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【外伝】闘技と迷宮の都ヴァルガイル

 王都から遥か離れた地にヴァルガイルと言う都市がある。


 古くから続く歴史を持つこの都市は辺境の一都市という言葉では語れないほどの規模を誇っている、その発展を支える大きな要素は二つある。




 一つは北方へと繋がる超巨大ダンジョン。


 内部は奥へ進むほど危険度が増していくが北方へ向かうための数少ない足掛かりでもある、極稀に北方からの来訪者もこのダンジョンを通ってくる事があるのではと囁かれている。


 モンスターは勿論多数生息している、特にゴーレムや自動形と呼ばれる血肉を持たない種族が多く存在する事が特徴だ、さらにここには貴重な資源や不思議な力を持つ道具などが多数眠っており技術や秘儀を求め多くの冒険者や商人がこの街へ集まっている。



 そしてもう一つ、ヴァルガイルを象徴するものが街の中心にある巨大な闘技場コロシアムだ。


 幾重にも積み重なった石造りの観客席と規模の異なる複数の試合場を備えたその施設、連日のように熱戦が繰り広げられている。

 王国内だけでなく国外にもその名を知られるほどの人気を誇り、響き渡る歓声は街全体を包み込んでいた。


 北方への玄関口と、剣闘の聖地、通称闘技と迷宮の都ヴァルガイル。


 その二つを抱えるこの都市は辺境にありながら王都に匹敵する活気と規模を持つ大都市となっていた。








 ※






 そんなヴァルガイルのコロシアムへの参加権を得るために現在闘士希望の者たちが死闘を繰り広げていた。




 舞台の中央に無数の岩塊が唸り声を上げながら這い出してくる、石造りの巨体が転がるように動き鈍い震動とともに参戦者たちへと迫っていく。




「くそっ、思ったより速い!」




 一人の男が慌てて剣を振るいながら後退する、岩の巨体は緩慢だが時折見た目からは想像の付かない加速を見せる。




「えっ…!!!」




 鈍く大きな音と共にそれに気づかず突っ込んだ数名は早々に岩塊の体当たりを受けて舞台の端まで吹き飛ばされていた。



 本会場とは比べるべくもない粗末な作りだが規模だけは決して小さくない、石造りの円形舞台に新規参戦者たちが一斉に放り込まれる、選別のためのバトルロワイヤルだ。



 岩塊のモンスターの攻撃をやり過ごす者、岩の繋目を的確に攻撃する者、制限時間まで生き延びれそうな参加者は僅かながら居るが大多数はそうではなかった。




「うわああああ!」


「た、頼む、やめてくれ……!」




 悲鳴混じりの叫び声があちこちで上がる、武器の扱いすらおぼつかない者たちがただがむしゃらに逃げ回り、あるいはあっさりと弾き飛ばされていく。


 それでも脱落だけは避けようと無様にもがき続ける姿が舞台のあちこちに広がっていた、そんな凄惨な光景を舞台の隅でコロシアム運営の男が退屈そうに見下ろしていた。




「いつも通りだな」




 呟く声には感慨も同情もなかった、戦う覚悟を術を備えている者だけが命を拾い栄光だけを夢見ていた者はあっけなく振り落とされる。


 参加権の時点で振るい分けをされるがここからさらに多数の闘いがある、この選別こそコロシアムという舞台に真の強者と熱狂を創るのだ。




「しかし最近は妙に素人が多くないか?」




 隣で記録を取っていた同僚が、舞台を見下ろしながら苦笑した。




「多いな武器を握ったことすらないようなのも混じってる」


「正気じゃないよな…まあ最近は後先なくて破れかぶれで来てる奴も多いらしいが」


「景気が悪いって話か?」


「悪いっていうより追いついてないんだろ、国も村やら都市やら開拓を広げてるって話だが一歩郊外に出ればモンスターはうじゃうじゃいるからな…そう直ぐ出来るもんじゃない」




 男は舞台の上で必死に逃げ回る若者たちへ目を向ける。




「それにランクが上がればこの都市で暮らす権利が得られるだろ?」


「まあな、それを目当てにもしてるのかもな」


「もっとも」




 男は岩塊に吹き飛ばされる参加者を見て、呆れたように息を吐いた。




「こんな石ころ程度にやられてちゃ話にならんがな」


「違いない」




 二人は小さく笑い再び舞台へ視線を戻した。








 ※






 岩塊や土に鉱物など無機物系と呼ばれるモンスターがいる、大陸のどこにでも生息しており多くは刺激さえしなければ大人しい性質を持つとされている。


 が、なぜかこのヴァルガイル周辺に湧く個体だけは揃って気性が荒かった、学者の一部には古く続くコロシアムが周囲の魔物の性質を歪めているのではないかという説を唱える者もいる、だが今この舞台においてはそんな由来など誰も気にする余裕は無かった。




 会場の片隅で粗末な武器を手にした若者たちが身を寄せ合うようにして戦っていた、彼らはストリートチルドレンだったり農家の三男四男だったり似たような境遇の仲間たち数人だ。


 何も持たない故に助け合って生き延びてきた連携だけはありなんとかここまで持ちこたえてきた、しかし。




「くそ、こんなの倒せねえよ!」


「そんなこと言ってる場合じゃ…うわあっ」




 一人がなんとか受け止めた岩塊の突進に体ごと弾き飛ばされる、仲間が慌てて駆け寄るがその隙を突くように別の岩塊も迫ってきた。


 どうしようもない地力の差に徐々に連携が崩れていく、限界が近いことは明らかだった。




「もう、駄目だ…」




 絶望混じりの叫びが上がったその瞬間だった、ふわりと優雅とも呼べる動きで一つの影が滑り込んできた。




 クラシカルなメイド服を纏った小柄な影、その手に握られているのは他の参戦者たちと変わらぬ支給された粗末な物、しかし次の瞬間に繰り出された一閃は無駄のない軌跡を描いた。




 槍の穂先が岩塊の脆い継ぎ目を正確に捉える、乾いた砕ける音とともに岩塊はあっさりと真っ二つに割れて崩れ落ちた。


 砂埃が舞い上がる中、少年たちは呆然と立ち尽くしていた。




「え、おい嘘だろ…?」




 一人の少年が声に出して辺りを見回す、釣られて仲間の少年たちも首を回せば舞台にあれだけいた岩のモンスターが全て居なくなっていた、あるのは砕かれた岩塊だけ。


 自分たちが生き残ることに必死になっている間にいつしか周囲の岩塊は全て消えていた。




「これで、よろしいですか?」




 いや正確には全て倒されていたこの小柄な存在に、彼女は槍を下ろすと舞台の外にいる見張りの男へ声をかけた。




「え?あ、ああ…そうだな、問題無い合格だ」




 小柄な闘士は小さく頷いた。










 ※








 少し前の出来事、受付でメイド姿の少女がコロシアムへの参加を申し出ていた。




「…今から参加したい?」


「はい」




 コロシアムには様々な人種が来るし女性だろうが子供だろうが申し込み可能だ、しかし。




「悪いがもう始まってる、途中参加は認められないんだまた次の機会にしてくれ」


「そうですか、では」




 その言葉に少女は反論する事も無くあっさり引き下がった、だが、受付係は舞台へ視線を向けた。




「あ、いや、一応規則として言うが係に力を証明できるならいいんだ、そうだな…例えば今からならあの石くれを全部倒すとかできるなら合格にしてもいいかな、ま、本気にしなくても」


「そうですか」




 事実ではあるが冗談半分の受付の呟きを聞くとその後少女は真っすぐに舞台に向かった、そして落ちていた脱落者の落としていた粗末な槍を拾い…そうして成し遂げたのだった。




「………………」




 呆気に取られる視線などお構いなしにその闘士、メイド服の槍使いは槍を軽く払うようにして一振りし付着していた砂粒を払い落とした。

 一連の所作には一切の乱れがない、全てのモンスターを狩った後なのに息一つ上がっていない、優雅な佇まいだけがそこにあった。






 ※






 少年は荒い息を整えながらその闘士の姿を見る。




 クラシカルなメイド服はコロシアムと言う場にはアンバランスだが土埃に血痕が散乱する中純白のそれは神聖にも見える。


 肌は異様に白く光を弾く独特の光沢がある、 よく観察すれば目も人とは違って見えるしメイド服すらそれは一般的な服の素材ではない




(アレは…金属…?全部金属じゃ…?)




 少年が混乱する中闘士は緩やかな足取りで舞台を降りていくのだった。




「た、助かった!」




 別の少年たちが口々に安堵と驚きを漏らした、その言葉に思考を遮られる、それでも一人の少年は去っていく小柄な闘士の背中をじっと見つめていた。




「なあ」


「なんだよ?」


「あれ、本当に人間か?」


「は?」


「何の話だ?それよりこれで俺達闘士だよ!やったぜ!」


「……いや、なんでもない」




 そう呟き少年は首を振る、今は生き残れたことを喜ぶ方が先だった、一人冷静な少年は今は最初の一歩を踏み出す権利を得た幸運を生かそうと仲間に笑いかけるのだった。




 ※




 受付は舞台を降りて去っていく小柄な闘士の背中を見て慌てて声をかけた。




「おいちょっと待ってくれ!順番が前後しちまったが…まあ細かいことは後々でいいからとりあえず名前だけ登録してくれ」




 小柄な闘士は足を止め、ゆっくりと振り返る。




「…………」


「名前は?」


「ルナ」


「……ルナ、だな、それで登録しておく」




 ルナはそれ以上何も言わず再び歩き出した、劇的な登場からここまで彼女の表情は一つも変わらなかった、彼女が去ってから受付の人間が同僚と話し出す。




「さっきのメイドお前知ってるか?」


「見た事も聞いたこともねえよ」


「だよな、あの動きでメイド服なんか着てる奴なんて居たら名前くらい広まるだろ」


「じゃああんな動きをする全くの新人がいきなり湧いて出て来たのか?」




 多くの闘士を見て来たコロシアムの人間から見て、先ほどの闘士の動きはコロシアムで名を上げたい新人と違う事は一目瞭然であった。




「まあそれしかないだろ…だが…普通じゃないのは間違いない」


「でも全く無名なんて………なら、まさか北方…?」


「………………」


 それきり二人は押し黙る、その言葉がどれだけ重いのかはこの王国に住む者なら子供でも解る事実だ。




「これは、報告した方がいいな」


「ああ」




 受付達はそう神妙に呟き奥へと戻っていった。

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