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天変地異

 

 そこからは拳の応酬と呼ぶことすら躊躇われる光景だった。


 金色のゴーレムが拳を振るう度。



 ズドォンッ!!!!!




 一撃が空気を震わせ衝撃が周囲へと叩きつけられる、避けた拳が地面を掠めるだけで大地が砕ける。


 ケイオスが受け止めれば大地には亀裂が走る、僅かずつだが地形が変わっていく様はまるで天変地異だ。


 この地を襲う災厄を前にした時だけ扱う事が許される遺物、それはあのワームすら討ち果たし得る力を持っている、その拳が嵐のように繰り出される、だが。




「ハハハッハ!いや楽しいな!正直こういう事が出来る相手がいるとは思わなかった!」




 ケイオスは笑っていた。


 巨大な拳が迫れば僅かに身体を傾け紙一重で拳を外す、手のひらで軌道を逸らす。


 横から迫れば腕をぶつけて弾く、真正面から迫る一撃には両手を添えて受け止める。


 時には腕で受け止め、時には肩で受け、時には身体を僅かに沈めるだけで拳を頭上へ逃がす。


 そしてある一撃で巨拳を受け流しその勢いを利用して身体を回転させる。




「そらっ!」




 音の何倍以上の速さかその右腕を引き絞った、異形の巨体から放たれた右ストレートが真正面から金色のゴーレムの拳を迎え撃った。




 フォヴバキッ!!!!




 それまでとは違う音、金属が破裂する様な鋭い音。


 ゴーレムの拳が僅かに弾かれその衝撃が腕から肩へと伝わっていく、ケイオスの拳が触れた箇所から金色の表面に細い亀裂が走った。




「あっ…やっちまった…この感じだと俺から攻撃はしない方がいいか」




 まるで失敗したかのような抜けた声、その言葉を聞いたヴィルフリートの背筋に冷たいものが走った。


 このゴーレムに亀裂を入っただけでも理解の範疇を越えているがそれ以上に。




(こいつは…今ですら本気ではない)




「ん?まあ安心しろよそいつが弱い訳じゃない、作った奴が本来の状態で呼び出したら俺だって全力出さないと死ねる…ただ相性的に俺がやや有利かな?」






 絶句する姿に気づいたのかケイオスがそう伝える、だがその言葉がヴィルフリートに届くことはもうなかった。


 とうの昔に限界を超えていた意識と目の前の非常識な光景、霞んだ視界の中でゴーレムを維持する事だけで限界だった。




「よし、じゃ最後に一度だけ派手なのをっ!」




 ケイオスが拳を握る、その拳へ異常なほどのエネルギーが集まり始めた。


 周囲の空気が引き寄せられ拳を中心に空間そのものが歪んでいく。光とも炎ともつかない力が凝縮され、まるで握り込んだ拳の中に世界の一部を押し込めているかのようだった。




「次元拳《Dimensional Fist》!!!」




 幾度かの衝突で動きの鈍っていたゴーレム、その体の中心までカタパルトのような速度で踏み込み向けて拳を振り抜いた、ただその拳は直接は触れずゴーレムの直前で振りぬかれ集約されていた異常なエネルギーが直前で爆発する。



 瞬間、空間が歪んだ。



 世界そのものを力任せに捻じ曲げられたかのように、ゴーレムの周囲の景色が大きく湾曲し金色の表面には次々と亀裂が走っていった。




「流石に完全に砕いたら勿体なさ過ぎるからな」




 歪んだ空間が収まるとともにゴーレムの巨躯が大きく吹き飛ばされる、その衝撃に耐えきれなかったヴィルフリートの体が力なく崩れ落ち、そのまま意識を失う同時に巨躯はかき消えるように姿を消した。




「……………」




 ばたりと地面へ落ちたヴィルフリートの手の先から、ころりと小さな物体が転がり落ちたそれは初めに懐から取り出した時のあの小さな形のゴーレムであった。


 そして、何事もなかったかのように、歪んだ空間が元へ戻り、先ほどまでの大地を揺らすような響きも消え、後には荒れた大地だけが痕跡を語るように静かに残っていた。






※







 黄金のゴーレムと繰り広げられた天変地異にも似た激突が終わり重い足音を立てながらケイオスが戻ってくる。



 ガレオもミアラも言葉を失ったまま立ち尽くしていた、初めて目にする本来の姿、先ほどまでの自分たちの知る闘いからかけ離れた圧倒的な光景、呆然としたまま二人の口からは何一つ言葉が出てこない、そんな中レイラだけがごく普通の調子で声をかけた。


「ケイオス」


「おう」


「これで今度こそ帰れるな」


「……………ああそうだな」




 ケイオスは一瞬きょとんと巨大な目を瞬かせそしてそう答えた。




「そういう訳でガレオ、ミアラ、俺はケイオスね、そういや言い忘れてたわ」


「いや無理があるだろ!」


「……………」




 ガレオは大声で突っ込みミアラに至っては声すら出せずただ大きな瞳で巨躯を見上げている。




「まあ気にするなどっちも俺なのは変わらん」


「気にするなで流すにはでかすぎると思うぞ?」


「あ、あの可愛いケイオスちゃんが…」


「気にするな。以前の姿でも今の姿でも、ケイオスは何も変わらない」


「…そういう事だ」




(今の姿をガレオとミアラに見せるのは初めてな訳で)




 ケイオスは内心ではいくらか気まずさを覚えていた、だが、レイラは分かっているのか分かっていないのかこれまでと変わらない態度で答えた、その普段通りが今のケイオスには何よりありがたかった。





※





 そうして四人は今度こそ何の妨害も無く来た道を戻り始める、道すがらケイオスの巨躯はするりと輪郭を崩すように縮んでいき瞬く間にあの幼い少女の姿へと戻っていった。




「屋敷の連中にはあの姿じゃ俺って分からないからな」


「……まあ、俺はそっちの方が見慣れてるから落ち着くな」


「ああ可憐なこの姿の方がいいというのはしょうがないからな…」


「お前は何も変わらん、その姿でも、な」


「ね、姉さん…」


「ははははは」




 レイラの辛辣にも聞こえるその言葉の奥にあるものをケイオスは理解していた。姿が変わろうと身体の大きさが変わろうと、レイラにとってケイオスはケイオスなのだと。


 帰り道、元来た一本道の通路へ戻る途中四人は宿場を横切った、ヴィルフリートの指示によって住民たちは皆建物の中へ閉じこもっているのだろう、通りには人影がほとんどなかったそんな時いくつかの扉が開く。




「レイラ……!」


「無事だったのか?」




 気配を察したのか姿を現したのはレイラと同じ一族の者たち、故郷の同胞の顔を見てレイラも僅かに目を細める、そして彼らの視線はすぐにミアラへ向かった。




「ミアラ……!?お前も無事だったか!」


「よくあそこから無事だったな!」


「まあな、ああそれとミアラはここから出ていく」


「な…!それは……ミアラは自分を買い戻した、ということか?」


「あ、うん、そこの子…いや、ケイオスに姉さんが依頼して…」



 ミアラが無事に戻って来ただけではなくここから出ていくという、急すぎる話ににわかに辺りが騒がしくなる、そこで同胞の一人が意を決したように口を開いた。




「なあレイラ…それなら俺たちも連れてってくれないか?いや今の俺達ならいっそここから逃げ出せ…」


「必要ない、面倒事をこれ以上起こして、ミアラに影響を出したくないからな」


「………………」


 先の言葉を言わせない様にレイラは言葉を重ねる、鉱山の入り口の辺りには倒れ伏したままのヴィルフリートがいる、気絶しているだけでいつかは目を覚ますだろう。


 結局、先ほどの戦いもあの場にいる者たち以外は誰も知らないこのまま出ていけばそれで今度こそ取引は終わる、ただでさえ無理を押して今秘匿の鉱山に居る以上面倒事を作りたくないというのがレイラの心情だった。



「ヴィルフリートは…強かった、少なくともこの地を支配するに十分なほどにはな、ミアラは契約に基づいて正当に取り返した、奴の管轄を不当に触る気はないし今のお前たちにはここが相応しい」


「な…っ!」


「レイラ、その言い方はないだろう…!」


 途端に空気が険しくなる、それでもソレを告げたレイラの声にはどこか複雑なものが混じっていた。


 強者に従う南方の理屈、それに異論を唱える気はないが其の末路が今の牙の抜けた目の前の同胞達だ、情はあるが洞窟でも恐れをなして逃げ出すあの様の今の同胞を助けようとはとてもならなかった。




「…だが、ミアラだってその人らの助けがなければ無理だったんだろう?」


「そうだお前だって結局は助けてもらったんじゃないか!」


「……………」




 揶揄する言葉にレイラは何も言い返さない、自分もまた幾度となく助けられている、それを否定することはできないと黙ったままその言葉を受け止めていた。




「違う」


「っ」


「俺とレイラは対等だ、初めから今までずっとな」


「…ケイオス」


「初めに出会った時のレイラはな、酷い状態だったんだよ拘束されてろくに力も出せない状態で、それでも隙を見て反乱を企てたり、その後もその体で俺に依頼を持ちかけてきたんだ」


 割って入ったのはケイオス、そのまま言葉を続ける。



「俺は対等な依頼に、仲間に力を貸しただけで助けたつもりは一切無い、ついでに言うならこれ以上ここで面倒起こしたく無いからむしろ便乗とかさせんぞ」


「ま、もっともだな、いい加減戻らないとあちらさんも人を出してくるかもな」


「自分勝手で悪いな、けど俺は別に英雄でも何でもないただの冒険者だ自分たちのことで手一杯なんだよ」




 ガレオが軽く肩をすくめて同意する、現状ケイオスたちが彼らを助けるメリットなどどこにもない、一行の言葉に、詰め寄っていた同胞たちもそれ以上は何も言えなかった。



 しばしの沈黙の後四人は同胞を通り過ぎていく、ミアラも何も言わなかった、この中では最も情に厚い彼女でさえ今の同胞たちに掛ける言葉を持ち合わせていなかった。


 宿場から離れ誰の姿も見えなくなったところでレイラがぽつりと呟く。



「むしろこの姿を見せた方がいい、恨まれてでもあいつらが牙を取り戻してくれる方がまだいいだろう」


「南方は厳しいねえ」


「…もし俺が手を出しても手続きを取らなきゃ意味ないだろうしな、しょうがないさ」



 最後にケイオスはそれだけ言って前を向いた、そうして短い間であったがミアラを救い依頼を果たし大きな戦いを超えて帰路につくのであった。

アルカディア スキル紹介

次元拳《Dimensional Fist》

上級職・バトルマスターの職業スキル

絶大の物理ダメージを与える、このダメージは相手の防御や耐性を無効にして計算する、無効効果は防御スキル・魔法で抵抗が可能。

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