伏兵・タカラヅカ3-3
「えっ、いいのか?」
真尋が言うと、月本は腕をまくった。アイスコーヒーを持ってきた星川も、月本のフォローをする。
「ナギサは美大受験する予定なんですよ。文化祭のTシャツのデザインをしたら、実績になるじゃないですか」
「あー、なるほど」
白玲が納得する。月本はノートを持ってきてテーブルにつく。
「それで? どんな感じのデザインがいいんですか?」
月本が4人にたずねると、4人はバラバラにアイデアを述べた。
「やっぱドラゴンだろっ! ファンタジー小説の挿絵っぽいやつ!」
白玲が鼻息荒く言うと、真尋も続ける。
「Tシャツの絵だからなぁ。いかついやつがいい!」
しかし、華太は違う意見を述べた。
「Tシャツは、俺たちが着るのももちろんだけど、販売もできるやつがいいだろ。女子にも買って、着てもらえるようなデザインにすべきだ」
「そうですね。ゆるキャラみたいなやつがいいですかね?」
イチバンがたずねるが、白玲は譲らなかった。
「いかついドラゴンは譲れねえっ!」
「でも、小学生の裁縫箱みたいなドラゴンのTシャツなんで、女子は着ないだろ」
華太がいうと、白玲と真尋はしゅんとした。そこでイチバンがアイデアを出す。
「そうだ。ドラゴンのイラストは置いといて……ロゴをメインにしたらどうでしょう? 『FUTURE DORAGON』って文字をレタリングするのは?」
「! なるほど、悪くないな」
華太が手をポンと叩く。それを聞いた月本が、ノートに『・レタリング』と書くと、さらさらと『FUTURE DORAGON』のレタリングをいくつか描く。
「……へぇ、かっこいいね」
「お洒落じゃん」
真尋と白玲も納得する。
「でも、こんなに俺たちに協力してくれて、悪いな?」
華太が言うと、星川はテーブルに頬杖をついてくすっと笑った。
「ご主人様、デザイン料、タダとは言ってないよ?」
「なっ! マジかよ」
「……セイラ、脅かすなよ。意味が違うから」
月本は、星川の頭を軽く叩く。ペンをノートに走らせながら、レタリングを描き上げると、真尋に絵を見せた。
「あたしたちは、文化祭で売上1位を狙ってるんだ。FDのTシャツをデザインしたら、よかったらメイド喫茶でも販売したいんだけど……どうかな?」
月本が言うと、FDのメンバーは目を丸くした。
「えっ、すごいな? 商売うまいじゃん!」
白玲が言うと、華太も手を叩く。
「……ってことで、俺たちのメイド喫茶でも、FDを大々的に広告する。なんてったって、中央ステージのオーラスだからな」
「おぅ、ありがとうな」
「こりゃ、失敗できねぇじゃん!」
お礼を言う真尋と、真尋の背中を叩く白玲。イチバンが、星川と月本に質問した。
「メイド喫茶って、どんなメニューを出すんですか?」
ノートに絵を書いていた月本が、イチバンのほうを向いた。
「ドリンクと、オムライスてとホットケーキだよ。オムライスはわかるだろ? ケチャップで文字を書く。ホットケーキもチョコレートシロップを使うんだよ」
「へぇ……。凝ってますね」
「……ってか、イチバンくんって、女装似合いそうだね」
「えっ?」
月本は、イチバンのほっぺを指でさす。ぷにぷにとしていると、星川も笑った。
「本当だ。ライブ前まで、あたしたちのところで、女装メイドしてる?」
「え、えっ、いや……」
「ふたりとも、うちのメンバーを勧誘すんな」
華太がけん制すると、メイド喫茶のふたりは舌打ちした。
「でも、俺たちはオーラスのステージ成功。メイド喫茶は売上1位が目標。どちらもうまく行くといいな?」
そう言って真尋はアイスコーヒーに口をつける。
「俺たちのバンドは、売上どのくらいを目標にする?」
白玲が聞くと、メンバーの3人は首を傾げた。
「売上はステージとは関係ないだろ。ステージは無料で、売上はグッズ……Tシャツだけだ。ステージに100人くらい集まるとして……」
「100人も来るか?」
真尋が華太に聞くと、強くうなづいた。
「来るんじゃねーかな。80枚のチケット、売りさばいたんだし」
真尋はあごに手を当てる。無料ステージに100人集める。そしてそこで何枚のTシャツが売れるか。
「ほいっ、デザイン4通り描いたけど。どれが一番いい?」
月本がFDにレタリングを見せる。どれもスタイリッシュでかっこいい。華太はそれを見て、月本に言った。
「押し売りみたいだけど、確かにこのクオリティならデザイン料、払わないとだよな」
「あざーっす! オムライス4人分と、当日ステージでメイド喫茶の宣伝してくれたらOKっすよ」
メイド喫茶の星川と月本は商売がうまい。4人は苦笑いして、オムライスをオーダーする。
「そこまで言うなら。ワンドリンク無料だしな。オムライス4人分、頼む」
「承知しました、ご主人様!」
そう言うと、ふたりはキッチンのほうへ向かった。
「……さて。グッズのTシャツは販売するとして、あとはセトリだよな。どういう順番にする?」
オムライスができるまでの間、作戦会議をするFD。そのとき、店の扉が開いた。
「おかえりなさいませ、……お嬢さま!」
何気なく振り返ると、そこにいたのはアイドル研究部とヅカ愛好会だった。
「なっ……お前ら、なんでここにっ!」
声を上げる真尋。FDのメンバーを目視すると、アイドル研究部分の河合が腰に腕を置いた。
「あんたたちの姿がないから気になってね。もしかしたらどこかでろくでもない作戦でも考えているんじゃないかって思って。……まぁ、当たりだったみたいね?」
河合は、オムライスを運んできた星川と月本をじろりと見た。
「おかえりなさいませ、お嬢様方。外はお暑かったでしょう? 何かお飲み物はいかがですか?」
オムライスをテーブルに置くと、商売がうまいのかさっそくオーダーを取ろうと伝票を手にする。
「……頼まないとダメかな?」
極が苦笑いを浮かべるが、星川は譲らない。
「お嬢様……いえ、お兄様でしょうか? 外は暑かったでしょうから、オレンジジュースなどはいかがですか?」
「……なかなかやり手だね。わかった。オレンジジュースを」
「私はトマトジュースをいただける?」
「私も!」
花柳と千家も続いてオーダーする。
「あっ、あたしたちも何か頼む?」
「……レディたちの分は、僕が払おう」
「えっ、いいんですか? やったあっ!」
極の奢り宣言に喜ぶ赤塚と青田。それを見ていたFDは、なんとなくヅカ愛好会に負けた気がした。




