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勇者召喚に巻き込まれたのに俺だけチートがもらえない!〜無能かと思ったら邪神に魅入られチートを獲得、ここから俺のターン〜  作者: qp46


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勇者召喚

六時間目の古典の授業中だった。


窓の外では、運動部の掛け声が遠く響いていて、教室の蛍光灯はいつも通り白々しく俺たちを照らしていた。


教師の声は子守唄のようで、俺は頬杖をついたまま、半分眠っていた。


その瞬間、足元の床に光が走った。


「な、なんだこれ!」


誰かが叫んだ。


机が、椅子が、クラスメイトが、そして俺自身が、青白い幾何学模様の中に飲み込まれていく。


視界が歪んで、内臓が浮き上がるような感覚があって、それから――気がつくと、俺たちは石造りの広間に立っていた。


天井は高く、そびえ立つ柱には金細工の装飾が施され、正面の玉座には豪奢な髭を蓄えた中年男が座っている。


その両脇には鎧を着た騎士たちと、ローブの老人。


床には俺たちを取り囲むように、巨大な魔法陣が淡く光って描かれていた。


典型的だな、と俺は思った。


あまりにも典型的すぎて、逆に現実感がない。


「勇者様方、よくぞお越しくださった」


玉座の男、おそらく王が立ち上がって言った。


クラスメイトたちは混乱して声を上げ、泣き出す女子もいた。


だが俺は、むしろ妙に冷静だった。


(ああ、来たか。ようやくか)


心のどこかで、俺はずっとこういう日を待っていたのかもしれない。


退屈な教室、退屈な家庭、退屈な未来。


そのすべてから逃れられる日を。


王の説明は予想通りだった。


魔王が暴れている。


世界が滅びる。


だから異界から勇者を呼んだ。


協力してほしい。


元の世界には、魔王を倒せば返してやる。


ご丁寧に「ステータス」とやらを確認できる水晶玉まで用意されていて、クラスメイトたちは一人ずつ、その前に呼ばれていく。


神官に促されて最初に進み出たのは、クラスの中心人物である西宮春樹だった。


明るくて、運動神経も良くて、誰にでも優しいやつ。


俺の数少ない友達と言ってもいい。


いや、友達というよりは、利用しやすい相手と言ったほうが正確か。


(春樹は単純だからな。笑顔で接していれば、何でも信じてくれる)


水晶玉に春樹が手をかざした瞬間、ローブの老人が叫んだ。


「お、おお……っ! 勇者だ! 真の勇者がおられるぞ!」


広間にどよめきが走った。


春樹は照れたように頭を掻いて、それでもみんなを安心させるような笑みを浮かべている。


聖剣の使い手、全能力値が桁違い、そういう類のやつだ。


次々とクラスメイトが鑑定されていく。


治癒の聖女、剣聖、大魔導士――誰もが「特別」を授かっていく。


極めつけは、教室で一番地味だった山田ですら、時空魔法の使い手だと判明したことだ。


本人が一番驚いていた。


(はいはい、ご都合主義ね。クラス全員が能力持ち、と。まあ、俺も何か貰えるんだろう)


俺は腕を組んで、自分の番を待っていた。


何が貰えるだろうか。


地味でも、応用が利くやつがいい。


たとえば話術系とか、鑑定系とか。


表でうまく立ち回るための道具になる能力が望ましい。


やがて、神官の視線が俺に向いた。


順番が、俺に回ってきたのだ。


促されるまま、俺は前に出た。


水晶玉に手をかざす。


冷たい感触が指先に伝わって、それから――何も起こらなかった。


水晶玉は、ただ透明なまま、そこにあった。


ローブの老人が眉をひそめた。


もう一度試してくれと言われ、俺は手をかざし直す。


やはり、何も起こらない。


三度目。四度目。


「……これは」


老人の声が小さくなった。


王の表情が曇り、騎士たちが目配せをする。


「能力なし、ですか」


第1話 勇者召喚(改行修正版③)


俺は誰かに見下ろされて、その視線に「ありがとう」と返すような人生を、死んでも送るつもりはない。


(俺は……俺だけ、こんな扱いを受け入れる気はないぞ)


窓ガラスに、自分の顔が映っていた。


穏やかに微笑む、人当たりの良い少年の顔。


みんなが知っている「楓」の顔だ。


優しくて、愛想が良くて、害のない友人。


その顔の奥で、別の何かがゆっくりと目を覚ましていく。


夜になれば、俺はあてがわれた部屋で眠ることになるだろう。


クラスメイトたちは興奮して、夜遅くまで自分の能力について語り合うだろう。


誰も俺のことなど気にしない。


気にしたとしても、それは哀れみという形でしかない。


哀れまれる側の人生。


そんなものは、俺の人生の選択肢にない。


「楓、夕食だってさ。一緒に行こう」


春樹が呼びにきた。


俺は窓から振り返って、いつもの笑顔を作る。


「ああ、行こうか」


(俺は、絶対にこのままじゃ終わらない)


歩き出す足取りは軽かった。


誰の目にも、能力をもらえなかったショックから立ち直りつつある、健気な少年に見えただろう。


その夜、俺の部屋に、あいつが現れることになる。


ただ、そのときの俺はまだ、知らなかった。


誰かがそう呟いた。


クラスメイトたちの視線が、一斉に俺に集まる。


同情、戸惑い、安堵。


様々な感情がそこに混ざっていた。


安堵、というのは、自分じゃなくてよかった、という意味の安堵だ。


(は?)


俺は水晶玉から手を離した。


(は? 待て、待て待て待て)


心臓が嫌な音を立てた。


冷や汗が背中を伝う。


だが、表情には出さない。


出してはいけない。


俺は唇の端を持ち上げて、軽く笑ってみせる。


「あー、参ったな。俺だけハズレかよ」


わざと冗談めかした口調で言った。


クラスメイトたちが、ぎこちなく笑う。


春樹が心配そうな顔で近づいてきて、俺の肩を叩いた。


「大丈夫だよ楓、何かの間違いかもしれないし、後でもう一回確認すれば」


「ああ、サンキュー春樹。お前は優しいな」


(うるさいな。今は触るな)


王と老人が小声で何か話し合っている。


聞き耳を立てなくても、内容は想像がつく。


役に立たない一般人をどう扱うか、ということだろう。


送還する魔法はない、と最初に言われている。


つまり俺は、能力もないまま、この異世界に放り出されるということだ。


クラスメイトたちはやがて、それぞれの能力について目を輝かせて話し始めた。


誰がどんな魔法を使えるか、どんな武器を持つか、どんな冒険が待っているか。


彼らはもう、俺のことを忘れかけている。


能力なしの楓は、彼らの華やかな物語の中に、もう居場所がない。


俺は窓際に立って、見知らぬ世界の空を眺めた。


二つの月が浮かんでいた。


一つは見慣れた白い月によく似ていて、もう一つは赤く血のような色をしていた。


空は紫に染まり、星々が異様な配置で瞬いている。


本当に、ここはもう地球ではないのだ。


(ふざけるな)


胸の奥で、何かが煮えたぎっていた。


(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな)


なぜ俺だけなのか。


なぜ俺だけが、何も貰えなかったのか。


クラスのお荷物だった山田にすら、時空魔法が与えられたというのに。


俺は別に、優れた人間ではないかもしれない。


けれど、彼ら全員より劣っているわけでもないはずだ。


いや、違う。


比較なんてどうでもいい。


問題は、これから先、俺がどう生きるかだ。


能力者たちに守られながら、彼らに頭を下げて、彼らの慈悲で生かしてもらう?


冗談じゃない。


彼らの戦いの邪魔にならないよう、城の片隅で雑用でもしながら、感謝の言葉を絶やさず、笑顔で頭を垂れて生きていく?


――想像しただけで、腹の底が冷えた。


哀れみ。


同情。


施し。


あいつらが俺に向けるであろう、あの生暖かい目。


「楓は能力ないけど、いいやつだよな」


とでも言われて、輪の隅に置いてもらう。


その光景が、はっきりと目に浮かぶ。


反吐が出る。


俺は誰かに見下ろされて、その視線に「ありがとう」と返すような人生を、死んでも送るつもりはない。


(俺は……俺だけ、こんな扱いを受け入れる気はないぞ)


窓ガラスに、自分の顔が映っていた。


穏やかに微笑む、人当たりの良い少年の顔。


みんなが知っている「楓」の顔だ。


優しくて、愛想が良くて、害のない友人。


その顔の奥で、別の何かがゆっくりと目を覚ましていく。


夜になれば、俺はあてがわれた部屋で眠ることになるだろう。


クラスメイトたちは興奮して、夜遅くまで自分の能力について語り合うだろう。


誰も俺のことなど気にしない。


気にしたとしても、それは哀れみという形でしかない。


哀れまれる側の人生。


そんなものは、俺の人生の選択肢にない。


「楓、夕食だってさ。一緒に行こう」


春樹が呼びにきた。


俺は窓から振り返って、いつもの笑顔を作る。


「ああ、行こうか」


(俺は、絶対にこのままじゃ終わらない)


歩き出す足取りは軽かった。


誰の目にも、能力をもらえなかったショックから立ち直りつつある、健気な少年に見えただろう。


その夜、俺の部屋に、あいつが現れることになる。


ただ、そのときの俺はまだ、知らなかった。

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