謎の主人公 4-2
文化祭が近くなり、僕の仕事もやや忙しくなってきた。文化祭実行委員の女子に言われたステージの警備のこともあるけど、飲食を扱うクラブや、火を使うクラスの確認など、色々届け出が必要だ。
「上崎ぃ~! 備品のリスト、確認してくれぃ!」
「わかった」
同じ委員の男子からリストを渡されると、まず僕は教室でステージのタイムテーブルを確認する。
文化祭は2日間。ステージは1グループ約30分。当日は20グループがステージに立つようだ。
仮のパンフレットに書いてあるステージの順番に目をやる。女子が言っていたFUTURE DORAGON とヅカオンステージは……?
「2グループとも2日目なのか。2日目は一般解放日だったな。確かに警備や動線についてよく確認しておかないとな」
ステージスケジュールを眺めて、どんな出し物があるのか見てみる。軽音部、演劇部、落語研究部など様々あるが、俺の目に止まったのは、マジックショーだった。
「へぇ、マジックショーもやるんだ。面白そうだな」
俺は、パンフレットに書いてあるマジシャン同好会のステージにかける思いを読む。……こういうのがいいんだよな。軽音部とか演劇部は、もちろん盛り上がるだろう。落語研究部も面白そうだけど、個人的には渋い落研より花のあるマジックショーだなぁ。
トントン。
作業の間に息抜きよろしくのんびりしていたら、教室の扉をノックする音が聞こえた。
「すんませーん、文化祭実行委員会の上崎、いる?」
「……同じクラスの、和宮と大里? もしかして、フューチャー・ドラゴンか?」
「あったり!」
白玲が指をぱちんと鳴らすと、中山がふむとあごに手を当て、じろりと俺の顔を見た。
「お前が噂の上崎隼人か」
「っ!」
中山の言葉に僕はぴくりとする。僕が何かで噂になってる――? だとしたら、ただひとつ。
「福の神にしてはガリガリだし、メガネなんかもクールに見えるんだが?」
「悪かったな」
中山は僕を足先からてっぺんまで見る。俺はそれが気分悪くて、咳払いをした。
「こほんっ。――で? 僕に何のようだ? まぁ今までの会話で、薄々気づいてはいるが」
僕がFDの面子を見ると、さっそくリーダーの和宮が僕に言った。
「知っているだろうけど、俺たち大トリでステージに立つんだ。そのステージを、上崎に見てもらいたい。もしよかったら、リハーサルも」
「……」
僕は渋い顔をした。FDは僕のよくわからない力に気づいたか。
――僕の力。それは僕の見たステージは満員御礼になる……というものだ。ステージが満員になるだけではなく、演者が人気になったりもするらしい。僕自身もよくわからないのだが。
僕は自分が客寄せパンダみたいに扱われるのが嫌だった。それでも人気になりたいやつらは、よく僕に声をかけてきた。
「悪いな、僕は知っているだろうけど、文化祭実行委員会なんだよ。リハーサルや本番は見に行けるかわからない」
僕がはっきりと断ると、和宮が食い下がった。
「そこをどうかっ! ちらっとだけでいいから!」
僕はパンフレットを見ながら、小さく唸った。
「ちらっとね……。まぁ、大トリだからな。文化祭の人気投票の集計とかの仕事もある。難しいな」
「マジかよー……っ」
大里ががくっとうな垂れる。ひとグループだけ特別扱いはできないし、FDに言われても困る。僕は手元の書類を揃えながら、FDのメンバーに言った。
「時間が重なって、行けたら行くよ。難しいかもしれないがな」
「おう、できればぜひ見に来てくれ。頼んだぞ」
中山に言われた僕は、軽く手を上げた。FDのメンバーは、ようやく教室から出て行った。
トントン。
来客が出ていき、ふぅ、とため息をついていると、入れ替わりに男子ふたりが扉をノックして入ってくる。
「文化祭実行委員会の上崎隼人っている?」
……まったく。今日は厄日か? 入ってきたふたりは、自己紹介した。
「ボクは堂島刻。こっちが寺山縁。ステージのことで相談があるんだけど」
ふたりの男子が僕の前に立つ。堂島と寺山――確かにステージの企画に名前が載っていたな。ダンスパフォーマンスだったか? でも確か、クジで負けたんじゃなかったっけ。
ま、だけど僕を名指しで来たということは、やっぱり僕を福の神だとか言って勝手に盛り上がっているやつらの噂を聞いたとかだろうか。
僕はむすっとして手を顔の前に組み、頬杖をついた。
「ステージなら見に行かないぞ」
先手でそう言い切ると、堂島は頭をかいた。
「えぇっ、そんなこと言うなよ。ちょっとでいいから、見てくれない? 俺たち、文化祭のステージに出たあと、ダンス大会にも出るんだよ」
「そうそう。だから箔をつけたくてね。上崎が見たものは売れる……お前は先見性や審美眼がある。だから見て欲しいんだよ」
「それは勝手に周りが言っているだけだ。僕はただのイチ学生だよ」
僕はパンフレットを机の横に置くと、作業を再開しようとした。だが――
「上崎、ちょっと付き合って」
「なっ!」
堂島と寺山が僕の腕を無理やり取る。
「お前らっ、暴力反対だぞ!」
「ちょっとだけだから、オレたちのステージ、見てよ」
「あーっ! ったく……」
嫌がっているにも関わらず、堂島と寺山は僕を両脇から抱えて体育館のほうへと連行していく。
仕事病なのか、僕はダンスパフォーマンスをするふたりが、何時からステージに出るのか思い出そうとする。結局僕は、堂島と寺山に引きずられるように、体育館へ連れて行かれた。
誰も居なくなった教室。そこへ来たのはヅカ愛好会とみっくちゅ♡じゅーちゅだった。
FDと男子メイド、ヅカ愛好会とみっくちゅ♡じゅーちゅが対抗して勝負することを一応伝えようと思ったからだ。また、星川と月本が言っていた、上崎の福の神パワーというのも気になる。挨拶するだけでも上崎の力にあやかれるかも? と思ったのだ。
「すみませーん、上崎くん、います?」
河合が声をかけて教室に入る。だが、室内は空だった。開きかけのパンフレット、飲んでいたのかペットボトルのミルクティーが置かれている。教室の外にいた生徒が、女子たちに言った。
「上崎探してるの? さっき堂島と寺山に連れて行かれたぞ」
「……堂島くんと寺山くん? ありがとう!」
話を聞いた女子たちは、すぐピンと来た。
「……誘拐じゃない?」
「かもね。同じ学生同士で誘拐とは変な話だけど。ともかく探してみよう」
極がそう口火を切るを、女子たちはさっそく上崎を探すことになった。




