ライバルはアイドル2-2
じゃんけんに勝ったイチバンは、真尋たち先輩に頭をくしゃくしゃにされる。
「すげえじゃん、イチバン!」
「お前のおかげで大トリじゃあ!」
「礼にコーヒー牛乳奢ったる!」
「あ、はい。ありがとうございます」
他のチームの出演時間が決まると、集まりは解散になった。
音楽室にいたFDも、帰る準備をする。
「だけどさぁ、これで完全に手を抜けないよなぁ」
「なんだよ、手を抜く気だったのか、和宮」
じろりと華太ににらまれると、白玲も苦言を呈した。
「お前の作曲ができなかったら、俺も作詞できねぇんだからしっかりしてくれよ?」
「……もし、作曲できないなら、僕が代わりに……」
イチバンが気を利かせていうが、真尋は首を左右に振った。
「いや、大丈夫だ。『手を抜けない』って、失敗できねえって意味だから」
「ならいいけど……真尋と白玲は6曲は作ってくれねえといけないんだからな?」
華太がそう言うと、白玲は、ぶっ! っと口からぶどうソーダを噴き出した。
「はっ!? 6曲!?」
「ステージで全曲オリジナルで演奏するなら、当然そのくらいになるだろ」
華太の言葉に真尋はむすっと腕を組む。素人の、初めて組むバンドのギターが、6曲も作るとは……。まだ作詞ならなんとかできるかもしれないが、曲作りというとまたやり方が違う。
「まぁ、最悪の場合、全員でjamって決めるって手もあるけどな。だけど、和宮がこのバンドを始めたきっかけなんだから、きちんと締めて欲しいのよ、俺は」
ちゅーっとバナナオレを飲んでいる華太は、真尋の肩を組んだ。
「だから、よろしくちゃん! 真尋」
「っ! 調子いいやつだな……」
並んで裏門から帰路につこうとした、そのとき。FDの目の前を、影が邪魔をした。
「……あなたたち、バンドなのにまだ曲がないんですって?」
声に気付いて見上げると、そこには学校の指定した制服を軽く着崩した女子生徒が3人立っていた。
華太は、女子たちの顔を見て、ちっと舌打ちした。その音を聞いた白玲は、華太に聞いた。
「華太、知り合いか?」
「……ってか、さっき音楽室にいて、くじ引きで負けた女たちだろ」
「華太先輩、言い方が失礼ですよ」
冷や汗をかきながら苦笑いを浮かべるイチバン。女子たちは華太をにらみつけてから口角を上げた。
「ふん、いい根性してるじゃないの。ステージの大トリが決まったのに、曲が決まってないんでしょ?」
「っ! なんでそのことを……」
サイドテールにした女子が指をさすと、横にいたストレートのロングヘアの女子生徒が舌を出した。
「あんたたちの話し、聞こえちゃってただけだよ、ね?」
「う、うん」
ショートカットにヘアピンで前髪を留めた女の子が手をあごに当ててうなづく。
女子も3人集まればかしましい。真尋たち4人の前に立ちはだかる。男子のほうが人数は多いのに、勇気があるのかそれとも無鉄砲なのか。
「……で? 俺たちに何の用だ。曲が決まってなかったから、もしかして大トリを譲れとか言うんじゃねーだろうな?」
真尋が不機嫌そうに鼻息を荒げると、サイドテールの女子も腕を組む。
「あたしたち、ちょっとあんたたちに話したいことがあるの。付き合ってよ」
「っ! つ、付き合ってって……」
白玲が顔を赤くする。それを見たロングヘアが腕を擦る。
「やっ、気持ち悪っ! 変な勘違いしないでよね!」
「そうよ! あたしたちは、文化祭のことで話があるだけだから!」
「なんだよ、ここで言えばいいだろ!」
「立ち話より、ケーキでしょっ!」
「……はぁ」
イチバンが首を傾げながらもため息を落とす。
「ったく、わかったよ……で、どこで話をするんだ?」
「駅近くの喫茶店! 割り勘だから心配しないで。ってか、こんなかわいい女の子に自腹切らせるなんて有り得ない話だけどっ!」
好き勝手に騒ぐ女子たちとともに、駅前の喫茶店に入る。男子たちは一番安いホットコーヒー、女子たちは紅茶とケーキのセットだ。
オーダーを頼むと、真尋は話を切り出した。
「で? 文化祭のことで、俺たちに何か用事なんだろ。単刀直入に言えよ」
女子たちは、ショートケーキ、チーズケーキ、モンブランを頼んですぐに運ばれてきた。ケーキを目前にして、3人は目をキラキラと輝かせた。
「わぁ、やっぱ疲れたあとはケーキだよねぇ♡」
「待って! 写真撮るっ!」
「おいしそぉ~!」
「……」
盛り上がる女子を、苦いコーヒーを飲みながら男子たちは渋い顔をする。
「なんで帰り道に絡まれて、寄りたくもない喫茶店で茶ぁしばかなあかんねん」
白玲は砂糖とミルクをコーヒーに混ぜる。ブラックはまだ早かった。
「……単刀直入にって言ってるだろ。さっさと言えよ。時間の無駄だ」
華太もコーヒーに口をつけると、本題に入るように促した。するとようやく女子たちは課題に入った。
「……自己紹介がまだだったわね。あたしは河合紗里。ロングヘアが赤塚密、ショートが青田リン。あたしたち――アイドル研究部なの」
「ふふん、あたしたちみたいなアイドル研究生とお茶できるなんて、ラッキーだと思いなさい!」
赤塚がチーズケーキをひとくち大に切って、口に運ぶ。
「……で、そのアイドル研究生が俺たちに何の用だ」
真尋がむすっとしたまま聞くと、女子たちは勝手に話を進めていく。
「あんたたちは、持ち曲がない。あたしたちはくじで負けて舞台に立てない。だから、あたしたちの……アイドルの曲をあんたたちがあたしたちのバックで演奏すればいいんじゃないかってね」
女子の勝手な言い草に真尋はムカッとして、テーブルを叩いた。
「は? いい加減にしろよ。俺たちを添え物か何かと勘違いしてねえ?」
白玲も不機嫌そうにコーヒーカップをスプーンでかき回す。華太も「ちっ」と舌打ちして、頬杖をついた。
イチバンは、先輩たちの苛立ちを見て、おどおどしていた。じゃんけんに勝ったのは自分だ。せっかく勝ったのに、アイドルのBGMになれだなんて……少し悲しくなり、下を向く。それを見た華太は、女子たちをにらんだ。
「あーあーあー! うちの最年少を泣かせたな? なーにが女子だ、アイドルだ! イチバンのほうが、よっぽどかわいいのに」
「そうだそうだ!」
「先輩……」
白玲も同意する。そしてとどめを真尋が刺した。
「……わかったな? 俺たちはきちんとライブまでに曲を用意する。アイドルはお呼びじゃねーんだよ!」
アイドル研究生たちは、きょとんとして男子4人を見た。




