伏兵・タカラヅカ3-1
開演前。真尋と河合は一足先にステージに立った。客席のほうを見ると、マイクで声をかけた。
『すんませーん! 今日、『ヅカオンステージ』を目当てに来た方!』
真尋が叫ぶと、かなりの人数が手を挙げた。
『嘘でしょ……』
河合もその様子を見て目を疑う。
ノルマはひとり20枚。FDは4人組だから80枚。つまり、全部のチケットをさばくと80人の客が来る。みっくちゅ♡は3人だから60枚、60人。だが、ヅカオンステージは……。
「華太、当日券で売った150枚がヅカだ!」
もぎりのスタッフから言われると、それを聞いた全員が口を曲げた。
「ひ、150枚……」
「コネのある華太や、固定ファンがいるイチバンより売れたのかよ!」
イチバンと白玲はぽかんとする。アイドル研究生のほうもだ。
「握手会つけたのに!?」
「チェキの用意もしてたのに~っ!」
悔しがる赤塚と青田。河合は頭を抱える。それを見た真尋は、マイク越しに言った。
『ええっと……俺たち、『ヅカオンステージ』について知らないんだけど……』
正直に口を開くと、フロアから声がした。
「おおっと、それは失礼! 僕たちの自己紹介がまだだったね?」
「みなさん、私たちに貴重な一票をくださって、ありがとうございます」
「私たちのステージに、ようこそっ!」
フロアを見ると、出入り口付近から影がステージに走り寄ってくる3人の多分女性――がいた。
「うわっ、なによ、ヅカオンステージって!」
「ライブハウスの乗っ取りじゃねーか!」
みっくちゅ♡もFDもパニックだ。メンバー全員がステージに上がり、ヅカオンステージの3人を待ち受ける。だが、ステージには上げない……。真尋は腕を組んでヅカのリーダーらしき背の高いショートカットのイケメンに呼びかけた。
『おい、お前ら何者だ? 今日はFUTURE DORAGONとみっくちゅ♡じゅーちゅの対バンなんだが』
そう言うと、イケメンは軽くかいた汗を拭った。
「ふっ、失礼をしたね。だが、僕らは正々堂々とチケットを売ってこの場所にいる」
「……そう言う前に、あんたら何者よ。名を名乗ったら?」
「いやはや、申し訳ない」
「っ!」
ショートカットの……多分女性は、河合の手を取りひざまずくと、手の甲にキスをした。
「な、何っ……」
しどろもどろになる河合は、顔を赤らめた。
「初めまして、レディ。僕の名前は極雷来。女性だけのミュージカル・ヅカオンステージの総支配人さ。普段はキミたちと同じ学校で、芝居をしているよ」
ショートカットのイケメンが自己紹介すると、ふたりの女子は、真尋たちの前でスカートを広げてお辞儀した。
「私は花柳祈。副支配人です。よろしくね?」
「千家笑留だよ」
「そのヅカさんたちがなぁに勝手に俺たちのステージを乗っ取ろうとしてんだよ」
白玲がむすっと明らかに怒った様子でたずねると、極が笑った。
「キミたちが対バンすると言うのは、学校で地味に話題になっていた」
「そこで私たちも混ぜてもらおうと思いましてね」
花柳も笑顔を崩さない。千家もスカートを離すと、FDとみっくちゅ♡に言った。
「私たちはステージに出ることは決まってるんだけど、前哨戦をしてると聞いて、面白そうだったからっ!」
「遊びじゃないのよっ!」
千家を、河合がにらみつける。片やステージに立てないチーム。それが出られるようになるかもしれないとチケット販売を頑張ったのに、それを漁夫の利よろしく横からかっさらうなんて。
赤塚が、千家の襟元を掴む。
「あんたたち、ステージ出ることは決まってるんでしょ? だからって人のステージを潰す権利があると思って?」
ぎりぎりと歯ぎしりしながら千家を詰めるが、千家も肝が据わっていた、
「……いいじゃない? 現に今の状況。私たちのオンステージでしょ?」
「なっ!」
華太も今の状況に気づく。FDはロック、みっくちゅ♡はアイドル。そしてヅカはミュージカルステージ。つまり、ヅカがやっていることは、フラッシュモブだ。一枚食わされた。
イチバンが、ちらりと真尋に目をやる。するとその視線に気づき、こほんと咳払いした。
「……と言うわけで、ヅカオンステージのみなさんでしたーっ!」
無理やりステージを終わらせる真尋に、拍手を送るヅカオンステージのメンバーたち。ステージにのぼることなく、フロアの最前列に並ぶと、極、花柳、千家は客人の前でお辞儀をした。
「いいぞ! ヅカ!」
「最高っ!」
2組が売ったチケットは140枚。ヅカが売ったのは150枚。この150人の来客は、FDやみっくちゅ♡が巻き込まれるフラッシュモブが目的だったのか。
真尋は舌打ちしたあと、河合に声をかけた。
「ほら、ステージ整えたから、さっさとしろっ!」
「えっ、あ、うんっ! 密、リン、行くよっ!」
真尋に背中を押された河合は、ふたりと一緒に目印がついている舞台の位置に立つ。FDがステージから去り、ライブハウスの音響が曲を流すと、みっくちゅ♡じゅーちゅのステージが始まる。3人は、踊り始めた。
「……マジかよ」
華太は、ステージ裾からみっくちゅ♡の踊りを見て、思わず声を上げた。
「確かに、踊りうまいですね。プロレベルじゃないですか?」
イチバンも関心した様子でみっくちゅ♡を見つめる。先ほど乱入したヅカたちもステージに拍手を送る。
みっくちゅ♡たちの曲は、プロが作った曲なのか、かっこいいダンスナンバーだった。
職業柄なのか、華太が自分の太ももをドラムスティックで叩いている。それを見た真尋が耳をつねった。
「っ! 痛えよ」
「アイドルなんかにノセられるな。俺たちはロックだろ!」
「ま、彼女たちもうまいですけどね」
「ふむ、イチバンは紳士だな」
白玲が笑う。そうこう話している間に、みっくちゅ♡の出番は終了した。次はFDだ――。
「おいおい、なんだこれ」
思わず白玲が顔を手で覆う。ヅカとみっくちゅ♡が終わって、さっさと帰ってしまった客が多かったのか、フロアの2/3くらいスペースが空いている。それでも80人は残っているが、いささか寂しいものだ。
白玲はマイクスタンドを手にすると、腕を振り上げた。
「よっしゃぁ! このままオーラスまで、ぶっ飛ぶぜっ!」
1/3まで減った客の心に、FUTURE DORAGONが明かりを灯す。ライブの本番はこれからだ――。




