謎の主人公 4-4
「ボクたちのステージを見てくれるなら、ボクか縁のどちらかの恋人にしてやるよ」
僕のあごに手を当てると、堂島はじっと瞳を見つめる。僕は黙って堂島を見る。――ん? え? 今なんて言った? 『恋人にしてやる』? 僕はぽかんとしたまま、堂島に視線を向ける。僕は男だ。もちろん堂島も、寺山も。
「……君たち、性自認は女性なのか?」
僕がたずねると、ふたりは噴き出した。
「はっ!? ボクたちが女ぁ!? なんでそうなるんだよ!」
堂島はあっさり否認する。寺山もだ。
「……オレたちは、その辺の女より美形だし? 男としてもイケメンだからな。同性でも恋人になりたがるやつは多くてね」
「僕はゲイじゃない。つまり、君たちに恋人として立候補されても、思いに答えられない」
「はぁ、色仕掛け、失敗か」
堂島は髪の毛をかき上げる。確かに彼ら、女子にはモテていたっけ。あまり他人の恋愛事情には興味なかったから無頓着だったけど。
色仕掛けってことは、つまり僕を籠絡してファンにして、福の神パワーを独り占めしようとでも考えていたのだろう。
僕はどうしたものかと息を落とした。
――そんなに僕の持つらしい『福の神パワー』ってすごいのか? まぁ確かに、学校の一部の生徒たちにはそんな能力があることを気づかれているみたいだが、本人である僕は自分でもよくわかっていないのに。
だけど、例えばその能力が本物で、見たものがすべて人気になるなら……まぁ、売れたい芸能人たちは藁にもすがる思いで、僕に声をかけるのだろうな。
だからって、体育館倉庫に閉じ込めたり、同性に色仕掛けを使ってまで売れたいのか? 芸能人って訳わからん。
「悪いが、君たちが僕に対して暴力を使った時点で君たちのダンスは見ないと決まった。諦めて解放してくれるだろうか」
僕が立ち上がって、ズボンの埃を叩こうとすると、寺山が僕を抱きしめた。
「――なっ……」
「刻っ! さっさと写真撮れ!」
「っ! お、おうっ!」
「君たち何を――」
僕が寺山を突き飛ばした瞬間、外の光が差し込んだ。
「ここに上崎はいるはず……」
誰かわからないが、助けが来た。僕はその場にいることをアピールした。
「ここだっ! 上崎だっ! 堂島と寺山に閉じ込められてっ……」
「上崎!」
「くっ、誰だよ!」
名前を呼ばれた僕は、扉のほうへ駆け寄る。そこにいたのは、FDのメンバーと、男子ふたり。アイドル研究部とヅカ愛好会の女子たちだった。
「大丈夫か? 上崎」
「あぁ、まぁ……。よく僕が連行されたことに気づいたな」
僕がそういうと、和宮が女子を見た。
「俺たちが上崎に会ったあと、女子たちもお前に会いに来たんだよ。そしたら教室からいなくなってて……」
「そうそう。それで星川と月本が防犯カメラをハッキングして、どこに行ったか調べて……」
「何? 防犯カメラをハッキング?」
「い、いや、緊急事態だったから!」
まぁ、助けてもらったんだから文句は言わん。僕はみんなにお礼を言った。
「助けてくれてありがとう。――女子のみんなも、僕の福の神パワーが目当てなんだろ?」
「うっ、面と向かって言われると、なんだかズルしているような気がするけど」
河合がつぶやくと、赤塚と青田がフォローする。
「紗理、あたしたちが上崎を助けたのは事実でしょ!」
「そうだよ! 正々堂々お願いしよう!」
「う、うん……。上崎くん。その『福の神パワー』を分けてくれないかな?」
河合は照れながら僕にお願いする。アイドル研究部というのは伊達じゃない。アイドルを研究しているだけあって、目線の送り方やかわいらしく見える動作なんかもツボを突いている。僕はかわいく頼まれて、満更じゃない。だが、僕は首を左右に振った。
「アイドル研の君たちは、FDたちが僕のところに来たのは知ってるのか?」
「うん、そのあと5600円払って情報を……」
「なんだその『5600円』って」
「わあぁぁっ! 何でもないって!」
「上崎、気にしないで!」
星川と月本が誤魔化そうとする。まぁこいつらのことだ。あこぎな情報商売をしていたんだろう。
僕はふぅ、と息をこぼすと、女子たちとFBを前にいささか厳しく言った。
「僕の福の神パワーなんて迷信だろうし、もし本物だとしても、今まで頑張って来たのに僕の力のおかげとかになったら、つまらないだろう?」
「……」
腕を組んで演説すると、和宮が頭をかいた。
「だよなぁ……。最後の最後に願かけしたいところだけど、それで成功したら確かに微妙ではある」
大里と中山も唸りながらではあるが、納得しているみたいだ。FDもアイドル研もヅカ愛好会も、楽器や歌、踊りを練習してきたのに、関係ない第三者が見ていたからという理由で評価されたら、せっかくのステージ、頑張りが無駄になる。
僕が当人だったら、それはちょっと嫌だ。だから、みんなに『福の神パワーは使いたくない』と言っているんだ。
「上崎が優しさから断っていると言うのに、この野郎どもはっ……!」
極は、ドアの近くに転がっていた、堂島と寺山をしらっとにらみつける。花柳と千家は落ちている男子にケリを入れた。
「本当よ。FDもみっくちゅ♡じゅーちゅも上崎くんの元へ来たのは一緒。だけど、誘拐したあなたたちは、レッドカードだわ」
「私たちは引き下がったけど、まさか閉じ込めようとするとはね。雷来、どうする?」
「……」
千家に聞かれた極は、堂島と寺山の顔を見るためにしゃがんだ。
「……ふうん、顔は整ってるね」
「な、なんだよ、極。じろじろと見やがって」
「そんなにオレたちが滑稽か? ちっ」
堂島と寺山は舌打ちする。極は堂島たちから離れると、星川と月本に問いかけた。
「ねぇ、メイド男子。このふたりも、かわいくすることって、できる?」
「かわいく? ……確かに女装したら似合いそうだな」
「そうだね、元がいいから、メイクのノリもよさそうだ。あっ、でもそういうのって、アイドル研のほうがうまいんじゃない?」
星川が言うと、河合は首を振った。
「男子の女装メイクと、アイドルやヅカのメイクは違うよ?」
「なるほど……」
「な、何をっ……」
堂島と寺山を担ぎ上げると、星川と月本は立ち上がった。
「じゃっ、おふたりは『超かわいくしちゃう刑』ってことで!」
「な、なんだよ! 降ーろーせ!」
「はいはい、大人しくしましょうねぇ~?」
星川と月本が堂島と寺山を抱えて体育館倉庫を出ると、ちょうど女子に連れて来られた教師が追いついた。
「遅くなってすまなかった! いじめはどこだ!?」
「いじめ……? あっ」
僕が捕まっていたけど、今だけ見ると、抱きかかえられている堂島と寺山が被害者みたいだ。
僕はメガネを直しながら、教師に言った。
「もう解決しました。お騒がせしたようですが……」
「え? もう大丈夫なのか?」
「ええ。僕たちもそろそろ下校時間なので」
「お、おう。気をつけて帰れな?」
教師は元から余計ないざこざに巻き込まれたくなかったのだろう。僕たちはあっさり解放してもらった。




