伏兵・タカラヅカ3-2
対バンが終わって、月曜日。FDのメンバーは、昼休みに食堂へ集まっていた。
みっくちゅ♡じゅーちゅとのライブだが、結果はほぼ同数。僅差でFDの勝ちではあったが、勝ったのはFDでもみっくちゅ♡でもない。
「対バンが乗っ取られるなんて……勝ったのはヅカだ」
「あーっ……! 本当にどうかしてるぜ。知りもしないバンドとアイドルの客を奪って、ステージを乗っ取るとか」
華太と真尋が頭を抱える。白玲もため息を落とす中、イチバンだけは前向きだった。
「対バンはとりあえず勝ったじゃないですか! ヅカさんたちは他の時間のステージみたいですし」
「……ヅカが味をしめて、オーラスステージに乗り込んでくる可能性も出てくるぞ、これ」
白い目でじろりとイチバンを見る華太。それに気づいたイチバンは苦笑いした。
「極と花柳、千家か……。アイドル研究部はともかく黙らせたけど、ヅカは絶対調子乗るよなぁ、これ」
「あっ! FUTURE DORAGONじゃん!」
「げ」
食堂でライブの話をしていたが、その話が聞えた生徒たちが混じってくる。
「お前ら、あのアイドル研究部に勝ったんだって? コアな熱狂的ファンがいるのに、強ぇな!」
「ってか、ヅカファンクラブも乱入とか、やべえな! ウケる」
「……」
文化祭が近づいてきているのに、これだけ学生たちがいると、内密な話もできやしない。真尋はイラついていた。
せめて学校の生徒たちがいないところで作戦会議ができたら……そんなところ、あるのか?
頭を抱えていると、同じクラスの男子、星川成羅と月本凪が声をかけてきた。
「よっ、お困りのようだな?」
「星川と月本……なんだよ。今立て込んでる」
「……それは学校の食堂で話せることなのか?」
星川がにやりとしながら真尋の肩に手を置く。それを面倒くさそうに払うと、頭を振った。
「いや……」
「そうか。そんなお前らにプレゼントがあるんだが? じゃんっ!」
FDの前にふたりが見せたのは、カフェのドリンク1杯無料券だった。
「……ここの店、最近できたばっかりだから、まだうちの学校の生徒は来てないよ」
「俺たち、ちょうどここでバイト始めてて、お客様募集中なのよ」
「へぇ~。『カフェ・アルテミス』か」
白玲が無料券を天井にかざす。ドリンク1杯無料は、かなりでかい。
「オレたち、お前らの対バンのとき、チケット買ったんだからありがたくちょうだいしろよ」
「えっ? ライブ来てくれたんですか?」
イチバンが反応すると、星川が肩に手を置いた。
「まぁね。華太は有名だし、お前――イチバンは動画サイトで人気者だからな。真尋の曲も、白玲の歌詞も悪くなかった。だったら生で聞いてみたいと思うのが普通だろ」
星川に褒められて、全員が赤くなる。月本もFDメンバーにたたみかけた。
「食堂でバンドの話できないなら、俺たちの店に来いよ」
「――いいのか?」
「おう! もちろん」
4人は顔を見合わせ、うなづいた。
そして放課後。駅から徒歩15分くらいだろうか。駅からそこそこの陸橋を渡って、ふもとへ。小さな雑居ビルの3階が、カフェ・アルテミスだった。
「普通カフェって1階にないか?」
「まぁ、隠れ家的な店なのかもしれねーし」
白玲が訝しむが、真尋はドリンク1杯無料券に描かれた地図を確認する。エレベーターで3階へのぼる。ついた先の扉には『カフェ・アルテミス』。イチバンが扉を開けた。
「おかえりなさいませ! ご主人様」
「…………え?」
FD4人は全員ぽかんとした。
「おかえりなさいませ……?」
「ご主人様……?」
「あっ、FDじゃん、来たな?」
奥から出てきたのはクラシックなメイド姿の星川と月本だった。
その姿を見た華太が、ふたりを指さして口をパクパクする。
「お、お前ら、ここは?」
白玲がたずねると、星川と月本は4人のカバンを奪って、無理やり客席に座らせる。
「ご主人様4名、おかえりなさいませ~! ご主人様のメイドの、セイラとナギサで~す!」
「ご主人様たち、外暑かったでしょ? ワンドリンク、今お持ちします。何がいいですか?」
いつの間にか星川と月本のペースだ。4人はチラシに書いてあったドリンクの中からアイスコーヒーをオーダーした。
「はいっ! アイスコーヒー4つですね。オーダー入りま~す! ……じゃ、あたしたち用意してくるから、ごゆっくり~!」
「お、おぅ……」
星川と月本は、そう言うと一旦カウンターの中へ入って行った。
「……まぁ、女装メイド喫茶で、まさか文化祭に向けての会議をしてるなんてわからねぇよな」
「しかもできたばっかりだから、客も少ない。星川と月本に感謝だ」
お冷やをごくりと喉を鳴らして飲むと、テーブルにノートを広げる。
FDの持ち曲は6曲。問題はセトリだ。持ち曲が少ないので、組み合わせで工夫するしかない。あと、ステージで発表する前のリハで何を演奏するか。リハではオリジナルじゃなくてコピーでもいいだろう。と言うか、あえて他のプロの曲をコピーして、オーディエンスを増やすという手もある。
真尋はノートに『リハ:コピー?』と書く。あとは6曲の順番が問題だ。それと、全体的にまだまだ練習も必要だ。
前回レアーズで演奏したのが初のステージだったけど、ヅカに負けたことが大きすぎて、自分たちの演奏がどうだったかあやふやだ。でも、イレギュラーなことがあったが、それでもよく演奏できたとは思う。
「……そうだ。俺たち演奏のことで手一杯だったけど、グッズとかあるといいんじゃね?」
白玲が言うと、イチバンも乗った。
「というか、ライブのときの衣装で、お揃いのTシャツがあるといいですよね。いちいち衣装考えるのは大変ですし」
「ご主人様! お待たせしましたぁ、アイスコーヒーです!」
「……ご主人様がた、ライブのTシャツでお悩みですか?」
月本がかわいく小首を傾げる。月本も星川も、女装が似合ってしまっているところが恐ろしい。
真尋は正直に首を振った。
「あぁ。イチバンとか、かっこいいTシャツ売ってなかったっけ?」
「僕のは、ファンの方が作ってくれたんで……」
「よかったらあたしが考えますよ、ご主人様っ!」
「えっ?」
立候補してくれたのは、月本だった。




