バンド結成1-2
放課後、真尋と白玲は吹奏楽部が練習している地下1階のエントランスにいた。吹奏楽部というか、ブラスバンドだ。部員は楽器を持って並んでいる。先頭には旗を持った女子がいる。
お目当ての鼓笛隊を探すと、いた。小太鼓を抱えて軽やかに演奏している。
ブラスバンドが練習している中、演奏が止まるのを待つ。1曲終わると演奏はストップした。その隙に、真尋と白玲は小太鼓の男子に声をかけた。
「やぁやぁやぁ。鼓笛隊の君っ! 待ってたよ!」
「……あんたたち、何」
ドラムの男子はバチで太鼓を軽く叩いている。真尋は男子にたずねた。
「君……バンドやらない? ドラム」
単刀直入に聞く。しかし、男子は当然首を振らなかった。
「見たらわかるだろ。俺はブラスバンドやってるんだよ。それに、鼓笛隊の太鼓とドラム、全然違うだろ?」
図星を指されると、真尋は唇を噛んだ。やはりそう簡単にはいかないか。真尋は食い下がって質問した。
「君がダメなら、ドラムでいいやつ紹介してくれよ」
「軽音部に行けよ……」
呆れたように突っぱねられる。そりゃあバンドを組むとかドラムが必要なら、軽音部を訪ねるのが当たり前だ。
「やっぱ軽音部かぁ」
「じゃ、俺、練習中だから」
「あ、あぁ……」
男子が去ると、真尋と白玲は顔を見合わせた。
「やっぱ軽音部かぁ……」
「行くだけ行ってみようぜ」
「なんだかヘッドハンティングみたいで好かんがな」
話をしながら地下、ブラスバンドが練習している廊下の隣の教室を訪ねてみる。するとそこではバンドの演奏が始まっていた。
「――すごいな、調和が取れてる」
真尋は演奏を聴きながら考え込む。こんないい演奏をするバンドから、ドラムをヘッドハンティングするなんて――。ドラムだけじゃない。ベースもだ。そう簡単には行かないだろう。
真尋は軽音部の扉の前で止まる。
「行かねえのか?」
白玲がたずねると、真尋が意を決するように扉をノックした。
「はぁい!」
部室から高い声。女子だ。真尋は扉を開ける。そこには軽音部員が勢ぞろいだった。
「何、軽音部に用?」
ボーカルの女の子は、急に入ってきた真尋と白玲をじろりと見つめる。真尋はごくりとつばを飲んだ。
「実は……バンドを組みたいと思って。ドラムとベースが必要なんだ」
真尋がそう言うと、女の子は腕を組んだ。
「バンドメンバーがいないから、軽音部から引き抜こうと思ったってわけ? あいにくこっちも今の体制でいっぱいいっぱいだからね」
「俺たち、この軽音部の演奏で手一杯なんだよ。バンドの掛け持ちはできねぇな」
「俺も同じく」
ドラムの生徒とベースの生徒が難しい顔をする。ふたりを見やると、ボーカルの女の子が手をぽんと打った。
「そうだ。駅前のライブハウスによくでているドラムの子って、うちの高校の生徒じゃなかった?」
「あっ、そういえば。でもあいつ、自分の演奏と互角じゃないと、バンドメンバーにはならないんじゃ?」
ドラムの生徒がそう言うのを最後まで聞かず、真尋と白玲は軽音部の生徒たちに礼を言ってその場を立ち去る。
「ヒントありがとう! ライブハウスのドラムな! 声かけてみるよ!」
「あぁ、だからうまい演奏できねぇと組んでくれない……って行っちゃった」
軽音部の生徒たちを尻目に、真尋と白玲は駅へと向かうことにした。
北寄駅西口にあるレアーズ。ビルの地下1階がライブハウスだ。今日の出演バンドは不明。ただ、軽音部の女子ボーカルの助言でここまで来た。
「なぁ真尋。軽音部の子が言ってたのは、ここのライブハウスによく出てる高校生のドラマーってだけだよな。名前すらわからねぇ」
「名前を聞き忘れたのは致命的だったな。それに今日のライブハウスの出演者かどうかもわからない」
「ダメじゃねーか」
ふたりは仕方なく地下へとつながる階段並ぶ。どうやら今日の出演バンドのファンみたいだ。制服姿なので補導されないか心配だが、バンドのファンの中にも制服姿の人もいる。まぁ、心配ないだろう。
真尋と白玲もファンと一緒に並ぶ。17:00。開場だ。地下のライブハウス入口に、券のもぎりが立つ。並んでいたファンたちは、今日出るバンドで自分のひいきの名前を告げる。金を払うと、ドリンクチケットと引き換える。
……次が真尋の番だ。もぎりは真尋にたずねた。
「ワンドリンクで1500円ね。で、どのバンド目当て?」
「あ、あの……実は俺たちと同じ学校で、よくこのライブハウスでドラムを叩いてるってやつがいるって聞いて」
「君らと同じ学校?」
もぎりの、ピアスをじゃらじゃらつけたお兄さんは手を差し出した。
「ほれ、先にチケット買えよ」
「あっ、はい……」
1500円は学生にしては高額だ。白玲は真尋に肘打ちした。
「俺は巻き込まれたんだから、お前が払えよ」
「ちっ、さっき歌代1000円払っただろ。500円くらい払えよ。これから一蓮托生なんだから」
「ったく……」
白玲は仕方なく1500円取り出した。1000円は真尋が先ほど払った金だ。ふたりは金を払うと、もぎりの兄ちゃんに向いた。
「で、高校生のドラムス。何て名前なんですか?」
たずねると、あごをさすって笑った。
「中山華太。高校2年。うちのライブハウスで、ドラムスが足りないバンドのピンチヒッターとしてステージに出てる」
「あの、うまい演奏のバンドじゃないと組まないって聞いたんですが……それだけ上手なんですか?」
「……今日も出るから、ステージを見て確認しな」
そう言うと、分厚い扉を開く。真尋と白玲はライブハウスに足を踏み入れた。
ともかく演奏の前にワンドリンクオーダーする。ふたりは未成年なので、ミネラルウォーターだ。ドリンクバーで水を手に入れると、ステージにライトが当たり、客席が暗くなった。どたどたとステージに人が集まる。立てかけられていたギターやベースを手にするバンドメンバー。……いた。目当てのドラマーもイスに座る。
スティックを高く振り上げると、ドラマーは大きく声を上げた。
「ワン、ツー!」
演奏が始まる。ギターの音が魔法のようだ。ベースも地に足がついている。大地の鼓動だ。そしてドラム。腹を揺さぶる激しいリズム。
――こいつしかいない。
真尋は汗まみれでドラムを叩く中山から、目が離せずにいた。




