男子、メイクアップ!5-1
「堂島、寺山。お前らはちょっと顔貸せよ」
昇降口で、星川と月本が声をかける。堂島と寺山はびくりとしたように顔を上げた。
「お前ら、上崎誘拐して、ただで許されると思うなよ? 謝ってもないだろ」
星川がドスの効いた声で言う。月本もふたりをにらんだ。
「……お前たちの狙いは、上崎の『福の神パワー』だろ。それならもっとアイデアはある。だからきちんと上崎に謝れよ」
「うっ……」
「そうだよ、これっていじめじゃん! 先生たちはあんまり怒らなかったけど、福の神にそんな暴力よく振るおうと思ったよね」
河合も冷たく言うと、極がうんうんうなづいた。
「確かに……ね。上崎が神様の力があるかどうかはわからないけど、神様に対してひどいことしたら、天罰が当たるだろうね」
「……わかった。謝るよ。ごめん、上崎」
堂島と寺山が謝ると、星川と月本がふたりの腕を取った。
「謝るついでに、お礼たちがイイコト教えてやるよ」
「っ! お前らさっきから顔貸せとか、一体なんなんだよ」
寺山が聞くと、月本が頬をつまんだ。
「痛えって!」
「お前ら、顔整ってるじゃん? だったら女装メイクが似合いそうだなと思って。本番、ステージに出るとき女装で出たら、上崎の福の神パワーを使わなくても、盛り上がるんじゃないかな」
「これは俺たちのたなごころだよ」
「女装メイク……」
堂島と寺山は怯えるように星川たちを見る。まぁ、確かにふたりの女装は似合いそうだ。それでダンスをしたら盛り上がるだろう。ただ、踊っているやつの正体がわからなさそうだが。
星川たちは、その場にいた全員を誘った。
「これから堂島と寺山を女装させて写真撮ろうと思うんだけど、また俺たちの店来ないか? お前ら全員俺たちのいい太客だからな」
月本は俺の肩に手をやった。
「上崎もな。お前の情報料でがっつり稼がせてもらったから、今日はワンドリンク無料でいいよ」
俺は何のことかわからなかったが、月本を見た。
「……放課後頼通は校則に反するが」
僕がそう言うと、大里がケラケラ笑った。
「ったく、上崎は厳しいなぁ。いいじゃん。一杯ドリンク無料だぞ。一緒に行こうよ」
中山もうなづいた。
「お前、堂島と寺山にひどいことされただろ? だったら復讐するところ、見たいと思わないのか?」
……復讐か。確かに体育館倉庫に閉じ込めるなんて暴力行為を受けた。ふたりが反省すればいいのだが……。
僕は少し考えてから、こくんと首を縦に振った。
「堂島と寺山は、それで反省するのか?」
「……まぁ」
ぼそりとふたりはつぶやく。僕は了承した。
「……わかった。喫茶店で一杯ごちそうになるよ」
「ねぇねぇ、あたしたちにもサービスはないの?」
青田が月本にたずねる。それを聞いていた星川が笑った。
「そんないつもサービスできねぇよ」
「なんだぁ。今日情報料ひとり800円払ったのになぁ」
そんな話をしつつ、僕たちは、星川たちの仕事先であるメイド喫茶店・アルテミスへ向かった。
「……へぇ、こんな場所に喫茶店があるんだな」
「しかも女装メイド喫茶だ。さて、と」
僕がきょろきょろと店内を見回していると、堂島と寺山の背中を星川が押した。
「お前らふたりはこっち! 今からメイクするぞ!」
「マジでするのかよ……」
「ほら、来いっ!」
強制的にふたりはバックヤードに連れて行かれる。月本は僕らにメニューを渡した。
「とりあえずドリンク選んで。上崎はサービスだけど、他のみんなは一杯頼んでよ」
月本がいうと、和宮は苦笑いを浮かべた。
「ほんっと商売うまいなぁ」
「僕、そんなに毎回お茶するお金ないですよ……」
「しゃーねーな。イチバンの分は今日だけ俺が奢ってやるよ」
大里が先輩風を吹かせると、領土が目を輝かせた。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「イチバンもうまいな……」
中山がぽつりとこぼす。確かに後輩にいい顔したい気持ちもわかる。
僕は初めて来た女装メイド喫茶に落ち着かないでいた。ピンクと白を基調としたインテリア。働いている美人な女性たちは……男なのか。女性に見紛うのは、流石なのだろうか。
「ドリンク決まったー?」
月本が伝票を手にする。どんなドリンクがあるのか、メニューに目をやる。普通のコーヒーやジュースもあるが、600-800円くらいで、フラペチーノやパフェみたいなものも選べる模様だ。
「じゃあ僕は……この『らぶらぶスイート♡チョコフラペチーノ』を」
僕が真顔でオーダーすると、和宮がお冷やをぶっ! と噴き出した。
「なっ……上崎ってそんなキャラだったの!? 真面目な顔で『らぶらぶスイート♡』って……」
「メニューに書いてあっただけだ。それよりみんなはドリンク決めたのか?」
僕がメニューを渡すと、テーブルについたFDやアイドル研、ヅカ愛好会もそれを見る。
「じゃ、俺は『かわいい私のバナナシェイク』かな」
「セクハラやめろよ」
大里に和宮がツッコむ。わいわいとみんなでドリンクを決めると、メイド姿に着替えた星川の声がバックヤードから聞こえた。
「おいっ! 観念しろっ! かわいいんだから!」
「こんなん……辱めじゃねーか!」
「なんでこんなにスカートが短えんだっ!」
堂島と寺山の声がする。ドリンクのオーダーを受けて、バックヤードに入った月本も、ふたりに向かって叫んだ。
「うっせえよ! かわいいって褒めてんだろっ! 似合うから出てこいやぁっ!」
……まるでマル暴じゃないか。呆れていると、みんなもやんややんやと騒ぎ始めた。
「さっさと出てこいよ、ダンス男子!」
中山が声を上げると、女子たちも賛同した。
「女装の何が恥ずかしいのか?」
極が頭にはてなマークを浮かべると、河合も野次を飛ばした。
「そうよ! あたしたちなんてフリフリな衣装で踊ってるんだからね!?」
「……女装姿を見せたくないって、ある意味逆に男らしくないですね」
大人しいと思われた領土が、クールにつぶやく。するとようやく決心がついたのか、奥のカーテンが揺れた。
「――わかったよ」
「お前ら、笑うんじゃねーぞ!」
堂島と寺山の声が奥から聞こえる。
「お待たせしましたー! ご主人様たちにドリンクお持ちしまーす!」
トレイにドリンクを乗せて現れたのは、ロングヘアのかつらを付けて、女子のようなメイクをした、ダンス男子ふたりだった。




