ライバルはアイドル2-3
アイドル研究生3人は、イチバンをじっと見てふん、と鼻息を荒げた。
「……だったら勝負しない?」
「勝負?」
提案をしたのは河合だった。人差し指をぴっと出すと、男子たちに言った。
「あたしたちとあんたたち、どちらが集客できるか……」
「は?」
思わず素っ頓狂な声を上げる真尋。白玲もあんぐりと口を開いている。
「勝負……?」
泣き顔だったイチバンが、顔を手で覆うと赤塚を見た。赤塚は、イチバンを蛇ににらまれた蛙のように見やる。うろたえるイチバンは、女子にもかわいいと思われるようだ。
河合が青田に目配せすると、ノートとペンを取り出した。
「なんだよ、勝負って」
華太が首を傾げて頭をかいていると、河合に合図された青田が説明を始めた。
「あたしたち、『みっくちゅ♡じゅーちゅ』と、あんたたちのバンド……『フューチャー・ドラゴン』。対バンしようって話。文化祭前の余興にもなるでしょ?」
「対バンって……」
バンドを組んだがバンドとしての活動をしていないFDのメンバーは、互いに顔を見回す。華太とイチバンはステージ経験はあるが、真尋と白玲は、華太のステージ乱入の1回きりだ。
「中山、よくライブハウスで出演してるって言うじゃん? そこを借りて、対バンしようよっ! 文化祭だし、絶対盛り上がるよ!」
青田がはしゃぐが、真尋は難しい顔をした。
「……でも、対バンってことは、チケットを多く売ったほうが勝ち。俺たちが負けたら、文化祭のステージで、お前らのBGMを演奏しろってことだろ?」
「いいでしょ! 勝負しよーよ!」
河合が駄々をこねる。真尋と白玲はむすっとしたまま腕を組む。だが、口火を切ったのは華太だった。
「……いいんじゃね?」
「華太!? お前たちはステージ経験者だけど、俺と白玲はまだ初心者だぞ?」
真尋が言うと、腕を組んだ華太がこほんと咳払いをした。
「……即席のバンドだけど、最初にこのバンドを力業で集めたのは真尋だろーが」
「それって、バンドやりたくねえってことかよ!」
真尋が華太のえり首を引っ張ると、冷静に華太は返した。
「いや、ここまで来たらバンドはやる。俺だってプロになれたら……って思いもあるからな。だから、俺はこの対バンを受けたい」
「……華太先輩の気持ち、少しわかります」
静かにうなづいたのは、意外にもイチバンだった。
「偶然、真尋先輩に集められた僕たちだけど、集客ぐらいできなかったらプロにはなれない」
「あー……確かになぁ」
白玲も同意する。対バンに賛成したのは、真尋以外の3人だった。
「でも、もし負けたら……?」
「バンドには向いてないってことになるだろ。いいじゃん、試練をクリアしてこそ、プロになれるってことで」
白玲がにんまり笑う。仕方ない。真尋は、はぁ、と息をこぼした。
「……わかったよ。俺たちフューチャー・ドラゴンは、みっくちゅ♡じゅーちゅと対バンする。……ライブ場所はレアーズでいいのか? 華太」
「おう。店長に言っておくよ。――女子、お前らも俺たちも、まずはノルマ20枚だ。いいな?」
「……20人も友達いない……」
ぼそりとつぶやくイチバンだったが、それを聞いた白玲が笑った。
「お前は宣伝したら普通にファンが来るだろ。ジャズベ動画のフォロワー数、いくつだよ」
「1万人……」
「何よ、領土。あたしたちにケンカ売ってるの!?」
河合が立ち上がって、イチバンをにらみつける。イチバンはまたおどおどするだけだ。そんな場を収めるように、華太が話を続けた。
「ライブの日程は後日知らせる。ノルマは全員、ひとり20枚だ。いいな?」
「あっ! ちょっと待って。私たちは3人しかいないじゃない。FDは4人……ずるいよ!」
青田が指摘すると華太は「ちっ」と舌打ちした。
「バレたか」
「中山、あのねぇ……。でも、確かに4対3は20枚の差が出るね」
呆れたような顔をする河合は、視線をテーブルに向けて考え込む。声を上げたのはイチバンだった。
「だったら、みっくちゅ♡じゅーちゅは最初から+20枚ってことで、ハンデをつけましょうよ。それならちょうどいいでしょう?」
「ふん、ずいぶん余裕ね? 領土。ハンデがなくても、あたしら勝てるけど?」
「おっ、そうか? じゃハンデいらねぇかな」
「それとこれとは別!」
「これだから女は……」
白玲が言うと、赤塚が首を振る。
「……よし、ライブの日程が決まったぞ。来月の20日だ」
スマホでレアーズと連絡を取り合っていた華太が、顔を上げる。――来月の20日までに、ひとりにつきノルマ20枚をさばく。
華太やイチバンはともかく、真尋と白玲は20枚売り切れるのだろうか。難しい顔をするふたりだったが、その様子を見ていたみっくちゅ♡じゅーちゅの3人は、くすくす笑っていた。
「20枚、売り切る自信、ないんだぁ~。だっさぁい」
「20枚、売りさばけるかわからないバンドが、文化祭の大トリ、できるわけないでしょ」
赤塚と青田が茶化すが、真尋と白玲は実際指摘された通りなので、言い返せないでいた。
――喫茶店を出て、家に帰宅すると、真尋は白玲にメッセージを送った。ネームバリューがある華太とイチバンはともかく、リーダーの自分がノルマをこなせないとなると問題だろう。白玲はまだ完璧な素人だから、許されるところはあるだろうが。
「俺、自信ねぇ……」
「バカか、お前は。お前だってあるだろ。『作曲』するのはお前だぞ?」
「あっ!」
「ってか、6曲考えるんだろ。それを売りにしたらいいじゃん」
「確かに……それがあったか」
「作曲して、SNSやイチバンみたいに動画サイトにアップしてみろよ。酔狂なやつが実際ライブに来てくれるかもしれねぇぞ?」
電話口で、軽くクスッと笑う声がする。白玲は他人事のように笑っているようだ。だが、それを真尋も言い返した。
「白玲は20枚売りさばける自信、あるのかよ」
「……微妙だが、手段はあるよ」
「へぇ、意外だな。お前に人脈があるって」
「言ってろ。ま、ともかくこれで20枚のノルマは大丈夫……かもしれないな? やったじゃん」
「まだ虎たぬの範疇を抜けないけどな」
20日まで、あと3週間。それまでにノルマ、20枚――。素人バンドの真尋たちは、手探りでチケットを売りさばくことで苦悩していた。




