バンド結成1-3
華太の演奏が終わると、真尋は野次を飛ばした。
「ドラムの中山ーっ! 一緒にバンド組んでくれー!」
「のわっ!」
撤収しようとしていたところで、真尋が声を上げた。華太は驚いてコケそうになる。すぐに体制を整えると、華太は客席を見回し、真尋と白玲を見つける。ステージからふたりをスティックで指した。
「っ、てめえら、危ねえだろうが!」
「うるせえ! 俺たちとバンド組んでくれ!」
「はぁ?」
ステージから客席に降りると、華太は真尋の襟元を掴んだ。それにも怯まず、真尋は言った。
「俺は『必ず売れるバンド』を作ろうとしてるんだ。そのメンバーに、お前も必要だ」
真剣な顔で華太を見つめる真尋。華太は手を離すと、ため息をついた。
「……お前みたいなやつは、注意しても変わらないからな。しゃーねえ」
「っ! じゃあ、バンドメンバーに入って……」
「というのは待て。俺も条件がある」
「なんだよ」
真尋をじっと見据える華太。華太はステージにスティックを向けた。
「今から演奏して、実力を見る。俺がいいと思ったら、バンドに入っていい」
「……いいと思わなかったら?」
白玲がおずおずとたずねると、華太は親指を立てて、首にすっと走らせた。大げさな。それも悪くない。真尋は冷や汗をかきながらにやりと口の端を持ち上げる。
「――わかった。やってやろうじゃん」
「えっ!? 真尋、マジかよ」
「ドラム、ゲットだぜ☆」
真尋はそう言ってステージに上がる。それを見た華太もだ。真尋は白玲に手を差し伸べ、ステージへと引き込んだ。
「……じゃ、何の演奏する? お前らに選ばせてやるよ」
「いいのか? よしっ」
真尋は腕を組んで考え始める。思案したのち、選んだのは……。
「『贈る言葉』で。小学校のとき習ったろ?」
「わかった。ところで、ベースは? いないのか?」
華太に聞かれた真尋が頭を縦に振る。
「ベースも募集中だ」
「ちっ、しゃーねぇな。ベースは貸しだ。こい」
一度ステージからはけたベーシストを呼び戻す。ベーシストはやれやれと言った様子で頭をかく。
ベーシストがベースを担ぐと、真尋もギターを肩にかける。ツンタタとドラムも鳴り響く。軽く準備ができたようだ。白玲を真尋がちらりと見る。こほんと咳払いすると、マイクを手にして頭の上で円を描いた。
「スリー、ツー、ワン……」
華太のカウントで、ベースとギターがうねり出す。真尋は汗を飛ばす。ギターソロではなく、ベースとドラムと合わせるなんて、初めてだ。真尋はベースとギターを見ながらうろ覚えのコードをジャカジャカ弾く。
「真尋、もたってるぞ!」
「わかってるって!」
白玲にマイク越しに言われた真尋は、トレモロで誤魔化し華太とベースに追いつく。
「うぉぉぉぉっ!」
贈る言葉の、独白のような歌詞の部分をシャウトする白玲。
「っ!」
それに気づいた華太は、にやりと笑った。ズダダダ、ズダダダとタムが鳴る。
「贈る言葉ぁぁぁ!」
原曲とはまったく違うアレンジの贈る言葉を歌いきった白玲。演奏が終わると、真尋も汗まみれで肩で呼吸する。頬を伝う汗を拭うと、真尋は白玲と固く手を結ぶ。
「――どうだ、俺たちは」
「……」
ノースリーブのシャツで顔を拭っていた華太は、じっと真尋を見る。
「よかっただろ?」
「は?」
「えっ」
自信満々に聞いてみたのに、ぽかんとする華太に焦る真尋。しばらく見つめ合っていたのに、華太は首を左右に振った。
「だーめだめ。ギターがもたったから誤魔化すために早弾きしたのだってバレてるし。ボーカルは喉が温まってないのはわかるけど、シャウトとデスボでこっちも誤魔化してる。優しい客はともかく、同業者にはバレッバレだからな?」
「うっ……」
華太に言われたふたりは、しょぼんと肩を沈める。
「というわけで、バンド勧誘は失敗。お疲れさん!」
それだけ告げると華太はステージから降りていく。真尋と白玲は黙ったまま、ステージで硬直する。華太と一緒に出ていたベーシストが、ふたりを見かねてこそっと言った。
「一応、バンド演奏はこの辺で、あとは出入り自由の打ち上げだからさ」
「……敗者復活」
「ん?」
ベーシストは首を傾げる。真尋はそんな彼の首を掴んだ。
「このステージで、もう一曲、やっていいですか!」
真尋の勢いに押されるベーシストは、頭をぽりぽりかくと、仕方ないようすで肩をすくめた。
「……まぁいいけど、片付けはちゃんとするのと、君たち持ち歌あるの?」
「今日はコピーで! 行くぞ、白玲!」
「え、えぇっ!?」
再びステージの上に立つふたり。白玲は真尋にたずねた。
「何歌えばいいんだよ、真尋!」
「……シャムキャットの『1/3』だ!」
そう叫ぶと、さっそく前奏を弾き始める。ドラムとベースがないので、少々寂しい。それでも構わずマイクスタンドに絡みつく、白玲。
『なくしたと思った1/3のハートが僕の心を満たしていく』
真尋は歌う白玲を見ながら息を合わせて演奏する。真尋と白玲は、歌とギターを合わせたのは実は今日初めてだった。
初めてなわりに、先ほどの『贈る言葉』はずいぶんうまく演奏できたと思ったのだが……。華太はもたってることに気づいたし、シャウトで誤魔化したことにもバレた。やはり、そう簡単にはいかないか。
真尋の得意なトレモロ奏法。エンディングまで突っ走る。
『Ah……Oh』
白玲の声がマイク越しにくぐもる。ため息のような優しいボイス。真尋はふと目をきらめかせた。こんな声……というか、音、出せるんだ。
ジャランとギターのボリュームを小さく下げていく。3コード弾くと演奏は終わった。
「……ふう」
真尋は手を止めてため息をつく。ちらりと白玲を見ると、マイクを掴んだままうなだれていた。
やっぱり俺たちの演奏は……そう弱気になったときだった。客席から拍手が聞こえる。しかもひとり、ふたりじゃない。大きく頭の上で手を叩いてくれている。
「えっ……」
「よかったみたいだな?」
白玲はにっこり笑うと、真尋と拳をぶつけ合う。そんなによかったか? 今の演奏。白玲のシャムキャットの『1/3』は、よくカラオケで歌っていたから、演奏に合わせやすかったんだ。
照れながら頭をかいていると、大きな拍手。見上げるとそこにいたのは華太だった。




