旅立ち
岩肌の広がる殺風景な景色、険しい岩肌、切り立った崖、立ち並ぶ山脈。
今日も変わらず険しい自然がアイゼンシュタイン山脈にあった、そこに今4人の人影が並んでいる、鉱域に足を踏み入れた時と比べて一人増えたケイオス達、来た当初にあった緊張感や不穏はそこにはもうどこにも見当たらなかった。
振り返れば遠目に少なくない日数を過ごしたあの鉱山の街が見えたる、荒くれた活気と静かな秩序が同居するあの街並み、屋敷と鉱山での死闘、忘れがたい記憶を残した場所だった。
彼らが立つ道は三方向へと分かれている、その分岐点に、ガレオ、ケイオス、レイラとミアラ、四人が並んで立っていた。
「やっぱ、寂しくなるね」
ミアラがそう言いながら少し名残惜しそうに三人の顔を見回す、血色の戻った頬、力強さを取り戻した足取り、あの重傷が嘘だったかのような回復ぶりだった。
「もっと皆で一緒に居てもよかったのに」
「はっはは、それくらいで別れる方がいいんだよ、ずっと一緒にいると面倒くさくなるもんだぜ」
「目的が違うなら、なおさらな…もう依頼も終わったんだ」
レイラとケイオスが淡々と付け加える、レイラの妹を助けるという目的は果たされており、さらに彼らには別々の道を歩む理由が十分にあった、それでも今の彼らの言葉の端には少しばかりの惜しむような色が滲んでいた。
ガレオは強くなるための術を知った、これからは武者修行のための一人旅を選んだ。
「お前たちと一緒じゃ甘えすぎちまうからな、少しは骨のある死線を自分で探しに行ってみるさ」
ミアラとレイラは故郷へ戻ることを選んだ。
南方には二人の一族が多く暮らしており戻る意味は大きい、聞く話母や父他にも多数の同胞が二人が捕らえられた時には別の場所にいたらしく、無事である可能性もまだ残されている、戻る意味は十分すぎるほどであった。
しかし王国から南方へ続くルートは誰でも利用できるような道ではない、相応の金や伝手が必要になる、さらに最近では南方が妙に騒がしいという噂も街でちらほらと耳に入ってきていた、まず二人は王国内を巡りながら情報を集めることにした。
「お前の名があるからな、王国に堂々と留まっていても何も問題はない」
レイラはそう言ってミアラの首元へ視線を向ける、かつては拘束の証でしかなかったその首輪も今のミアラにとってはむしろ誇らしげに見えるものへとわっていた。
※
「俺は首都に行く、この国は知れば知るほど俺の故郷の面影がある…だからこの国について詳しい連中が一番いる場所に行く」
そしてケイオスは首都、王国の中心に向かう道を選んだ。
※
別れの気配を誰もが察する中ケイオスが明るい声で言う
「って言っても、そもそもここで一生のお別れじゃないだろ首都以外だって行ってみたいし南方だって興味もあるからな」
「絶対ね!」
「お、おう」
「歓迎しよう」
「ただそこまで悲観しなくていいんじゃねえか?ミアラの首輪があるだろ?」
「?」
「その手の証明系のマジックアイテムはな、常に情報が新しくなるんだ勝手にな」
「これそんな凄いんだ…」
「で、もっと言うとその手のアイテムは目印、情報を発信する機能もあるんだ」
「つまり?」
レイラが思わせぶりなガレオに問う。
「ケイオスの持ってるカードとミアラの首輪…その二つがあれば遠くても情報のやり取り、つまり遠距離での会話なんて芸当ができる………らしい」
「おお!」
「それは…!?」
「いやなんで曖昧なんだよ」
「俺も聞いた話だからだ、そういうのは国軍だの商業ギルドだの真っ当な連中の管轄、俺なんかにゃ専門外だ」
王国における基本的な連絡手段はあくまで手紙や直接の書状のやり取りが主流である、しかし都市部に置いてそうした仕組みが開発、整備されているという話をガレオは聞き知っていた。
「そっか、よくわかんないけど…これで話してくれるの待ってるからねケイオス!」
「あ、うん、期待しない程度にな」
(つまりは電話か、この世界これだけ進んだ技術もあるのに電話はまだなかったのか…アルカディアだったら通信手段なんていくらでもあったよなUIでも外部ツールでも幾らでも)
内心で呟きながらケイオスはその事実にふと気づく。
(アルカディアなら、か)
この世界がアルカディアと大きく関係している事が見えてきた、しかしはっきりとアルカディアではない決してないだろう事実。
視線を自分の手のひらへと落とす、小さく、白く、華奢な指先、可憐な少女の手、だがそれは擬態の姿であり正体は巨躯のキメラ合成された獣それがケイオスだ。
(でもあの姿すら…本当に俺と言えるのか?現実の俺はどうなってるんだ?)
草原に迷い込んだあの日からずっと考えないようにしてきた疑問、これまでわざとらしく人に聞こえるようにあえてゲーム用語を呟いていたのは意図的な事であった、そうでもないと自身の存在すら疑わしい不安、全ては不安定なアイデンティティを覆い隠すための鎧。
「ケイオス」
不意に名を呼ばれケイオスは我に返る、レイラが怪訝そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
「なんでもない…これから一人旅だからかもな、あまり考えない事を考えてた」
「…たまにお前は考え込むからな」
出会った頃と変わらず言葉は少なめなレイラ、だがその言葉には当初とは全く違う重さがある
「何処に居ようともし力が必要になれば迷わず頼れ、駆け付けてやる」
「助かるよ………お前と会ってから色々あったよな」
草原での出会いこの世界の右も左も分からなかったあの頃、レイラの依頼を受け、ガレオと出会い、ミアラを見つけ出すまで驚くほど多くの出来事が詰まっていた。
「…本当にな」
レイラも静かに頷いた、その言葉にはこれまでの旅路への静かな感慨が込められていた。
「そうだな……よし、レイラ、ちょっとこっち来てくれ」
「……何だ?」
「知っての通り俺は可愛い俺が好きだ」
「そうだな」
「しかし別に自分だけって事でもないんだ…別れる前に力を貸して貰おうと…」
そう言うが早いかケイオスの小さな手が、レイラの頭に伸びた。
「なっ!?」
「ふふふ、一度はこうして見たかったのさ!」
わしゃわしゃとかなり乱暴な手つきで頭を撫で回す、それだけでは終わらず、ぴくりと動く耳を摘むように触られ、やや長めの鼻先まで無遠慮な手つきで撫でられていく。
毛並みを逆立てるようにかき混ぜられレイラは思わず身をよじった。
「お、おい、待て、何を」
「わしゃわしゃわしゃわしゃ」
抗議の声を上げるがケイオスは、まるで聞いていないかのようになおも手を止めない、そこにはこれまでのケイオスとはまた違う無邪気さが滲んでいた。
「くっ、こら、いい加減に……!」
「ははははははははは」
半ば呆れ半ば戸惑いながらもレイラは何処までも楽しそうなその姿に強く振り払うことができずにいた、日頃のケイオスを知っているからこそこの振る舞いにどう対応していいのか分からなくなっていた。
「は、ひょっとしたら本当に見た目相応なのかもなあいつは」
「ふふふ」
「…………よし、満足!」
「やれやれ…未だにまだお前が解っていなかったようだな」
ひとしきり撫で回した後ケイオスは満足げに手を離した、呆れた口調乱れた毛並みを整えるレイラを尻目に、それから少しだけ声のトーンを落として続けた。
「レイラ、俺を対等に扱ってくれてありがとよ」
「うん?ケイオス…?」
さらりと告げられた言葉、しあkしそれ以上の説明を加えることもなく、ケイオスは背を向けてその場から歩き出した。
(もしここに来た時、何の当てもなくさ迷ってたら、依頼を受けてこいつらに会ってなかったら今の俺ではなかっただろうな)
そういった確信をケイオスは抱いていた、レイラという対等に言葉を交わし旅路を共にした存在、それがあったからこの不安定な世界の中でも自分自身を見失わずに済んでいたと
「じゃあなレイラ、ガレオ、ミアラ、またどっかで会おう」
振り返らず告げるその言葉には確かな感謝が込められていた、そうして離れて行く小さなその後ろ姿、レイラたちはしばらくの間黙って見送り続けていた。
「…では、お前も息災でな」
「そっちこそ」
「お元気で」
ケイオスの背中を見届けるとレイラとミアラ、そしてガレオもそれぞれの方向へと静かに歩き出していった。
これ以上言葉を重ねる必要はなかった、仲間として過ごした証と再会への可能性その二つさえあれば十分すぎる、三つの影がそれぞれの道へと確かな足取りで伸びていった。
※
輸送団の襲撃、謎のモンスターの存在。
悪名高い盗賊団の壊滅。
ヴァルガイルで起き始めたスター選手や新気鋭の探索者。
アイゼンシュタイン鉱山の新しい動き。
南方で起きた異例の事態。
かの有名な領主より後援を認められた、新たな存在。
それらの報せはどれも局地的な出来事の一つに過ぎない、それらは決してばらばらの偶然などではない事にまだ誰も気づいていない、しかし王国の広大な版図の中で着実に大きなうねりの兆しがそこかしこに芽生え始めていた。
※
「さ…それじゃ始めるか、冒険者ケイオスの冒険を」
一人になり小さな寂しさと正真正銘自分の目的へ進む高揚、そのどちらも抱えてケイオスは顔を上げる、その目には確かな光が宿っていた。
「行先は…交易都市…グランヴァレスト、通称首都への門、か」
【第一部・完】
各人物のアライメント
ケイオス(素)
【中立・混沌】
ケイオス(擬態)
【善・混沌】
レイラ
【中立・混沌】
ガレオ
【中立・中庸】
ミアラ
【中立・中庸】
ヴィルフリート・アイゼンシュタイン
【中立・秩序】
ヴォルフガング・フォン・アイゼンシュタイン
【中立・秩序】
ルナ
【中立・中庸】
エルミナ
【善・混沌】
ボルツ
【悪・秩序】
その者の社会への接し方、生き方
・秩序
法、規則を守り必要だと感じる者、組織人
・混沌
体制やルールに縛られるのを嫌う、自由人
・中庸
どちらとも適度に遵守し柔軟に動く者。
その者の性質や性格
・善
利他的。己を顧みず、他の生命に尽くす者
・悪
利己的。他の生命を脅かし、尊厳を汚す者
・中立
善悪のどちらにも振れ得る者
【補足】
アライメントは月日や経験で変わる事もある。
善と悪の定義は多々あるが、アルカディアに置いては『他の生命を尊重するか否かが』が重要視される。
同じアライメントだからと言って気が合うとは限らない、善と悪の人間が行動を共にすることも珍しくない、だが秩序と混沌の人間が共にしている事は珍しい。
・一部の人間のレベルとステータス
レイラ・ヴァンシャ
種族:獣人
性別:女性
取得レベル
猫獣人Lv.8
戦士Lv.8
剣士Lv.4
他幾つか
総Lv.26
ガレオ
種族:人間
性別:男性
取得レベル
戦士Lv.6
剣士Lv.10
盗賊Lv.3
他幾つか
総Lv.27
ヴィルフリート・アイゼンシュタイン
種族:人間
性別:男性
取得レベル
魔法使いLv.10
上級魔法使いLv.3
貴族Lv.6
人形使いLv.8
他幾つか
総Lv.34
エルミナ
種族:人間
性別:女性
取得レベル
メカニックLv.8
探索者Lv.3
人形使いLv.1
総Lv.12
※
王国に置ける一般的な人のレベルはほぼ1か2。




