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勇者召喚に巻き込まれたのに俺だけチートがもらえない!〜無能かと思ったら邪神に魅入られチートを獲得、ここから俺のターン〜  作者: qp46


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邪神

 あてがわれたのは、城の隅の、小さな部屋だった。


 勇者たちには、それぞれ立派な客間が用意されたらしい。


 俺には、これだ。


 寝台がひとつ。机がひとつ。窓がひとつ。


 牢、というには上等で、客間、というには、あまりに簡素な部屋。


 能力なしの巻き添えには、これで十分、ということなんだろう。


 文句を言える立場でもない。


 窓の外には、ふたつの月が、出ていた。


 白い月と、赤い月。


 赤いほうは、見れば見るほど、目に悪い色をしている。


 俺は、寝台に腰かけて、ぼんやりと、それを眺めていた。


 眠気は、来なかった。


 昼間のことが、頭のなかで、何度も、巻き戻る。


 春樹は、勇者。


 高井は剣聖、田中は大魔導士、佐倉は聖女。


 巻き込まれただけの、あの山田ですら、時空魔法。


 俺だけが、何もなし。


 考えるたびに、腹の底が、じりじりと、焼ける。


 悔しい、という言葉では、足りなかった。


 悔しさなら、まだ、前向きだ。


 これは、もっと、どす黒い。


 なんで俺なんだ、という、行き場のない問いが、ぐるぐると、回り続けている。


 別に、俺は、立派な人間じゃない。


 それは、自分が、いちばんよく知っている。


 人を損得で見て、友達面しながら、腹のなかで算盤を弾く。


 春樹を、十年かけて、手なずけてきた。


 そういう、薄汚い人間だ。


 でも、だからって。


 なんで、俺だけが、こんな目に遭う。


 他の連中だって、聖人ってわけじゃないだろう。


 なのに、あいつらには力が宿って、俺には宿らない。


 どういう、選別だ。


 どこに、基準がある。


 考えても、答えは出なかった。


 ただ、黒い感情だけが、腹の底で、煮え続けていた。



   ◇



《――ずいぶん、つらそうな顔をしてるね》


 声が、した。


 俺は、顔を上げた。


 部屋には、誰もいない。


 扉は閉まっている。窓も、閉まっている。


 なのに、声は、すぐそばで、聞こえた。


 耳元、とも違う。


 頭の、内側から、直接、響いてくるような。


 奇妙な、声だった。


「……誰だ」


 俺は、立ち上がった。


 声が、くすりと、笑う。


《そう身構えないでよ。取って食ったりしないから。――今のところは、ね》


 声は、不快ではなかった。


 むしろ、その逆だった。


 低くも、高くもなく。


 男とも、女ともつかない、なめらかな響き。


 いつまでも、聞いていたくなるような、心地よい声。


 だからこそ、寒気がした。


 その心地よさの、裏側に。


 何か、底の知れないものが、潜んでいる。


 それが、理屈ではなく、本能で、分かった。


《君、いま、世界中を呪ってる顔をしてた。なんで自分だけ、って。違うかい?》


 言い当てられて、俺は、黙った。


 声の主は、楽しげに、続ける。


《いい顔だよ。僕、そういう顔、好きなんだ。妬みとか、恨みとか、自分は選ばれるべきだったって思い込みとか。そういうので、ぐつぐつ煮えてる顔》


「……何が、言いたい」


《教えてあげようか。どうして君だけ、力をもらえなかったか》


 俺は、答えなかった。


 だが、声は、構わず、続けた。


《不手際なんかじゃ、ないよ。あれはね、僕が弾いたんだ》


 心臓が、ひとつ、跳ねた。


《鑑定のとき、横から、ちょいとね。君に宿るはずだった力を、弾いておいた。別のものを、あげるためにさ》


「……弾いた?」


 馬鹿な、と思った。


 あの女神の水晶を、横から?


 いったい、何者なんだ、こいつは。


《うん。でも、その前に。君の、本当の適性、知りたくない?》


 知りたく、なかった。


 知ったところで、いいことがあるとは、思えなかった。


 だが、声は、構わず、告げた。


《農業だよ》


 間の抜けた単語が、部屋に、落ちた。


「……は?」


《のうぎょう。土を耕して、種をまいて、育てて、いい頃合いになったら収穫する。君は本来、どこかの村で、そういう地道な働き手になるはずだった。誰の記憶にも残らないまま、土をいじって、一生を終える》


 馬鹿にしているのか、と思った。


 だが、声の調子に、嘲りはなかった。


《でもね。農業なんて、君には、似合わないよ》


 声が、ふっと、笑った。


《だって君、土なんかより、もっと面白いものを、その腹のなかで、育ててるじゃないか》


「……何の、話だ」


《君が、せっせと積み上げてきた、それ。業だよ》


 業。


 聞き慣れない、言葉だった。


《人を損得で値踏みして、踏み台にして、それを悪いとも思わない。にこにこ笑いながら、腹の底で算盤を弾く。春樹くん、だっけ。あの子を、十年かけて飼い慣らしたみたいに、ね。――そういう業に、僕は、興味があるんだ》


 心臓を、握られた気がした。


 隠してきたつもりの、いちばん奥の部分を。


 なのに。


 不思議と、嫌な気は、しなかった。


 むしろ――初めて、誰かに、正しく見てもらえたような。


 そんな、倒錯した心地よさすら、あった。


《土を育てる才能より、君のその業のほうが、ずっと見ものだ。だから、農業のほうを、弾いておいたのさ》


「……何が、言いたいんだ」


《単純な話だよ》


 声が、ぐっと、近づいた。


《僕が、君に、力をあげる。その業を、もっと立派に育てるための、力をね》


 俺は、唾を、飲んだ。


 罠だ。


 そう、思った。


 こんな、都合のいい話が、タダで、あるわけがない。


 声の向こうに、確かに、何か、暗いものが、控えている。


 ――でも。


 春樹は、力を得た。


 あいつらは、みんな、得た。


 俺だけが、手ぶらだ。


 その差を、埋められるなら。


 哀れまれる側に、回らずに、済むなら。


「……条件は」


 気づけば、俺は、そう尋ねていた。


 声が、嬉しそうに、笑った。


《いい質問だ。でも、安心して。条件は、ないよ。対価も、いらない》


 そして、付け足すように。


《――今は、ね》


 その「今は」が、やけに、耳に残った。


 けれど、引っかかりを、言葉にする前に、声は、続けた。


《君にあげるのは、【能力創造】。読んで字のごとく、自分で、力を創り出せる。何かを見て、そこから、新しい力を、組み上げる。武器を扱う力、ものを生む力、頭を回す力――その手のものなら、何だってね》


「……力を、創る」


《そう。見れば見るほど、創れば創るほど、君は、強くなる。育てれば、育つほど、ね》


 育てれば、育つほど。


 その言葉に、胸の奥が、勝手に、熱くなった。


 俺にも、力が。


 あいつらと、同じ場所に、立てる力が。


 いや。


 あいつらの、上に。


《ああ、でも。ひとつ、言っておくね》


 声が、わずかに、調子を変えた。


《人の心そのものを、いじる力――洗脳とか、魅了とか、記憶の書き換えとか。ああいうのは、今の君には、創れない》


「……創れない」


《創れないんじゃ、ないよ。できないことは、ないんだ。ただ、ポイントが足りないと、創れない。それだけ》


「ポイント?」


《うん。そのうち、分かるよ。君が、ちゃんと、育てばね》


 ポイント、という言葉の意味は、分からなかった。


 だが、深くは、考えなかった。


 力が、ほしい。


 今は、そのことで、頭が、いっぱいだった。


《じゃあ、契約成立だ》


 声が、楽しげに、言う。


《これから、じっくり、育てていこうね。君を。いい具合になるまで。そして――頃合いを見て、収穫する》


 収穫。


 その言葉の意味を、深く考える余裕は、なかった。


 体の奥に、熱いものが、流れ込んできたからだ。


 血を、骨を、内臓を、巨大な何かが、満たしていく。


 めまいがするほどの、力の、奔流。


 これが。


 これが、力か。


 俺は、震える手を、握りしめた。


《いいねえ》


 声が、うっとりと、呟いた。


《よく、育ちそうだ》


 その一言を、俺は、聞き流した。


 力の感覚に、酔っていたから。


「……あんた、名前は」


 息を整えながら、俺は、尋ねた。


 声が、ふっと、笑う気配が、した。


《名前なんて、ないよ。強いて言うなら、そうだね》


 一拍、置いて。


《邪神、とでも呼ぶ人は、いるかな》


 邪神。


 その単語を、俺は、口のなかで、転がした。


 神を、邪する。


 ろくでもない、響きだ。


 なのに。


 差し出された手を、振り払う気には、なれなかった。


「……邪神、ね」


《気に入らない? 別に、何と呼んでくれても、いいよ。悪魔でも、運命でも、君が信じたい何かでも。呼び方なんて、どうでもいいことさ》


 声は、もう、遠ざかりかけていた。


 だが、去り際に。


 ふと、思い出したように、付け足した。


《ああ、そうだ。ひとつ、アドバイスをあげる》


「アドバイス?」


《その力はね、あんまり、知られないほうが、得策かもしれないよ?》


 声が、優しく、囁く。


《考えてもごらん。何でも創り出せる力なんて、知られたら、周りは君を、放っておかない。利用するか、怖がって遠ざけるか、いっそ、消そうとするか。ろくなことにならない》


 言われて、はっとした。


 確かに、そうだ。


 こんな力がバレたら。


 王国は、俺を、便利な道具として、飼い殺すか。


 あるいは、得体の知れない危険分子として、始末するか。


 どちらにせよ、面倒なことになる。


《だから、隠す力も、作っておくといい。能力創造で、ね。今の君でも、それくらいは、作れるよ》


「……隠す、力」


《うん。せっかくの力だ。大事に、隠して、育てな。――じゃあ、またね。君が、いい具合に、育った頃に》


 待て、と言う間もなかった。


 気配が、すっと、消えた。


 部屋には、俺ひとり。


 赤い月の光が、床に、長く伸びている。


 俺は、しばらく、その場に、立ち尽くしていた。


 それから、ゆっくりと、自分の手を、見つめた。


 握って、開いて、また、握る。


 力が、確かに、そこに、あった。


 昼間まで、何ひとつ、持っていなかった、この手に。


 邪神の、言ったとおりだ。


 隠す力も、作っておくべきだろう。


 俺は、意識を、集中した。


 自分の力を、覆い隠す。


 誰の目にも、触れさせない。


 そういう力を、頭のなかで、組み上げていく。


 すると。


 すとん、と。


 それは、形になった。


 【隠蔽】。


 自分の能力を、ステータスごと、隠す力。


 試しに、ステータスを、開いてみる。


 淡く光る板が、視界に、浮かんだ。


 そこに刻まれた【能力創造】の文字を、隠蔽で、覆う。


 文字が、すっと、見えなくなった。


 ……完璧だ。


 これで、誰にも、本当の力は、悟られない。


 俺は、ひとつ、息を吐いた。


 腹の底で、あれほど煮えていた、どす黒いものは。


 いつのまにか、消えていた。


 代わりに、別の何かが、そこに、居座っている。


 それが、何なのかは、まだ、分からなかった。


 ただ、ひとつだけ、確かなことが、ある。


 俺は、もう、哀れまれる側には、戻らない。


 その手段を、たった今、手に入れた。


 窓の外で、赤い月が、ゆっくりと、傾いていった。


 まるで、何かを、見届けたあとのように。

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