男子、メイクアップ!5-3
どうやら文化祭のステージで、男女対抗で勝負をしようとしていたらしい。まぁ勝手に勝負していても僕としては関係ないのだが、そのせいで人がたくさん来て、防犯上危険になったら困る。ここはやはり事前にチケットを配って、人数を制御したほうがいいな。
僕はそのことをみんなに伝えた。
「仕方ない……か。でもたくさんオーディエンスが来て、モッシュとかしたら盛り上がっただろうなぁ……」
和宮が残念そうにつぶやくと、中山がいさめた。
「モッシュは今、ライブ会場でも禁止されていることが多いからな。さすがに怪我されて責任を負わせられたら困る」
「ジャズのステージはあんまりそういうのないんですけどね」
領土がうーんとあごに手を当てつぶやく。その話を聞いていた女子たちは、FDを笑った。
「バンドって、やっぱり危ないのね。あたしたちのファンと大違いじゃん」
河合が勝ち誇ったように笑うと、極がヅカ愛好会らしく「まぁまぁ」とオーバーアクションした。
大里はむすっとして、僕に聞いた。
「俺たち大トリだし、学校から帰る人たちがちらっと見ていくかもしれないんだけど」
「……ふむ。わかった。ステージ周りの動線も考えてみることにしよう」
そう言ってフラペチーノを口に入れる。他のみんなも堂島と寺山の奢りのスイーツドリンクを飲む。季節は夏を過ぎたばかり。まだまだ暑い。
僕がノートを見ながらドリンクを楽しんでいたところ、青田がたずねてきた。
「上崎くんは、どのステージを見たいとかないの?」
「そうだよ! 当のお前は見たいステージはあるのか?」
和宮も同じ質問をする。それを聞いていた堂島と寺山も、視線を僕に向ける。
「ボクたちは無理やりダンスを見てもらおうとしたけど、上崎自身はどう思ってるんだ?」
「確かに知りたいっていうか……上崎本人は福の神パワーを使いたくないのはわかってるけど」
みんなから視線を向けられた僕は、パンフレットを見た。
頼まれたから見る、というのを抜きにして、純粋に見たいステージか。僕はぽそりとつぶやいた。
「……マジックショーかな」
「マジック!?」
みんなが驚く。他にも出し物は色々あるけど、マジックショーなんてあんまり見る機会ないからな。昔だったらデパートの屋上とか、遊園地のステージとかでやっていたんだろうけど、すっかりそんなイベントもなくなってきた。
僕の話を聞いていた星川が納得したようにうなづく。
「なんかわかるわ。マジックならゆっくり座って見られるしな」
「それなら私たちだってのんびり観劇できると思うけど?」
にっこりと花柳が僕を見つめる。僕は手を顔の前で振ると、再びステージに出演するグループたちのタイムテーブルを確認する。
「……待てよ。クレイジー・グラスが出演中止となると……くじで落選したチームが敗者復活するのか?」
「えっ、本当!?」
アイドル研の3人が、ぱあっと顔をきらめかせる。僕は落選したグループをちらりと見る。
「またくじかじゃんけんで決めるか」
「……上崎ぃ、そんなこと言わないで、ずばりあたしたちに決めてよぉ~!」
河合が色仕掛けを使ってくる。だけど、くじもじゃんけんも平等でなくてはならない。僕は厳しい視線で首を振った。
「当然ひいきはなしだ。明日、落選したグループに集まってもらう」
僕はそう言って、SNSで落選したチームにメッセージを送った。……うん、これでよし。
「文化祭は正々堂々と。ひいきはなしだ」
「ひゅーっ! かっこいい!」
星川と月本が指笛を吹いて茶化す。ダンス男子のふたりは、女装したまま魂が抜けているようにぽかんとしてテーブルに頬杖をついている。
アイドル研は嬉しそうに手を取り合って喜んでいた。
「――では、また明日文化祭実行委員会を開くけど、みんな出席してくれ。よろしく」
僕はそう言うと、ノートをカバンにしまい、立ち上がった。
「星川、月本、会計」
「……え? ワンドリンクサービスだよ?」
首を傾げるふたりに、僕は真面目に言った。
「文化祭はひいきなし。もちろん君たちもだよ。メイド喫茶で売上MVPを狙っているんだろ? だったら賄賂を疑われたら困るのは君たちだ」
「あぁ、そういうことか」
「堅物だなぁ、上崎は」
星川と月本がやれやれと言った具合に笑う。僕はみんなに手を振ると、アルテミスを出た。
――そして翌日。ステージ落選組のくじ引きをするため、また放課後文化祭実行委員会を開催した。落選グループだけではなく、ステージに出演が決まっているグループも同席する。
僕は箱にくじを入れると、落選チームに渡す。全員がくじを引くと、紙を開く。当選したのは――
「やったぁ! 密! リン! 当たりだよ!」
喜んでいる河合を見て、アイドル研が当たったのがわかる。ぱらぱらと拍手が鳴り響く。
「……マジかよ」
「FDのみんな、ライバル登場! だね」
和宮が顔を引きつらせる中、極が面白そうに笑う。河合たちはFDをびしっと指さした。
「ふっふっふ……負けないわよ、あたしたち」
「言ってろよ。俺たちは完璧なステージをこなすだけだ」
「……」
不祥事で、謝罪のために委員会に来ていたダンス男子は、黙ってうつむいたままだ。少し罰を与えすぎただろうか。僕はちらっと堂島と寺山を見た。
「あーあ、ここまで一生懸命練習してきたのにな」
「仕方ねえよ。やりすぎたんだから」
「……堂島、寺山。これでも僕に踊りを見て欲しいなら、文化祭が終わったあとなら、見てもいいが?」
僕が提案すると、ふたりは顔を上げた。
「いいのか? 上崎」
「ああ」
「……ありがとな」
こうして色々あった文化祭準備。いよいよ来週だ――。




