バンド結成1-5
バンドメンバーが揃った真尋たちだったが、まだ華太が出したお題があった。
「ベースも決まったはいいが……バンド名がまだだ。和宮、考えてきたか?」
「え、えっと、一応は」
そう言って真尋はノートを取り出した。
「ほら、50個くらい考えてきたよ」
「うぉ、多いな?」
白玲がびっくりしたように目を丸くする。真尋はどんな名前を考えて来たのだろう。ノートに目をやる。
「……大里、気になるのはあったか?」
「う~ん、って、なんだよこれ。『ハゲかけたゴリラ』!?」
「ぶっ!」
持ってきたコーヒー牛乳のパックを飲み始めようとしていたイチバンが、噴き出して蒸せた。
「ご、ごほっ、ごほっ!」
「あ~あ、イチバンがびっくりしちゃっただろ。ってか、なんだよ。そのお笑い芸人みたいな名前」
「今のお笑い芸人ですらそんな名前にしないよ……」
呆れながらノートを読み進める白玲。華太も顔を向ける。
「『キリン・ザ・ドミニオン』、『パーフェクト・ディアー』、『カンガルー・ブレイカー』……お前、動物好きなのか?」
「うっ、いいじゃん。動物好きだってさ」
「動物愛護団体かよ」
そう言って白玲は真尋のおでこをデコピンする。真尋は額を押さえて唸った。
「うぅ……痛ぇよ。動物が入らないとしたら、他に何があるんだよ」
真尋は、白玲、華太、イチバンを見上げる。3人もあごに手を当てながら、アイデアを出す。
「『ウルトラ・トリッキー』とか?」
「ウルトラはださくね?」
白玲のアイデアにダメ出しする華太に、イチバンが聞いた。
「中山さんは何かいいバンド名、あるんですか?」
「そうだなぁ……『ミリオン・ビリオン』とか?」
「儲かりそうだな」
真尋がぼそりとつぶやく。白玲がイチバンに聞いた。
「イチバン、お前の意見を聞きたいな。ジャズって即興じゃん? こういうアイデアも出せるんじゃないかって」
「えぇ~……。うーん」
白玲にたずねられたイチバンは、腕を組んで首をしばらく傾げた。時計の秒針がスン、スンと動いていく。カチリと短針が微かに動いたとき、イチバンは口を開いた。
「フューチャー・ドラゴンは?」
カチリ。
3人のバンドメンバーは、うーんと唸ってから口を開いた。
「ちょっと厨二病みたいじゃないか?」
「でも、バンドなんてもろ厨二病みたいなもんだからな。いいんじゃね?」
「ドラゴン、かっこいいやん!」
苦言を呈した真尋だったが、華太と白玲は乗り気だ。多数決。3対1じゃ勝ち目がない。真尋はふぅ、とため息をついた。
「しゃーない。じゃ、『フューチャー・ドラゴン』で決定な?」
「おうっ!」
全員の意見を聞いた真尋は、スケジュール帳をカバンから取り出した。
「それで、バンド名が決まったらどうするの?」
人懐っこいイチバンが見えない尻尾を振って真尋にたずねる。
真尋はスケジュール帳のマス目を見た。
「まずは、曲作りと演奏発表だな。カバー曲でもいいけど、せっかくバンド作ったんだから、オリジナルやりたいじゃん?」
「和宮、誰が作詞・作曲するんだ?」
「えーっと……作詞は白玲がするとして」
「はっ!? 俺ぇ!?」
突然話を振られた白玲は、驚いて口をパクパクする。真尋はそんな白玲を見て、笑った。
「お前、普段SNSにポエム載せてるじゃん」
「な、なんでそのことを……っ!」
「ま、和宮が一本、だな」
華太が真尋の腕を持ち上げると、白玲は唇を震わせて、言った。
「くっ、じゃあ俺が作詞するなら……真尋が曲作れよ!」
「言われなくともそのつもりだ」
「くそぅっ!」
ふたりのやり取りを微笑ましく見ていたイチバンだが、もうひとつ気づいて手を打った。
「あのっ、バンドの方針はわかりましたけど……ライブとか、演奏発表ってどうします? 動画で撮影するだけでもいいですけど、せっかくバンドを組んだんで、ライブしたいですっ!」
ひとりだけ1年生のイチバンが、目をきらきらと輝かせる。3人は顔を見合わせた。
「……俺と白玲がライブしたのは、この間の中山のステージが最初だ。ライブに詳しいのは中山だろ?」
「はぁ……まぁ、お前らはきちんと練習すればライブはかなりいいものになると思う。でも、本番ねぇ……」
華太は真尋と白玲をじろりと見た。口を開いたのは、意外にも白玲だった。
「……ちょうど秋口、文化祭があるじゃん? そのときステージに出させてもらったら?」
「白玲、ナイスっ! いいじゃん、やろうっ!」
真尋が両手の拳を握る。華太がやることをまとめた。
「よしっ。とりあえず、文化祭までにやることは――」
華太もスケジュール帳を取り出し、メモ書きをする。
「白玲が作詞、真尋が作曲……それを俺とイチバンが整える。あと、ステージ上に立って演奏の練習……」
「わぁ、本格的ですね!」
イチバンも嬉しそうに笑う。
「じゃ、本番は高校の文化祭! 頑張るぞっ!」
真尋が手を前に出すと、自然に他の3人もその手に重ねる。
「文化祭、ふぁい、おー!」
「オーッ!」
勢いよく声を上げると、さっそく4人は自分たちの役割に取り掛かる。
「じゃ、俺は家帰って作曲するわ」
「……ってか、聞いていい? 曲につける詞ってどーやって作るの?」
白玲のド素人な質問に、真尋と華太はずっこける。
「お前、いつもポエム書いてるじゃん! あれに曲を合わせるだけって考えろ!」
「うーん、でもそれならまずは真尋が先に曲を作ってくれないとダメってことだよな?」
白玲が聞くと、華太が力強くうなづいた。
「大里、心配すんな。お前が詞をつける前に、俺とイチバンが和宮の曲のチェックをする」
「はぁ……。俺も気が重いけど、真尋はどうなんだよ」
ふと真尋の顔を見ると、真尋も顔を強ばらせている。だけど真尋はにかっと口角を無理に上げて、親指をぐっと立てた。
「俺? 重要な役目こそ、バンドのリーダーの証拠! だろ?」
「えっ!? 和宮がリーダー?」
「なんだよ、悪いか!」
華太がじろっと真尋を見て、ため息をつく。
「俺は、俺が演奏の腕を認めたやつじゃないと、リーダーとして迎えたくねえ」
「ふふんっ、腕、認めただろ? ライブハウスで!」
「あ、あれはだなぁ……!」
もごもごと口ごもる華太を見た真尋は、ドンッ! と胸を叩いた。
「俺、みんながリーダーだって胸を張って言えるようなやつになるよ……よろしくぅっ!」
そう言うと、3人はパチパチと苦笑いしながら拍手した。




