バンド結成1-1
和宮真尋はギターを持って、近くの氷川神社まで訪れていた。バイトした金で買ったギター。今は練習中だが、景気づけだ。一応、ギターもお祓いしてもらおうと思った。けども祈祷は5000円と、ちょっと高い。学生としてはポンと払えない額なので、ギターを背負って賽銭箱の前にやってきた。祈祷にはならないかもしれないが、何もしないよりはマシだ。
俺は5円玉を賽銭箱に投げ入れ、ギターを背負ったまま二礼二拍手拍手する。手を合わせてむむっと念を込める。――一応これでいいだろう。
最後に一礼すると、真尋は境内で売っている絵馬に目をやった。1000円。いくら高くても絵馬は欠かせない。真尋は巫女さんに絵馬代とおみくじ100円を支払った。まずはおみくじ。棒を取り出して番号を告げる。巫女さんは引き出しからおみくじを出してくれた。結果は平。平ってなんだ。聞いたことないぞ。スマホで調べてみると、『平』とはどうやら『普通』というそのまんまらしい。――普通、か。平凡な真尋らしく、自分でも笑ってしまう。
そして次は絵馬だ。ペンを借りると、真尋はでかく願いごとを書いた。
『バンドを組んでビルボード1位になりたい!』
我ながらビッグマウスだ。でも高校生がデビューしてオリコンの順位に入っている若者も今じゃ珍しくない。だから、俺も負けたくない――真尋は絵馬を書くと、わざと目立つところに飾った。有言実行。できたらしたい。
真尋は頭を下げると、境内から出て行った。
ギターを持ったまま、高校に向かう。ギターを持参しても、軽音部の生徒もいる。そこまで目立つ訳ではないが、真尋は軽音部ではないので、少し気恥ずかしい。ロッカーにギターをしまうとホームルーム。日直が号令をかける。担任の話はいつも通り楽しくなかった。ただ、最後のひと言を除いて。
「もうすぐ文化祭だな。何かやりたいことがあるなら考えておくように」
「っ!」
真尋は目を輝かせた。文化祭でやりたいこと。自分にはある。ロッカーに立てかけてあるギターをちらりと見る。真尋が文化祭にやりたいこと。それは――
「で? ギターを持ち歩いてるのは、バンドメンバーを募集してるからなんだ」
昼休み。ギターを持って屋上で昼飯。連れのクラスメイト・大里白玲と一緒に昼メシを食っていた。白玲は生クリームを挟んだクロワッサンと、それに合わなそうなおにぎり3つ、ツナマヨといくら、昆布。
真尋は卵とハムのサンドイッチだ。サンドイッチを食べながら、ギターを取り出して爪弾く。まだ買ったばかりのギター。たまにギターを持っているクラスメイトに借りて練習はしていたが、バイト代で買った自分のギターとは大違いだ。やっぱり自分のものとなると、テンションが上がる。
真尋は赤いボディのギターをチューニングしながら、鼻歌を歌う。サンドイッチを食べ終えると白玲に言った。
「バンドメンバーねぇ……。軽音部のやつとかどうよ。ってか、軽音部に入ったら解決する話じゃねえの」
おにぎりを食べながら白玲がたずねるが、真尋は首を左右に振った。
「俺は部活でぬるま湯の中バンドをするんじゃねえ。本気で狙うはビルボード1位よ」
「はいはい。面倒くさいやっちゃなぁ……。でもバンドメンバーがいなかったら、バンドにならんだろ」
そう白玲に言われた真尋は、ギターのコードをかき鳴らす。
「これがC、F♯、Bm……コードはしっかり覚えてきてる。あとはメンバーだ」
「どうやってメンバー探してるんだ?」
「氷川神社にお参りして……」
「神頼みかよ、ダメじゃん」
「いや、ギターを背負ってたら誰か声かけてくれるかなぁって」
「ずいぶん受け身じゃねーか。で、いたのか? そんな輩」
「……」
白玲の言葉に閉口する俺。流行った漫画みたくギターを背負っていれば、バンドに興味がある人に声をかけられると思っていたが、そんな甘い話は当然ない。やはり実力で探さないといけないのか――。
真尋はギターを紡ぐ手を止め、白玲に顔を向けた。
「お前、確か合唱コンクールのとき、ソロパート歌ったことあるよな」
突然振られた白玲はきょとんとして、頬をかいた。
「あのなぁ……それだけのことでもしかしてボーカルに誘ってる? はっ! やめてくれよ」
「まぁまぁ。俺はお前の声、好きだけどな。それこそ金を払っても聞く価値があると思ってる」
「……」
白玲は真尋を見上げる。腕を組むと、真尋に言ってのけた。
「そうだ、本気で俺をボーカルに勧誘したいんだったら、俺の歌に金を払ってくれよ。どーせそんなこともできないだろ」
白玲がからかうように告げると、意外なことに真尋は財布を取り出した。
「わかった。千円払う。『翼をください』、歌ってくれるか?」
「嘘だろ……」
白玲はピッと、千円札を受け取る。すると真尋はギターで『翼をください』のコードを弾き始めた。
ギターと白玲の声が、屋上で響く。歌いきった白玲も、演奏を終えた真尋も、満足感でいっぱいだった。真尋のギターはまだ練習中とは言え、白玲の声とマッチしている。声も澄んでいて、のびのびと学校の空に響いた。
「――これだけ気持ちいいんだから、やってくれるよな? ボーカル」
「てめぇ……」
「白玲、バンドのボーカルをやってくれるか? ハイかイエスで答えろ」
「断れねぇじゃねえか。これだけ広いところで歌ったら、気持ちいいってわかったら……断りづらいわ」
「じゃ、決定な。よろしく、ボーカル」
真尋はそう言って拳を白玲と合わせる。白玲も渋々ではあるが、こつんと拳をぶつけ合う。――これでもう、断れない。
白玲はさっそく真尋にたずねた。
「バンドするのにギターとボーカルだけじゃダメだろ。某ロックユニットみたいに成功するかわからねえし、あとベースとドラムは必要だろ」
「……それが問題なんだよな。ベースやドラムやってるいいやつっていないかなー」
おにぎりを食べる白玲はギターを触っている真尋にたずねた。
「軽音部くらいしか心当たりはないよな」
「……そうだ! 吹奏楽部の鼓笛隊はどうだ?」
「吹奏楽部の太鼓とバンドのドラムは違うだろ……」
白玲は呆れながらおにぎりにかじりつく。ベースとドラム。何も手がかりのないまま、どうするか真尋は悩んだ。




