バンド結成1-4
手を叩かれた真尋と白玲は、華太を見た。さっきは自分たちを酷評した華太だったのに、今はむすっとした顔ではあるが渋々と眉間にしわを寄せつつも、拍手をしている。
「中山……」
白玲がじっと華太が拍手するのを見る。真尋はその手をがしっと掴んだ。
「っ! な、なんだよ!」
「今、拍手をしてくれたってことは、俺たちを認めてくれたってことだよな?」
真尋が手を握ったまま、華太に詰め寄る。すると華太は後退る。しかし真尋は逃がさない。
「認めてくれたら、バンドメンバーになってくれる。さっき言ったよな?」
「っ……」
真尋はちらりと白玲を見る。するとマイクでオーディエンスに呼びかけた。
「さっき中山がした約束、聞いた人ー!」
白玲が聞くと、オーディエンスは笑いながらちらちらと手を挙げ始める。白玲は客席に手をやって、華太に見せた。
「うっ……」
華太は舌打ちをすると、ようやく認めた。
「あーあーあー! くっそ、わかったよ! 約束は約束だ。なってやるよ、お前らのバンド!」
「あざっす! 客席に感謝!」
またパチパチと観客が手を叩く。華太は呆れたようにため息をついた。
ステージから降りると真尋、白玲、華太はさっそくスマホのアカウントを交換した。
「へぇ、中山ってインストでドラム演奏、発表してるんだな」
「お前らもしろよ」
「――え?」
真尋は冷や汗をかくと、華太は腕を組んだ。
「俺がバンドメンバーに入るなら、もちろん厳しく行く。和宮、お前もギターを練習するとき、週1くらい動画を撮れ」
「お、俺はそんなに上手くは……」
真尋が遠慮しがちに言うと、華太は真尋にチョップした。
「いだっ!」
「甘っちょろいこと言ってるなよ。今日だって生のステージで演奏しただろ。一緒だ」
「なぁ、俺は? 俺は?」
白玲が腕をわきわきと振りながら華太にたずねる。白玲も真尋に無理やりバンドのボーカルに誘われたが、今は少しやる気になった様子だ。華太はそんな白玲をじろっと見ると、あごに手をやった。
「大里は、ボイトレとか、したことあるか?」
「いや、ない。俺も真尋に無理やりボーカルに誘われたんだよ」
「……無理やり、か」
ふたりに冷ややかな視線を送られる真尋だが、苦笑いして誤魔化す。
「まぁまぁ! それでもバンドやってくれるんだろ? 男に二言なしっ!」
ちっと舌打ちがまた聞こえるが、真尋はそれを聞かなかったことにした。
「……ともかく、大里。お前もボイトレしたら動画残せよ」
「はぁい」
華太に言われると、真尋に言われるより素直に従う白玲。華太はもう一度スマホを見ると、真尋に言った。
「そういやこのバンド、ベースがいないんだよな」
「えっ、えっと、ベースは募集中だけど、どこで探せばいいかわからなくて……」
「よしっ、だったらこれ見ろ!」
真尋がそう言うと、華太はスマホをぽちぽちして画面を見せた。
画面は演奏動画を映している。これは――ジャズベース?
「俺、こいつのファンなんだ」
「……すごい。うまいな」
「まぁ、ジャズベだから」
真尋と白玲な画面に釘付けになる。演奏が終わると、華太はふたりに言った。
「こいつをベースに迎えてくれるなら、このバンドはもしかしたら跳ねるぞ」
「……動画投稿者は『イチバン』。でもこの人、どこに住んでるんだろう。遠方だったらバンドは……」
「イチバンは俺たちと同じ高校らしい。何年生かわからないけどな」
「こんなうまいジャズベを弾くのが、俺たちと同じ高校生……」
白玲も目を丸くする。バンド歴はないが、こんなうまいジャズベがいたら……。真尋はぐっと拳を握った。
「よしっ! この勢いで『イチバン』をバンドに引き入れよう!」
「……そういやこのバンド、名前はなんなんだ?」
「えっ」
「おいおい……」
真尋がきょとんとすると、華太が頭を抱えた。白玲も苦笑いだ。
「真尋はいつもそうだ。勢いだけはいいけど、なんも考えてない。この『イチバン』もどうやって声をかけるんだ?」
「顔出ししてるから、学校のどこかに呼び出せばいい」
「……俺や大里みたいに簡単にメンバーになるか確証はないからな?」
「わかってるって」
真尋、白玲、華太は、ライブハウスから帰路に向かう。細かいことは明日考えよう。真尋は相変わらずの楽観主義者だった。
――翌日、放課後。真尋は『イチバン』について軽く調べて、写真アカウントからダイレクトメールをしていた。
『イチバンさん。同じ高校の和宮真尋と言います。実は今は、バンドを立ち上げようと思っていて、イチバンさんにお声がけしました。今日の放課後、食堂で待ってます。いいお返事をくださいっ!』
「……本当に来るのか?」
「来るよ。ってか、来るって信じたい」
華太がテーブルに頬杖をつく。白玲もおやつのフライドポテトを口にする。来るか来ないか。完全に真尋の賭けだ。入り口付近で待っていたら、そのとき。
「あ、あの……和宮真尋くん?」
「っ!」
鈴の鳴る音のような、か細い声。3人は顔を上げると、そこに立っていたのがイチバンだった。
「……イチバン、さん?」
「あっ、はい。よろしく」
予想とは違う、物静かそうな男子が目の前に立った。真尋、白玲、華太より身長が低く小柄なイチバンは、3人に頭を下げた。
「えっと……イチバンです。『領土一番』。名前が思想強めと言われますが、ただの高校1年生です。よろしく」
「お、おお」
名乗ったイチバンに、今度は3人が自己紹介する。
「俺がギターの和宮真尋。隣にいるのがボーカルの大里白玲。向かいに座ってるのが中山華太。お前のベースがいいって言った、ファンだよ」
「ヨロシク、イチバン」
ファンと言われて照れたのか、華太は手をひらひらと振った。白玲もサムズアップする。真尋はイチバンも座るように促した。
「……で、来てくれたってことは、バンドに興味があるってことで合ってる?」
真尋がたずねると、イチバンは照れくさそうに笑った。
「あっ、はい。実はバンドやってみたかったんですけど、どうもうまく行かなくて」
「バンドをやろうと思ったことはあったんだ?」
華太がイチバンににやにやしながら聞くとうなづいた。
「……僕のベース、目立ちすぎてるみたいで。でも、そんな僕でよければ、ぜひバンド、やってみたい……です」
いい返事をもらえた3人は、ハイタッチした。




