのまま補給地点へ向かう。


ゆっくりと。


本当にゆっくりと。


そして。


罠のあった場所を通る。


何も起きない。


さらに進む。


何も起きない。


コンテナの前へ到着する。


何も起きない。


「おいおい……」


スーツの男が呟く。


黒パーカーの男は適当に水を一本取る。


パンも取る。


そして。


そのまま戻ってきた。


何事もなかったように。


誰も声を出せない。


男は俺達の近くを通る。


その時だった。


男が少しだけこちらを見た。


正確には。


俺を見た。


ほんの一瞬。


それだけだった。


だが。


なぜか嫌な予感がした。


男はそのまま人混みの中へ消える。


沈黙。


数秒後。


スーツの男が呟いた。


「今の見たか?」


「見た」


「見た」


俺と美咲も頷く。


「罠を知ってたみたいだったな」


男が言う。


確かにそう見えた。


どこに罠があるか。


最初から分かっていたみたいに。


その時。


美咲が少しだけ顔をしかめた。


「どうした?」


俺が聞く。


美咲は黒パーカーの男が消えた方向を見る。


そして小さく言った。


「なんか嫌な感じがする」


その言葉を聞いて。


なぜか俺も同じことを思った。


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