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天下一★文化祭  作者: 浅野エミイ


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8/22

ライバルはアイドル2-3

 アイドル研究生3人は、イチバンをじっと見てふん、と鼻息を荒げた。


「……だったら勝負しない?」

「勝負?」


 提案をしたのは河合だった。人差し指をぴっと出すと、男子たちに言った。


「あたしたちとあんたたち、どちらが集客できるか……」

「は?」


 思わず素っ頓狂な声を上げる真尋。白玲もあんぐりと口を開いている。


「勝負……?」


 泣き顔だったイチバンが、顔を手で覆うと赤塚を見た。赤塚は、イチバンを蛇ににらまれた蛙のように見やる。うろたえるイチバンは、女子にもかわいいと思われるようだ。

 河合が青田に目配せすると、ノートとペンを取り出した。


「なんだよ、勝負って」


 華太が首を傾げて頭をかいていると、河合に合図された青田が説明を始めた。


「あたしたち、『みっくちゅ♡じゅーちゅ』と、あんたたちのバンド……『フューチャー・ドラゴン』。対バンしようって話。文化祭前の余興にもなるでしょ?」

「対バンって……」


 バンドを組んだがバンドとしての活動をしていないFDのメンバーは、互いに顔を見回す。華太とイチバンはステージ経験はあるが、真尋と白玲は、華太のステージ乱入の1回きりだ。


「中山、よくライブハウスで出演してるって言うじゃん? そこを借りて、対バンしようよっ! 文化祭だし、絶対盛り上がるよ!」


 青田がはしゃぐが、真尋は難しい顔をした。


「……でも、対バンってことは、チケットを多く売ったほうが勝ち。俺たちが負けたら、文化祭のステージで、お前らのBGMを演奏しろってことだろ?」

「いいでしょ! 勝負しよーよ!」


 河合が駄々をこねる。真尋と白玲はむすっとしたまま腕を組む。だが、口火を切ったのは華太だった。


「……いいんじゃね?」

「華太!? お前たちはステージ経験者だけど、俺と白玲はまだ初心者だぞ?」


 真尋が言うと、腕を組んだ華太がこほんと咳払いをした。


「……即席のバンドだけど、最初にこのバンドを力業で集めたのは真尋だろーが」

「それって、バンドやりたくねえってことかよ!」


 真尋が華太のえり首を引っ張ると、冷静に華太は返した。


「いや、ここまで来たらバンドはやる。俺だってプロになれたら……って思いもあるからな。だから、俺はこの対バンを受けたい」

「……華太先輩の気持ち、少しわかります」


 静かにうなづいたのは、意外にもイチバンだった。


「偶然、真尋先輩に集められた僕たちだけど、集客ぐらいできなかったらプロにはなれない」

「あー……確かになぁ」


 白玲も同意する。対バンに賛成したのは、真尋以外の3人だった。


「でも、もし負けたら……?」

「バンドには向いてないってことになるだろ。いいじゃん、試練をクリアしてこそ、プロになれるってことで」


 白玲がにんまり笑う。仕方ない。真尋は、はぁ、と息をこぼした。


「……わかったよ。俺たちフューチャー・ドラゴンは、みっくちゅ♡じゅーちゅと対バンする。……ライブ場所はレアーズでいいのか? 華太」

「おう。店長に言っておくよ。――女子、お前らも俺たちも、まずはノルマ20枚だ。いいな?」

「……20人も友達いない……」


 ぼそりとつぶやくイチバンだったが、それを聞いた白玲が笑った。


「お前は宣伝したら普通にファンが来るだろ。ジャズベ動画のフォロワー数、いくつだよ」

「1万人……」

「何よ、領土。あたしたちにケンカ売ってるの!?」


 河合が立ち上がって、イチバンをにらみつける。イチバンはまたおどおどするだけだ。そんな場を収めるように、華太が話を続けた。


「ライブの日程は後日知らせる。ノルマは全員、ひとり20枚だ。いいな?」

「あっ! ちょっと待って。私たちは3人しかいないじゃない。FDは4人……ずるいよ!」


 青田が指摘すると華太は「ちっ」と舌打ちした。


「バレたか」

「中山、あのねぇ……。でも、確かに4対3は20枚の差が出るね」


 呆れたような顔をする河合は、視線をテーブルに向けて考え込む。声を上げたのはイチバンだった。


「だったら、みっくちゅ♡じゅーちゅは最初から+20枚ってことで、ハンデをつけましょうよ。それならちょうどいいでしょう?」

「ふん、ずいぶん余裕ね? 領土。ハンデがなくても、あたしら勝てるけど?」

「おっ、そうか? じゃハンデいらねぇかな」

「それとこれとは別!」

「これだから女は……」


 白玲が言うと、赤塚が首を振る。


「……よし、ライブの日程が決まったぞ。来月の20日だ」


 スマホでレアーズと連絡を取り合っていた華太が、顔を上げる。――来月の20日までに、ひとりにつきノルマ20枚をさばく。

 華太やイチバンはともかく、真尋と白玲は20枚売り切れるのだろうか。難しい顔をするふたりだったが、その様子を見ていたみっくちゅ♡じゅーちゅの3人は、くすくす笑っていた。


「20枚、売り切る自信、ないんだぁ~。だっさぁい」

「20枚、売りさばけるかわからないバンドが、文化祭の大トリ、できるわけないでしょ」


 赤塚と青田が茶化すが、真尋と白玲は実際指摘された通りなので、言い返せないでいた。


 ――喫茶店を出て、家に帰宅すると、真尋は白玲にメッセージを送った。ネームバリューがある華太とイチバンはともかく、リーダーの自分がノルマをこなせないとなると問題だろう。白玲はまだ完璧な素人だから、許されるところはあるだろうが。


「俺、自信ねぇ……」

「バカか、お前は。お前だってあるだろ。『作曲』するのはお前だぞ?」

「あっ!」

「ってか、6曲考えるんだろ。それを売りにしたらいいじゃん」

「確かに……それがあったか」

「作曲して、SNSやイチバンみたいに動画サイトにアップしてみろよ。酔狂なやつが実際ライブに来てくれるかもしれねぇぞ?」


 電話口で、軽くクスッと笑う声がする。白玲は他人事のように笑っているようだ。だが、それを真尋も言い返した。


「白玲は20枚売りさばける自信、あるのかよ」

「……微妙だが、手段はあるよ」

「へぇ、意外だな。お前に人脈があるって」

「言ってろ。ま、ともかくこれで20枚のノルマは大丈夫……かもしれないな? やったじゃん」

「まだ虎たぬの範疇を抜けないけどな」


 20日まで、あと3週間。それまでにノルマ、20枚――。素人バンドの真尋たちは、手探りでチケットを売りさばくことで苦悩していた。


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