ライバルはアイドル2-1
ある日の放課後。フューチャー・ドラゴン、省略して『FD』のメンバーは、廊下で立ち話をしていた。
「おっ、和宮と大里、待ってたぞ」
「中山、イチバン。どうかしたのか?」
真尋と白玲を待っていたらしい華太とイチバンは、教室から出てきたふたりを見て肩を組んだ。
「お前ら、HRで聞いてなかったのか?」
「え? 何を?」
中山が頭を押さえてため息をつくと、代わりにイチバンが説明した。
「文化祭でステージを使いたいグループは、放課後に集まるようにって」
「っ! 放課後? 時間じゃねーか! 行くぞ!」
真尋は走り出そうとした。が――
「中山、どこの教室だ?」
「ったく……リーダーは何も聞いてないんだな。音楽室だよ」
「わかった、全員行くぞっ!」
傍若無人に走り出す真尋に、イチバンは思わず笑った。
バンッ!
――音楽室に到着する。扉を勢いよく開けるとそこには、様々な学年の生徒がいた。
「……え、えっと……」
扉を開けた真尋に、視線が集まる。しどろもどろになる真尋と、やれやれと言ったところのFDのメンバー。
「さーせんっ! 遅刻……ですよね?」
「……遅れたのは謝罪しますが、連絡不届きでして……」
真尋と白玲が頭を下げる。その場所にいた教師が、ふぅと息をつく。そして4人を見て言った。
「遅刻は厳禁です。しかし、連絡不届きなら仕方がありません。席に座りなさい」
何とかおとがめなく、ほっとする。後ろの席に4人は座った。
ここにいるのは文化祭でステージを使いたい、有志のメンバーか。部活のやつもいる。
「……あっ」
真尋は先日声をかけた、軽音楽部の生徒がいることに気づく。教室はステージに出たい生徒でいっぱいだった。チラリと見ると、窓際にいるのが演劇部。お笑い・コント研究部のやつもいる。アカペラ合唱部もだ。
真尋たちは恐縮した。
「……みんな本業じゃねーか」
白玲が真尋の耳元でささやいた。FDは先日結成したばかりの、有志のバンドだ。もちろんプロは目指している。だけど――他の部活などで活動している生徒たちと、年季が違う。
真尋たちは教室を見回した。
遅れて教室に入ったので、他の生徒たちもFDを見つめる。こそこそと4人は席に座った。
「ええっと……それでは、ステージに立てるグループは、野外ステージは2日間で10グループ。体育館内も同じく。つまり、合計20グループです。今集まっているチームは、24グループですから、抽選で4チームは諦めてもらいます」
仕切っている教師は箱を手にした。
「まずはくじ引きをして、4チームにご辞退いただきます。……いいわね?」
そういうと、24チームの代表者が箱に手を入れる。
「ちっ! ハズレじゃねーか!」
言論部がハズレを引いた。ハズレは残り3枚。ハズレを引いたのは、演芸部と講談をやろうと立候補していた個人。そして最後のハズレは、アイドルたちだった。
「あ~、残念っ!」
「嘘でしょ! 私たちがハズレ?」
アイドルのステージをやろうとしていた女の子たちが、頬を膨らませている。
「ハズレが全部出たから、俺たちはステージに出られるみたいだな」
「やりましたね、先輩方」
白玲が手を叩くと、イチバンもガッツポーズをする。だけど真尋は少しばかり心配になって、華太をチラリと見た。
「? なんだよ、和宮」
「いや……落選したのがみんな、プロだと言えるような人たちじゃん。それに比べて俺たちは、昨日今日できた即興のバンド……ステージ、盛り上がるのかな」
真尋がつぶやくと、華太は背中をばんっ! と叩いた。
「……あのなぁ、弱音を吐くなよ。もうステージに出ることは決定したんだ。だったら本番に向けて、練習するしかないだろ?」
華太の言うとおりだ。自分たちは練習あるのみ――。
「その練習の前に、曲作りもあるんだからな? さっさと作って、こっちに回してくれねぇと、俺が困るんだよ……」
白玲も目を細めて髪の毛をかきあげる。だが、意外にも冷静だったのはイチバンだった。
「僕は元からジャズベースで、即興みたいなものですから、アレンジは任せておいてください!」
胸を叩くと、華太と白玲が渋い顔をした。
「お、おい。真尋を甘やかすなよ。こいつ……リーダーが俺たちを引っ張って行くんだからな?」
「そうだぞ。優しくしたらつけあがるからな」
「は、はぁ……」
ふたりに責められたイチバンは、頭をかいた。
「はい。では残りのチームで、スケジュールを決めましょう。まずは希望の時間を黒板に書いてください」
教師に言われて、続々とチームは黒板に埋めていく。真尋はFDのメンバーに向いた。
「何時くらいがいいか? あと、1日目か2日目か」
「そうだな……やっぱオーラスじゃね?」
白玲がビッグマウス。真尋は唇をへの字にした。
「大丈夫かよ……素人バンドがオーラスって。中山とイチバンはどう思う?」
真尋が心配そうにたずねると、ふたりはすでに興奮していた。
「いいじゃねーか。オーラスで最高に目立つ! ……和宮。お前の狙いは『売れるバンドを作ること』なんだろ?」
「僕も賛成です。緊張しちゃいますけど、文化祭のステージはまだ最初ですから。僕たちはこれから、もっと大きなステージに立つんですよ?」
「……だそうだぞ、真尋」
「うっ……」
覚悟が決まっていなかったなは、俺だけだったんじゃねーかよ。
真尋は3人に押され、黒板に書かれている『2日目16:00-17:00』の横に『Future Dragon』とバンド名を書いた。
他に書かれたのは……。
「ふうん、コントと軽音楽部か。いいライバルだな?」
「複数候補があるところは、じゃんけんで決めまーす」
「じゃんけんか。運だなぁ」
「ってか、誰が一番強いよ?」
FDのメンバーも、他のコントと軽音楽部のメンバーも、チーム内で誰が一番じゃんけんに強いか、確かめる。
「行くぞ、じゃんけん……」
「ぽんっ!」
意外なことに、Future Dragonで一番じゃんけんに強かったのは、イチバンだった。
「えっ、僕!?」
「責任重大だけど、頑張れよ~!」
先輩たちが茶化しながらイチバンの背中を叩く。3チームの代表が集まると、じゃんけんだ。
「行きます! じゃんけん……」
「ぽん!」
……一瞬の無音。勝ったのは……。




