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page2:C対

C対(シーたい)


「私は、警察庁広域特殊事案対策室所属、毛利仁香(もうりにいか)だ。よろしく頼む」


「同じく、理市(りいち)詩愛(しあ)です。よろしくお願いします」


客だと思っていた二人は警察関係者だったようだ。どうりでこの暑い中スーツを着こなしているだけある。


毛利と名乗ったのは、話を切り出した金髪の女性。背は時音(ときね)さんよりも低いが、口調や力強い視線で威厳があった。


続いて理市と名乗った方は、おそらく毛利さんより若い。織星さんと同じくらいだろうか。背丈は私くらいか、少し高いか。明るい茶髪から柔らかい印象を受ける。


しかし、警察か…。


少しの緊張を覚える中、楠木(くすのき)さんがカウンター席を案内する。


「こちらへ。澄空(すみそら)さんはメニューとお水を。大丈夫、キャリアではありませんし、ただのお客様と変わりません」


「は、はい」


「私たちを前にしてそれを言える君は、少々異端だぞ」


「そうさせたのは、あなたたちですよ」


毛利さんと楠木さんの少し緊張感のある雰囲気を感じつつ、私は水とメニューを席まで運ぶ。


「どうぞ」


「ありがとう、君の名前を聞いても?」


…こ、これが職質か!?


少し感動しつつ、私は答えた。


澄空(すみそら)瑞葉(みずは)です。六月からここでお世話になっています」


「澄空、か。どうぞよろしく。シンドロームは」


「えっと…」


私がちらりと楠木さんを見ると、楠木さんは頭の角度で応えるよう促す。


「圧力・振動系です」


「ふむ…ソレがシンドロームと気づくまで大変だっただろう」


「まぁ、そこそこ…」


なんだか面接を思い出しつつ、苦笑を浮かべた。


その後、二人はアイスコーヒーを注文する。


澪莉(みおり)が作り置きのものをグラスに注ぎ、シロップを入れて混ぜ、生クリームを乗せる。シロップを思い切って入れることでコーヒーの比重を重くし、生クリームとコーヒーの層が分かれている。


その間、楠木さんが私に説明する。


「以前のように、我々に捜査権が渡った場合は、名目上CAM(キャム)としてではなく"キャリア関与想定事件対策室"、通称"C対(シーたい)"という、警察機構とCAMが共同運用する特殊事件対策部署として捜査することになります」


頷いた理市さんが指を立てて補足する。


「CAMはあくまで、そこまでの権利を持ちませんからね。一般市民に対して名乗る必要がある際は、"キャリア"を用いず"特殊事件対策室所属"と名乗ってくださいね」


「…長い」


「まぁ、名乗る機会はほぼありませんから」


澪莉が言いながらコーヒーを配膳すると、理市さんが目を輝かせる。可愛らしい人だ。スマホで写真まで撮っていた。


一方、毛利さんはすぐにざっくり混ぜて白濁させると、一口含む。


「…うん、うまい。…先の事件、狼男の件は君も寶川(たからがわ)君も大活躍だったそうじゃないか」


私の方を見ながら、毛利さんは言った。


「…別に」


それしか返せなかった。


目覚めたら全て終わっていた。狼男…佐藤さんは、もうこの世にいなかった。


毛利さんは少し目を伏せる。


「ショッキングなことではあっただろう。それでも、君たちはあの学校の生徒や職員を守った。それは事実だ。改めて、お礼をさせてくれ」


毛利さんが立ち上がると、理市さんも慌てて続いた。そして頭を下げる。


「私たちが対応するべきだったことだ。すまなかった。そして、ありがとう」


「い、いえそんな…私も、夢中だっただけですし」


澪莉の様子を確認すると、私と似たような様子だった。しょうがないことでしかない。この二人をはじめ、警察内で取り扱えなかったからこちらに流れてきたのだろう。


でも、その上で、出来るだけ触れたくない記憶だ。


「もう、おかけください」


澪莉が促すと、二人は席についた。


楠木さんが二人の水を取り替えつつ聞く。


「それで、今日の要件は」


「ああ。これだ」


言いながら、毛利さんはジャケットの内ポケットから折りたたみ式のタブレット端末を取り出し、広げる。十一インチほどに広がったところにフィルムが張られて、AR画面が映写された。


「…片瀬江ノ島駅ですか?」


「そうだ」


私の確認に答えた毛利さんはタブレットを操作し画像を流していく。


理市さんが説明を引き継ぐ。


「最近、若者や観光客をターゲットに声をかけて、お菓子のようなものを渡す連中が目撃されていました。片瀬江ノ島駅や江ノ島周辺、小町通りなど観光地として有名な地点です」


楠木さんが反応する。


「…所謂ドラッグの類ではなかった、ですか」


「はい。こちらで押収したものを織星(おりほし)さんに解析いただいたところ、アウターと同成分であることが判明しています」


アウター。キャリアではない人を無理やりキャリア化させる劇薬だったはずだ。


その写真を見て、澪莉が首を捻る。


「錠剤、なんですね。私が見た資料では、アウターは携帯吸入薬のようなものだったと思いますが」


理市さんは頷く。


「私もこのタイプを見たのは初めてです。まだあのエリアにいる集団全員を捕まえたわけではないので、全てこのタイプかはわかりませんが…織星さんは、吸入式と比べて即効性・浸透性は弱く、一時的にキャリアに近い感覚に近づくような効果ではないかと予想されています」


毛利さんがさらに写真を送ると、人物の写真が出てくる。


「…今回引っ張った奴らの中にはこれまでアウトサイド見込みとしていた奴はいないが、こいつらの親玉は、自らを"レゾナンス"と名乗っていたらしい」


「……。」


毛利さんの視線は楠木さんに向いていた。


「…知っていたか、楠木君」


「…いえ」


「では、こいつは?」


次の写真には男性が写っていた。タクシーの運転手のようだ。


楠木さんはグラスを拭いていた手を止め、両手をシンクの縁に乗せる。


「…以前、キャリア化したところをCAMに繋げました。名前は、内田(うちだ)詩行(うたゆき)


「それだけじゃないだろう」


「…一時的に、レゾナンス構成員の一人でした。当時はまだあの一団にレゾナンスなんて名前はありませんでしたが。しかし、結果的にレゾナンスおよびアウトサイドを抜けて我々に情報提供、今は定期検診程度でしかCAMとの繋がりはありません」


「その通り…彼に情報提供を依頼できないだろうか」


毛利さんの言葉に反応するように、楠木さんの手に力がこもった…ように見えた。


「彼は一般の生活に戻りました。呼び戻すような真似は反対です」


「そこまでは言っていない。最近、レゾナンス側から接触があったかどうかだけ聞ければいい」


「…もし行くのなら、寶川さん、澄空さんに行っていただきます」


私は澪莉と視線を合わせてから楠木さんを見る。楠木さんは頷く。


「私が行くと、良くないかもしれません。毛利さんも控えてください」


「…そこまですることなのか」


毛利さんの言外の確認に、楠木さんは頷いた。


「予防ですが」


「…わかった。我々からは理市を」


「了解です」


楠木さんは澪莉、私、理市さんをそれぞれ見つつ、口を開く。


「今回の件の裏にはシンドロームを当然の権利のように行使する輩がいる可能性があります。いざとなった際は、ご自身の安全を一番に考えることを約束してください。そして、くれぐれもCAM関係者であることを悟られないように」


「は、はい」


楠木さんの言葉にそれぞれ反応したのを確認し、毛利さんが手を叩く。


「じゃあ纏めよう。江ノ島周辺や鎌倉の有名観光地でアウターらしきものがばら撒かれている。裏にはレゾナンスがいる可能性がある。レゾナンスのねらいを探るため、内田に話を聞きにいく、以上。明日から動き始めるから、神蔵(かぐら)君を介してまた連絡する。行くぞ、理市」


呼ばれた理市さんは慌ててコーヒーを飲み干す。


「もう行くんですか!?ケーキは…」


「次回だ」


あ、次回は食べるんだ。


ふと毛利さんのグラスを見ると、綺麗に飲み干されていた。


店を出る直前、毛利さんは振り返る。


「澄空君」


「は、はい?」


「君とも連絡を取れるようにしておきたい。楠木君か寶川君から私たちの連絡先をもらうといい」


「あ、はい」


ご馳走様、と言って二人は出ていってしまった。


二人のグラスを下げつつ、楠木さんは私を見る。


「あの二人には、気を付けてください」


「え…」


警察関係者のはずだ。何を気をつけろというのか。


「あの二人は、ああ見えて我々を自己判断で殺害する権利を持っています。当然、武装もしている」


「さっ…!?」


突然、寒気が襲う。そんな様子は感じられなかった。


「CAMとして、キャリアとして行政機関と関わるとは、そういうことです」


澪莉は「とはいえ」と続ける。


「何度かご一緒しましたが、そう言った事態にはなっていません。キャリアは我々から見ても怖い。キャリアですらないあの人たちにとっては、未知の存在といってもいい。そのぐらいの備えがあるということです」


「ま、まぁ…そうか」


蛇口からの水を止めた楠木さんは溜め息を吐く。俯きがちのその目は遠くを見ているようだった。


「個人として見る分には毛利さんも理市さんも…まぁ食えない人ではありますが常識人です。ただ、彼女たちの立場もそうとは言えません。彼らの銃は…痛いですよ」


「…え」


私の呟きをかき消すように、楠木さんはキッチンの奥に入っていく。


「少し出ます。寶川さん、店はこのまま閉めて、澄空さんにC対の連絡先を。あとは明日に備えてください」


「わかりました」


私は澪莉に視線を向ける。


「…四年前って、こと?」


楠木さんと織星さんがバディを解消し、役割を変えるきっかけになった事件。


楠木さんが逸脱しかけて…人らしさを完全に失いかけた事件。


澪莉は首を振る。


「わかりません。ただ、ベテランのお二人が敢えて避ける内容です。お二人が過去にかかわった事件の続き、なのかもしれません」


言い表せない不安が部屋を支配する。換気扇の音だけが響いていた。

・3話まで毎日投稿。4話以降は1日おきに続きを投稿予定です。

・CASE FILE 02: 歌声は完結しています。全22話完結(8/22完結)予定。

・pixivで全編投稿済みです。先が気になる方はこちら(url: https://www.pixiv.net/novel/series/15989613)へ!

・感想やリアクションが励みになります!どうぞよろしくお願いいたします。

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