伏兵・タカラヅカ3-4
「……だけど、どうしてみっくちゅ♡とヅカ愛好会が一緒にここにいるんだよ」
アイスコーヒーのストローをくわえたまま、真尋がじろっと女子たちをにらむ。コーヒーを苦く感じながら、グラスをかきまわしている白玲につぶやくと、白玲もむすっとした。
「メイド喫茶は男の楽園じゃねぇのか」
「まあまあ、女装メイド喫茶ですから」
「おや、男女差別かい?」
イチバンがフォローすると、極が小さく笑う。赤塚が口を開いた。
「あんたたちが食堂でそこの男たちに声をかけられていたところを、花柳さんが見てたのよ」
「ヅカファンのあんたが?」
花柳は長い髪を耳にかけながら、つやのある微笑みを浮かべた。
「ふふっ、ステージに出るもの同士として、どんなことを考えているか、気になるじゃない?」
「はぁ……」
華太が呆れたような視線を向ける。
「つまり、好奇心だよ」
極がざっくり言うと、FDのメンバーは渋い顔をした。
「……ヅカ愛好会さん、あんたらは文化祭のステージに出たあと、何か目標とかあるんすか?」
アイスコーヒーにミルクとガムシロを入れ忘れていた華太が、単刀直入にたずねる。ストローでグラスを混ぜると、コーヒーをごくりと飲む。
FDの目標は、文化祭のステージに出ることだけではない。文化祭のステージは、あくまで中途目標。最大の目標は、ミュージシャンとしてデビューして、ビルボードのランキングに載ることだ。
でも、みっくちゅ♡やヅカ愛好会は、ただ楽しくステージを盛り上げたいとか、自分たちの研究の発表をするためだけに文化祭のステージに立ちたいとか、真尋たちとは目標が違いそうだ。
「……僕たちがステージに立ちたい理由? 『音楽学校生じゃなくても負けないくらいの実力がある』――僕らはそれを世間に認めさせたいのさ」
「……」
真尋たちは黙って極をじっと見た。なんだか訳ありみたいだ。極は河合のほうに目をやると、今度はそっちにたずねた。
「キミたちはどうなんだい? 紗理」
みっくちゅ♡のリーダー、というかアイドル研究部・部長の河合は、赤塚と青田に視線をやってから口を開いた。
「あたしたち、昔はいじめられてたのよ。ぶりっことか、男に媚びてる、とか。それならぶりっこの頂点である、アイドルになっちゃえばいいじゃんっ! ってね」
「安直だなぁ」
「……いや、それはそれで立派な動機だよ」
白玲が呆れるが、千家がフォローした。するとタイミングよく、星川と月本がオムライスを運んできた。
「お待たせしましたぁ~。メイドの愛のオムライス☆ でぇ~す!」
テーブルの上にオムライスを置くと、星川と月本はケチャップを持った。
「ではではご主人様方、オムライスにおいしくなる魔法をかけますね!」
「お、おう……」
華太は少しどぎまぎする。メイド姿の星川と月本は、女の子よりかわいいのではないか。
真尋と白玲も照れ笑いしている中、イチバンは落ち着いていた。
「イチバン、余裕だな?」
華太が聞くと、イチバンは頭をかいた。
「僕、お姉ちゃんがいるので」
「おーっ、紳士だな?」
真尋がからかうと、イチバンは更に照れる。それを見て、面白くなかったのはアイドル研だった。
「何よ、あんたら。アイドルレベルのかわいいあたしたちが一緒なのに、女装した男たちのほうにデレデレしちゃって!」
河合はぷんすかしながら、オムライスに魔法をかけているFDを見る。4人のオムライスに、星川と月本はケチャップでハートを描く。
「はぁい、おいしくなぁれ!」
「おいしくなぁれ!」
「バカみたい」
魔法をかけるメイドふたりとともに呪文を唱えるFDたちに呆れる赤塚。しかし、その様子を見ていた極たちヅカ愛好会3人は、じっと真剣に見つめていた。
「……あの、なんですか?」
イチバンが極たちの視線に気づいてたずねると、ヅカ愛好会は笑った。
「いや、じろじろ見てすまなかった。――ここは、メイドさんたちの『ステージ』だったんだな」
感心したようにヅカ愛好会がメイドたちを褒めると、星川と月本はふたりでポーズを決めた。
「カフェ・アルテミスの看板メイド! セイラと!」
「ナギサ! 見参中っ!」
びしっと決めると、ホールの他の客からも拍手が起こる。ヅカ愛好会の3人もだ。
ヅカ愛好会の3人は、FDとメイドふたりをふむふむと見つめてから、口を開いた。
「アイドル研究部のレディたち。僕らと一緒に組まないか?」
「……へ?」
ヅカ愛好会にふと呼ばれたみっくちゅ♡3人たちは、驚いた表情を浮かべた。そこで千家が補足する。
「私たち、3人だけだとステージでできる芝居が限られちゃうんだよね。だから、一緒にステージに出ようよ!」
「……いいの?」
「もちろんよ」
花柳も優しく笑う。逆に焦ったのはFDだ。
「お、おい、いいのかよ」
白玲が真尋の肩を揺さぶる。真尋はオムライスに夢中だ。
「真尋!」
「ふふっ、FDさんはあたしたちと組めばいいでしょ?」
白玲に言ったのは、星川と月本だった。ふたりは極たちヅカ愛好会の3人を見て、ふふんと鼻息を荒くした。
「ヅカ愛好会たちは、男のあたしたちを見て焦った……。だから、みっくちゅ♡と組もうとした。でしょ?」
艶っぽく笑う星川に、極は前髪をかき上げてから肯定した。
「……メイド喫茶というステージで、これだけお客を楽しませてるのはプロだよ。僕は感心した。そして……負けられないって思った」
「よしっ、それなら文化祭で勝負しようぜ。俺たちFDとメイド喫茶・星川、月本対みっくちゅ♡&ヅカ愛好会」
「何の勝負ですか?」
勢い込んだ華太が立つと、イチバンが見上げる。少し華太は考えるが、代わりに口を開いたのは星川だった。
「文化祭のMVPを投票で決めるらしいじゃん? アイドル研&ヅカとFDとメイド。男子か女子、どっちがMVPになるか、勝負すればいいんじゃない?」
「それだ!」
星川の提案に、賛成したのは華太本人だった。華太はリーダーの真尋を見た。
「MVP獲れたら、デビューに箔がつくぞ?」
「……悪くないな、それ」
真尋もにやりと笑みを浮かべる。
「フッフッフッ、負けないわよ。フューチャー・ドラゴン!」
「それは俺たちの台詞だ!」
赤塚が啖呵を切ると、白玲も腕まくりする。イチバンはオムライスのケチャップが口元につくのも構わず、ガツガツと食べていた。




