レベル
轟音と共に巨躯が土煙を上げて駆けてくる光景、圧倒的な質量そのものが襲う息すら出来なくなりそうな強襲、逃げ場のない包囲の中で鉱石の巨人たちが四方から迫る。
ケイオスの話から間もなく考える間はほとんどなかった、だがレイラは前を向く。
「ケイオスお前は強い、だからこそ私はお前の言う事に付き合っていた…今の話もお前が言うならそういう事だろう」
「…だが今は違う、お前そこまで必死に言う事、それを私は信じよう」
迷いを振り切るような一言、そして目の前のゴーレムへ駆けて行った。
ガレオはしばし逡巡していた、やがて肩をすくめ渋々といった調子で武器を握り直した。
「はあ…しょうがねえ、どうせやらねえと死ぬかこりゃ……ああ、そうだな…もう、全力で戦った記憶すらないじゃねえか俺…たまには全力出して戦わねえと錆び付くってのはあるかもな!」
自嘲めいた笑みを浮かべながらそれでも足はすでに前へと向いていた。軽口を叩きながら二人は迫りくるゴーレムの群れへと迷いなく突っ込んでいった。
※
「ウォークライ《War Cry》!」
声が響いた瞬間レイラの身体を淡い光のオーラが包み込む、同時にガレオも口元を歪め武器を握り直した。
「闘いの歌《Battle Roar》!」
こちらも全身から輝く力が噴き上がる。
次の瞬間ゴーレムの拳が振り下ろされたレイラは身を捻ってそれを紙一重でかわし地面を叩き砕いた拳の横をすり抜け、その懐へ潜り込むと両手で握ったメイスを叩き込んだ。
ゴォンッ!
鈍く巨大な音が響き鉱石の身体に亀裂が走る。
「……良し!」
確かな手応え、だがゴーレムは止まらない、別の個体が横合いから腕を振り抜くレイラは身を低くしてかわしそのまま足元へ回り込む。
背後から迫る拳を振り返りもせずに避け再びメイスを叩き込む。
「っは…行けそうじゃないか!」
ゴーレムの一撃はまともに受ければ致命傷になりかねない、攻撃をかわし、隙を見つけ、何度も何度も打撃を重ねる、ほんの一瞬でも判断を誤ればこちらが砕かれるそれでもレイラは怯みもせず戦いを続けていた。
その横ではガレオもまたゴーレムの攻撃を紙一重でかわしていた。
「おっと……!」
巨大な腕が頭上を通り過ぎる、ガレオはその勢いを利用するように踏み込み脇腹へメイスを叩き込んだ。
ドゴォンッ!
鉱石の装甲が大きくひび割れるだが倒すにはまだ足りない、さらに打ち込み亀裂を広げ鉱石の巨体そのものを砕かなければならない、幾度も致命的な攻撃を避け続けねばいけないだろう、それでもガレオの笑みは消えなかった。
「…思ったより硬ぇな!」
ゴーレム達は一歩も怯まず再び二人へ向かって迫り襲い続ける、輝くオーラを纏った二人は迫りくる巨人の群れを前にして再び武器を構えた。
※
「ウォークライに闘いの歌、こっちでもあるのか」
ゴーレムの群れを見つめながらケイオスは呟く、めて見る本気で戦う二人の姿、その輝くオーラも宣言した言葉もケイオスにとって見知った物だった。
(エフェクトも記憶の通りか…偶然じゃあないよなこりゃ)
この世界についてまだ分からないことは多い、だが少なくとも二人は既知のスキルを使い、目の前のゴーレムを使役する男の魔法、アルカディアにもゴーレムを使役する魔法が存在しており同じであろうと思いついていた。
「来てます!」
「ああ気づいてる」
ミアラの声にケイオスは視線だけを向ける、次の瞬間迫り来たゴーレムの拳をケイオスは軽く身体を傾けてかわしその腕が空を切る。
続けざまに別の個体が飛び込んでくる、しかしケイオスはまるで攻撃の軌道を最初から知っているかのように僅かな動きだけで次々とかわしていく。
「俺が回避盾やる日が来る、とは、思わなかった…な…っと!」
二人がゴーレムに挑む中ケイオスはミアラの守護をしていた、小柄なミアラもケイオスと比べればそれなりに大きい。
しかしそれでもケイオスは彼女を抱えたまま、まるで重さなど感じていないかのように悠々と動いていた。
「空脚《Sky Step》」
先程ケイオスが使った魔法。足元に淡い光が生まれる、何もない空中をケイオスはまるで地面でも踏むように蹴った。
一歩、二歩と宙を駆ける。
ゴーレムの拳がその場所を通り過ぎ、ケイオスはそのまま別の個体の頭上へ抜けていった。
それも単に攻撃を避けているわけではない、ゴーレムの視線を引きつけ攻撃を自分へ向けさせレイラとガレオへ集中させすぎないようにしている、まるで敵の意識そのものを操るような動き。
だが先ほど使ったゴーレムを砕いた魔法は使わない、攻撃はせず今はただ攻撃を行きつけてかわすのみであった。
「何も言わないのか?」
「………………」
空を駆けながらケイオスがふと口を開く、視線の先ではレイラとガレオが今もゴーレムの群れを相手に死線をくぐっている。
レイラはミアラにとって奇跡的に再会できた姉だ、先ほどの会話はミアラも聞いている、冷静に考えれば正気とは思えない状況だ。
少しの沈黙の後ミアラは答える。
「…私を助けてくれたこともそうですし、これまで旅した話も姉さんから聞きました」
「……」
「まだ、ケイオスちゃ……ケイオスのことはよく知りません」
ミアラはまっすぐにケイオスを見上げる。
「でも姉さんは信用できない人に、命を懸けたりしません…さっきの会話もきっとそういう事です」
その言葉には迷いがなかった、それはレイラとは正反対のような控えめの印象だったミアラだが紛れもなく同じ戦士の目をしていた、ケイオスは一瞬だけ目を丸くする。
「そっか……うん、まあ……でも安心しろ」
視線を再び戦場へ戻す、ゴーレムの一撃をかわしレイラがメイスを振り抜く、紙一重でカウンターを加えるガレオが見える、ケイオスはその動きを眺めながらはっきりと言った。
「本当にやばけりゃ、助けに入るからさ」
※
戦いが進むにつれ、レイラとガレオの息は次第に荒くなっていく、肩を大きく上下させ身体のあちこちにはゴーレムの攻撃を掠めた擦り傷も増えている。
スキルを使いゴーレムに有効な武器を手にしていても決して楽な戦いではない、しかし二人は確実に結果を出していた。
レイラの前に立つ一体は全身に無数の亀裂を走らせ片膝をついたまま動かない、ガレオが相対している個体も何度も叩き込まれた打撃によって身体の一部が大きく欠け、もはやまともに動ける状態ではない。
一体ずつとはいえ、二人は自分の力だけでゴーレムを戦闘不能にまで追い込んだ、そしてその頃から二人自身にも変化が起き始めていた。
「これは…!?…身体が軽い…力も…!?」
レイラが自身の動きを観察する、闘い初めより機敏になっている、身体のキレが良い力が湧いている、与えるゴーレムへの打撃の亀裂も深くなっている事が目に見えていた。
「こいつらが遅くなった……いや、違う、俺が速くなってる……?」
ガレオも同じだった、息は上がっている疲労困憊だ、それなのに身体の動きはむしろ研ぎ澄まされている。
少し離れた場所から、その変化を見ていたケイオスは静かに目を細めた。
(やはりあるみたいだなレベル、レベルアップも見える訳じゃないけど起きてるはず)
アルカディアはMMO、敵を倒せば経験値が手に入りそれが一定量に達すればレベルが上がる、酷似したこの世界ならば同じ事が起きてもなんらおかしくなかった。
(ただアルカディアがゲームだから言える話、同じ仕様だとするなら自分より弱い相手じゃ駄目、自分と最低でも同格と自分だけの力で戦わないといけない、そんな事続けてたら命がいくつあっても足りない)
二人の動きの切れは確かに増している先ほどまでとは明らかに違う速さと力を得ていた、だが身体そのものの限界は別だった、荒い呼吸が続き肩が大きく上下する、疲労が蓄積するにつれ動きにも僅かな乱れが生じ始めていた。
「クソッ……」
「だらしねえな、チクショウ!」
そして、ついに均衡が崩れたゴーレムの一体が二人の連携の僅かな隙を突く、レイラもガレオも目の前の敵への対応で手一杯だった、巨大な腕がレイラへ向かって振り下ろされる。
「っ!」
「想像以上に粘られたがこれで終わりだここまで耐えたのは褒めてやる…だが所詮はその程度だ!」
遠くから聞こえるヴィルフリートの声には勝利を確信した者の余裕があった、少女の魔法には驚かされたが初めの一撃からは撃たれず、前衛の二人も限界が見えていた。
その刹那。
ゴォンッ!!!!……………ズンッ
大きな衝撃音、何かの一撃が直撃し鉱石のゴーレムが重さなどないように吹き飛ばされ遠くに鈍い音を残し墜落する。
「な…!?」
「…お前は」
鉱石のゴーレムの攻撃に割り込んだのは奇しくも同じゴーレムであった。
だがそれは鉱石のゴーレムより遥かに巨大、頭部らしき場所が無い異形で鈍く怪しく脈動する黒い光が身体を巡っている、継ぎ接ぎだらけの異形の巨躯、かつてレイラが草原で目にしたあの姿だった。
「中級キメラ召喚、ゴーレム《Summon Intermediate Chimera: Golem》今回は遠慮しなくていいぞ」
※
「……なんだ、一体……これは」
ヴィルフリートの声から、先ほどまでの余裕は完全に消え失せていた。
異形の巨躯が拳を一振りする、一体の鉱石のゴーレムが紙細工のように砕け散る、また拳を一振り、今度殴り飛ばされたもう一体は山壁まで吹き飛び壁にそのままめり込んで動かなくなった。
この地はおろか王国全土の貴族を見渡しても自分以上の魔法使いはそういない、その自負のもとに作り上げてきたゴーレムは下手な冒険者の部隊よりも遥かに強力、間違いない事実だ、それがまるで児戯のように蹴散らされていく。
「…アレもケイオスが?」
「ああ、助けるって言っただろ」
抱えるミアラはその瞳孔すら丸くするほど驚愕していた、ケイオスはその光景を横目に疲労困憊のレイラとガレオを素早く回収し、自らの後方に庇う。
「ありがとよ、信じてくれて」
「……っは、久しぶりに、死ぬかと思った」
「そうだな……戦士と名乗っておいて、こういう戦いからは、随分と縁遠くなっていたらしい」
「
ガレオとレイラが荒い呼吸の合間に呟く、その声には恐怖以上に確かな何かを掴み取った実感が滲んでいた。
※
鉱石のゴーレムが目に見えて数を減らしたところで、ケイオスがふと動きを止めた。
「ヴィルフリートだっけか、そいつのレベル……強さはざっくり言ってあのワームと同格だ…いやここ魔鉱石とか出るし流石にワームの方が強いか?とにかくどっちにしろお前のゴーレム達じゃ手も足も出ないのは間違いない」
「滅茶苦茶な事言ってんな」
ガレオが呆れ半分に呟く横で、ヴィルフリートは奇妙な硬直に襲われていた。
(あのワームと同格だと……馬鹿なそんなはずが…)
理屈では否定したい、あの化け物の恐ろしさは誰よりも自分が知っている、だが目の前で自慢のゴーレムを児戯のように蹴散らしてみせた、否定する事が出来ないままただ思考だけが空転していく。
「で、通してくれないか?こことの取引は平和に終わったし面倒事を今さら起こしたくもないんだよ」
あっさりとした物言い、その一言にヴィルフリートの思考がまた止まった。
これだけの大立ち回りをしてなおこの娘は自分を眼中に入れていない、まるで通行の邪魔な石ころでも避けるかのような態度こそが抑えていた何かに火をつけた。
「…いいだろう、そこまで言うのなら相応しい力というものを見せてやろう!!」
叫びながら懐に手を入れる、そしてヴィルフリートが取り出したのはミニチュアのゴーレムを思わせる黄金に輝く何かだった。
空脚《Sky Step》
職業、魔法使いが覚える魔法、空中で歩行できる
飛行の劣化に見えて必ずしもそうではない、三次元の歩行は飛行ではない機動での戦闘を行える。
衝撃《Impact》
職業、魔法使いが覚える魔法、強い衝撃を与える。
属性は無いが初期呪文の中では威力が高く使い勝手がいい。
ウォークライ《War Cry》
獣人の種族スキル、攻撃、防御、速度が上昇する、熟練度で性能が上がる
闘いの歌《Battle Roar》
戦士の職業スキル、攻撃、防御、速度が上昇する、熟練度で性能が上がる




