かくれんぼ鬼ごっこ
「みなさんにはー、これから‟かくれんぼ鬼ごっこ”をやってもらいますぅー」
「・・・」
のりのりで手を振りながら宣言するボニファーティウスには悪いが、みんなの反応はどうも微妙だ。
どうやら彼が何を言っているのかよく理解していないらしい。
「みんなー? ノリが悪いぞー?」
「・・・」
ノリが悪いと言われても、どうしたらいいのかわからない。
生徒たちは困惑気味である。
そもそもボニファーティウスのノリについていける人間など皆無だ。
「もー、いいから説明するねー。これから君達には、逃げる側と鬼にわかれてもらいますー。名前からも分かる通り逃げる側は鬼が一分数えている間に隠れて、鬼が一分経ったら探しだすから、見つかったら捕まらないように逃げてくださーい―。制限時間は一時間! 逃げるときには戦うことも有りー。魔法に剣術なんでも使っていいよー。もちろん鬼も使って良しー。自分の持てる最大限の技を駆使して捕まえてくださいー」
「・・・」
それは鬼ごっこなのだろうか。
「もーみんなひどいー。ワーっ! とかいってくれてもいいのにー。こんな燃えるゲームはそうそうないよー?」
「・・・」
ボニファーティウスがジト目で睨んでも、彼らは黙ったままだった。
どう反応していいのかわからない。
良家のお坊ちゃまたちにボニファーティウスの扱いは辛いだろう。
「さんはいっ!」
「・・・わー」
しびれを切らしたボニファーティウスが煽るように掛け声をすることで、生徒のうちの誰かが小さく歓声を上げた。
お情けである。
「むう、ちょっと不満だけどまあいいかー。じゃあ、とっておきの情報ー。逃げる側には、エリューゼ皇女殿下も参加してもらいますぅー」
「おぉーっ!」
ここで、今日一番の盛り上がりを見せた。
歓声の元となっているエリューゼは、照れたようにはにかみながら、手を振っている。
「エリちゃんを捕まえた鬼にはー、一日エリちゃんと城下町でデートする権利がもらえますー」
「おぉおぉおおお!」
先ほどを越える歓声だ。
しかしこの情報には疑問と不満を抱く者もいる。
「逃げる側になった生徒はどうなるんだよ!」
生徒側から声が上がった。
当然の疑問である。
逃げる側の生徒はなんのメリットもない。
鬼に人気が集中するのは必至だ。
「もうみんな、想像力が足りないなあー」
「?」
「吊り橋効果だよー、吊り橋効果ー」
吊り橋効果とは、高く安定性に欠ける吊り橋を男女二人で渡った時、恐怖によるドキドキを恋のドキドキと勘違いするアレのことだろうか。
今回のこととどう関係するのだろうか。
「鬼から逃げるスリルの中で、自分を庇って戦ってくれる逞しい背中にきゅんきゅん。一緒に隠れて密室で密着。これ以上ないシチュエーションでしょう!」
「お、おぉおおおおお」
ボニファーティウスの言葉に簡単に乗せられる、彼らのお頭は少し軽い。
「吊り橋効果を盛り上げる為に、色々考えてみましたー。捕まった生徒と誰も捕まえられなかった鬼は、僕が主催する地獄のスペシャル特訓に出てもらいますー」
「・・・」
盛り上がっていた生徒たちだったが、ここでいきなり沈黙が落ちる。
ボニファーティウスの言葉が理解できなかったわけではない。
彼が述べた発言があまりに恐ろしすぎて、恐怖のあまり黙ってしまったのだ。
地獄のスペシャル特訓。
その名の通り、それはまさしく地獄だった。
素手で魔法も使わず熊と戦わされたり、伝説の果実を探す旅に出かけさせられたり、紐なしバンジーをさせられたり・・・。
こんなものはまだ序の口だ。
本当の地獄は口にするのも恐ろしい。
「ふふふー。恐怖を抱いてくれましたかぁー? でもそれじゃあ、エリ―ちゃんは恐怖を抱けないので、ここは僕が一肌脱いで魔法をかけたいと思いますー」
「?」
一肌脱ぐ、だと?
ボニファーティウスが何かやるたびに恐怖を抱いてしまう。
頼むから、何もしないでくれ。
十分恐怖は抱いた。
「闇の攻撃魔法‟幻覚”をかけるからー、鬼の姿が個人個人が思う最高に恐ろしいものの姿に見えちゃいまーす―」
「・・・」
そこまでする必要があるのだろうか。
幻覚と言ったら闇の攻撃魔法の中でも最高難易度に位置する魔法だ。
それを逃げる側の生徒全員にかけるというのだから、その労力は計り知れない。
並みの人間なら魔力が枯渇して、死の淵をさまようことになるだろう。
奇人変人でも名門の国立騎士養成学校の校長を任されているのは、その底知れない魔力と剣の腕によるものだ。
「待って下さい!」
「ん? なんだ、ラインかー」
ボニファーティウスの独壇場に待ったをかけたのは、まさかのライオットだった。
エリューゼも想像していなかったため、目を丸くしている。
「話を聞いていると、エリューゼ様を戦いに巻き込んでしまうようですが」
「ああ、勿論エリ―ちゃんへの直接攻撃はなしだよー。そんなことしたら首が飛ぶからねー」
「それは当然です。そうではなく、僕たちが戦うということはエリューゼ様を傷つけてしまう可能性があるのではないかということをいいたいのです」
「ライオット様・・・」
エリューゼは感動していた。
ライオットが自分のために、(恐らく)生理的に受け付けないであろうボニファーティウスに意見を申している。
ゲームではこんなシーンは描かれていなかった。
ゲームとは違いエリューゼが全く戦えない存在であるということが、彼の行動に大きく影響していることは確かだ。
恋愛感情は抱かれていないが、大切にされていることは確かだ。
皇女としてではあるが。
大切に思われないより、一億倍はマシである。
「そーだけどー・・・」
「ルールの改変を希望します。魔法も剣もなしの普通のかくれんぼ鬼ごっこにしてください」
「えー、でもー、吊り橋効果がー」
「それでエリューゼ様を傷つけでもしたらどうするのですか」
「えー。でもルール変えたくないしー」
「駄々っ子ですかあなたは」
「駄々っ子でもいいですー」
「いいですか、エリューゼ様を傷つけるという事は・・・」
いつまで経っても終わりそうにない。
普段ライオットは極力ボニファーティウスに近づかないようにしているが、ここぞというときには強く反抗できる。
ボニファーティウスに対抗できるのは彼しかいないだろうと、周りから密かに期待されてたりする。
「そもそも幻覚をこんなことに使うなんて馬鹿らしすぎます」
「えー、どこがー?」
「闇の最高魔法ですよ。魔力消費も甚大です。そういった魔法は使うべき時を考えるべきです。それにエリューゼ様に攻撃魔法を仕掛けるだなんて・・・!」
「その方が盛り上がるじゃんー」
「盛り上がる盛り上がらないの話ではありません」
「もー、ラインは頑固だなあ」
「あなたが相手でなければこんな風にはなりませんよ」
ライオットも、ボニファーティウスと関わると口うるさくなるようだ。
彼はキャラに新たな一面を出させてくれる。
しかし、このままでは話が進まない。
エリューゼはもう少し、いつもは見られないライオットの一面を見ていたかったが、意を決して話しかけることにした。
「あの!」
「! エリューゼ様・・・」
「エリ―ちゃーん! ラインがいじめるよぉ」
「あ・な・た・は」
「ライオット様、落ち着いてください」
話が脱線してしまう為、ライオットを落ち着かせる。
こんな興奮している彼は、ゲームでも見ることがなかった。
これがゲームと現実の違いという奴なのだろう。
こんな一面を見ても、ライオットへの愛が途切れることはない。
むしろその新たな一面は歓迎すべきものだった。
(あーん、私もそうやって言葉攻めにしてほしいぃいい)
変態は揺るがない。
「ライオット様、私のためにありがとうございます」
「いえ、当然のことをしているまでですよ」
エリューゼと対するときは、いつもの物腰柔らかなライオットの姿だ。
「ですが、いいのです。皆さんが戦う姿を間近で見られるという事は、とても意味があることのように思います」
「エリューゼ様、騎士選定のために挑む姿勢は大変素晴らしいものだと思いますが、ご自分をもっと労わってください。あなたという人はたった一人しかいないのです」
「ありがとうございます。その気持ちで十分です。大丈夫です。私は攻撃魔法はからっきしですが、治癒魔法は得意です。皆さんがどんな怪我をしても治してみせますわ」
「エリューゼ様、私たち生徒の怪我のことはどうでもいいのです。ご自身では自身の怪我の治療はできないのでしょう? 怪我が一生残るものだったらどうするのですか」
「それは」
「だから、守ればいいんだろう?」
エリューゼが言い返そうとした時に、横から乱入者が入ってきた。
(誰だ、ライオット様との至福の会話タイムを邪魔するやつは!)
エリューゼがライオットから目をはなし横を向くと、肩に手が添えられている。
その手の先を見ていくと、そこには不敵な笑顔を称えたカールフリードリヒがいた。
「カール様・・・」
(さ・わ・る・な!)
エリューゼの心の中の叫びは届かない。
「ライオット、お前はエリを守る自信がないのか」
「そんなことはない。ただ、エリューゼ様に万が一傷ができてしまった場合を考えているだけだ」
「それが自信がないっていってんだよ。俺は何からだってエリを傷つけない」
「その驕りが大切なものを失うことに繋がるのだ」
いつもならカールフリードリヒの絡みにはかわすように接するライオットだったが、ボニファーティウスとの会話の影響からか、今日はカールフリードリヒの言葉に突っかかっていった。
自分が原因でライオットが熱くなっているということは燃えるものがあるが、やはりこのままでは話が進まない。
エリューゼは、再び二人の間に入った。
「お二人とも、言い争いはそこまでにいたしましょう。今日は楽しい交流会です。みんなで楽しみましょう」
「エリューゼ様・・・」
「エリ」
頬笑みを浮かべて二人を止めるエリューゼに、二人は口論を止める。
自然に、肩からカールフリードリヒの手をはなし、二人の手を握る。
「ねっ?」
華も霞んでしまうほどの笑みに、二人は何もいうことができない。
ただ、エリューゼの顔を見つめる。
(ここで顔を赤くしてくれるといいんだけどなぁー。さすが幼馴染、免疫ができたか)
「ですが・・・」
まだ言い募ろうとするライオットに、エリューゼはカールフリードリヒと繋いでいた手をはなし、人差し指を立ててライオットの口元に近付ける。
決して唇と手は触れ合わさない。
本当は触れたくてしかたないのだが、こうゆうところは潔癖なライオットには触れてしまったら減点だ。
「ね?」
「・・・はい」
小首を傾げて、儚げな表情で微笑むエリューゼにライオットは何も言えなかった。
何でも願いを叶えてあげたくなってしまう表情というものを習得するのに、さすがのエリューゼも時間がかかった。
こうゆうものは連発するのではなく、ここぞというときに使うのが効果的だ。
さて、エリューゼがライオットの意見に逆らってまでボニファーティウスの意見を擁護するのには理由がある。
(吊り橋効果! 吊り橋効果!)
エリューゼも思いっきり吊り橋効果を期待していたのだ。
ゲームではレオンスは教官なので参加しないとして、残り三人が鬼にまわるか逃げる側にまわるかは記載されていた。
しかし、その時ライオットがどちらになっていたかは書かれていなかったのである。
鬼だったらライオットに捕まってデートするし、逃げる側だったら吊り橋効果を期待する。
どう転んでも自分の有利になるように行動していたのだ。
「一件落着ー、ということで・・・」
今まで黙っていたボニファーティウスが、決着がついたのを見計らって声をかけてきた。
「鬼か逃げる側か、くじを引いてもらいまっショー」
はてさて、結果は・・・?
ライオット補充




