謎の主人公 4-1
「はぁ……」
僕は大きくため息をつく。まだ僕の力はバレていない。この調子で、文化祭を乗り切れればいいのだが――。
そんなことを考えながら、じゃんけんで負けて担当することになった文化祭実行委員会の会合を終わらせると、下校するため靴箱の前を歩いていた。
「あっ、上崎! ちょっといい?」
同じ文化祭実行委員会の女子に声をかけられる。――もしかして、告白、とか? 僕は秘かに期待する。文化祭のいいところなんて、リア充の恋愛事情が知れるだけだ。根暗な僕には関係ないとわかっているが、やっぱり期待はしてしまうだろう。
「なんだ?」
足を止めて振り返ると、クラスの女子がいた。
「あの、結構文化祭の警備で大事な話なんだけど」
……警備の話か。僕は少し気落ちしたが、ともかく話を聞いてみる。
「上崎はフューチャー・ドラゴンの話、聞いてる?」
「なんだ、それは」
クールに返すと、女子は頭を押さえた。
「やっぱあんたはそうよね……興味ないことはなんも知らない」
「……ケンカ売ってるのか?」
「そうじゃないけど、とりあえず聞いて?」
女子は立ったまま説明する。
フューチャー・ドラゴン。どうやらうちのクラスの和宮と大里、隣のクラスの中山、1学年下の領土が組んでいるバンドらしい。そして先日学校外で対バンライブをした。
「その対バンの相手が、アイドル研究部のみっくちゅ♡じゅーちゅ。さらにステージジャックしたのが、ヅカ愛好会だったんだけど――かなり好評だったらしくて。FDとヅカはステージがあるから、そのとき警備を強化しないと危ないかも」
「善処する」
僕はそう告げると、女子に手を振った。僕自身の能力? はあるけども、それ意外にも問題があるとはな。
リュックを背負うと靴を出し、ひとり下校の途につく。帰りの電車の中、面倒くさいが僕はSNSでFDについて調べることにした。
――変わって女装メイド喫茶、アルテミスではFDがオムライス、女子たちはクリームソーダを食べていた。
接客担当の星川は、ぽろっと噂話を思い出し、オムライスを食べていたFDたちに話した。
「ご主人様たち、『福の神』の噂って知ってます?」
「なんだ、それ」
真尋が聞くと、星川は説明を始めた。
「うちの学校の生徒で、そいつが目をつけたものは必ず売れる! ……らしいんだよ」
ひそひそと話す星川だが、真尋はあまり理解していなかった。
「そいつがどうしたんだ?」
ぽかんとする真尋だが、代わりに白玲がわかりやすく真尋の耳元で話した。
「だーかーら、つまりその福の神を見つけて、ステージを見てもらえば、フィーバー間違いないっ! ってことだろ? な、星川」
「そゆこと」
「なんだそれ。すげえじゃん!」
「反応が遅いです、真尋先輩……」
イチバンがオムライスの最後のひとくちを食べ終えると、渋い顔でツッコむ。華太は女子たちに聞こえないように、星川に聞いた。
「で? その福の神ってのは、名前とクラス、知られてるのか?」
星川はにんまりすると、そこでメニューを持ってきた。
「セイラ、ご主人様にパフェあーんしたぁい!」
「なっ……! し、商売がうまい……」
「何とでも言え」
急に低い声を出した星川だが、月本もにこにこ伝票を持つ。
「福の神の情報が800円かよ……」
「いや? 800円×4人で3200円だよ、ご主人様方々」
荒い商売をしている星川と月本。FDのメンバーたちは、渋々財布の中を確認した。
真尋はFDメンバーの顔を見回すと、覚悟を決めた。
「くっそ! 俺たちも男だ! オーダー! 『きゅんきゅん♡ぱふぇ、メイドのあーん付き☆』!」
「ありがとうございます、ご主人様!」
「うぉぉ……」
華太もオムライスを食べながら悶絶する。オムライスはうまい。うまいのだが、『同じ学校の男子学生』がケチャップでハートを書いている。そして今度はパフェを同性の男からあーんしてもらう。800円で。何が嬉しいんだ。
ヅカとみっくちゅ♡はそんな男子たちを見て、呆れる。
「……男って、やっぱバカだね」
河合がつぶやくと、極がそっと河合の手に触れる。スプーンを手にすると、極はクリームソーダのアイスをすくって、河合に向けた。
「本当だね。……僕だったらいつでもキミにあーんしてあげるのに」
「きゃっ♡さすが極くんっ!」
「営業妨害やめてくださーい!」
月本が白けた声で野次を入れる。真尋が星川の腕を掴んで聞いた。
「……3200円分の情報、出せ」
「もう、ご主人様ったらごーいんっ!」
「そういうのはいいからっ!」
白玲もせかすと、ようやく星川は口を割った。
「和宮と大里と同じクラスに、『上崎隼人』っているだろ? そいつが別名・福の神。上崎が見たもの、気になったもの、聞いたもの、全部ヒットするって噂だよ」
「同じクラスの? 白玲、どんなやつかわかるか?」
真尋が聞くと、白玲は首を捻った。
「うーん、あんまり絡みはないから、よく知らねえけど……なんかいつもニヒルに笑ってるやつだろ。あっ、そういや文化祭実行委員じゃなかったっけ?」
「文化祭実行委員か。……星川、上崎にステージを見せれば、MVPになれる可能性が高まるってことだな」
「あたしたちも上崎をメイド喫茶で接待しようって話をしてたんだよね」
「福の神、ねぇ……」
「それではご主人様方々、パフェですよ~!」
月本がチョコパフェを運んでくる。パフェ自体はおいしそうだ。
「この盛り付けも、あたしたちがやったんだよ。褒めて♡」
「あーあー、すごいすごい」
「もうっ、ご主人様ったら……あーんしてっ!」
ふたりの男性メイドにパフェを食べさせてもらう4人の男子高生。
「うわっ、新しい世界が開けちまいそう……」
「変なこと言うな、白玲。パフェの味に集中しろ」
真尋は目をつぶってパフェを味わう。
「……ってか、味は普通にチョコとバニラソフトクリームだけど、最初見た盛り付けなんかも、よくできてたよな」
「さすが真尋! はい、お礼のあーん!」
「これ、オプションの『あーん』は、パフェを全部食べ終えるまでやるのか? ソフトクリームが溶けるだろうが!」
「あっ、中山!?」
華太はスプーンを奪うと、自分でガツガツ食べ始めた。
「俺は甘党だから、あーんよりひとりで食わせろっ!」
「……まぁ、そんなご主人様もいるよね」
メイドのふたりは苦笑いを互いに浮かべた。




