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双星、ふたたび

子ども達にはどれも忘れられない体験です。


 無事に女王即位と大公叙爵の儀が行われた後、新大公御一家は王城に数日滞在した。

 子ども達はすっかり仲良くなり、星跡の湖でみんなでピクニックしたり、エルンは湖のほとりで図鑑に載っていない花を見つけて目を輝かせたりと、思い思いに楽しい時間を過ごした。

 そして、騎士団の護衛付きだが、大祝祭が催されている城下町を練り歩いた。

 かつて星が降った厄災から復興を遂げた王都は街全体が統一された設計をされており、青い城壁に囲まれ、青い屋根の建物が並び美しかった。

 大通りにはたくさんの屋台が立ち、異国の珍しい食べ物や装飾品が並んでいる。どれも初めて目にするものばかり。 

 広場では曲芸やブレイグ戦役を題材にした芝居、楽師の演奏などが行われており、どれもきらびやかで、素朴なブレイグとは大違いだった。



 いよいよ明日は、ブレイグへの帰路につく。

 訓練場ではワーズウェント王配殿下とブレイグ大公妃…アンソニーとジェシカが対峙していた。

 訓練場とはいえ女王陛下、大公殿下、そのお子様方が見守る天覧試合である。


「ふふっ!あなたとの勝負、何年ぶりかしらねぇ?たまに騎士団と遊んだり体型維持のために素振りだけは欠かさなかったけど、だいぶ勘が鈍ってそうだわぁ」


 アンソニーが可笑しそうに訓練用の刃を潰した剣をクルクル八の字に回す。その動きには無駄が無く、キレッキレだ。


「同じく。僕も、今は双子と一緒に訓練してるけど、エルンが2歳になるまでブランクがあったからね」


 対するジェシカもスラリと剣を抜き、構える。その動きが速すぎて、目視できた者は少ない。


 お互いに、全盛期には及ばないと言い訳を前置きし、軽口をたたき合う。


「兄上、父上はいつもきゃっきゃと騎士団の手合わせを軽くあしらってて、お強いんでしょうけど、大公妃様も相当お強いんですか?」


 クラウディアとアンソニーの第二王子カインが兄のアーサーの袖を引っ張る。

 アーサーとカインはお人形のように愛くるしい。


「昔、辺境領の野盗討伐はお二人の先導で行って、オニクセルの双星と恐れられていたそうだしねぇ。父上はさらにブレイグ戦役の鬼神の異名を持っているし、さて、どちらがお強いかな?」


アーサーはおっとりと微笑んだ。


「ふふ。アニーとジェスはうちの騎士団でも最強の座を争っていたのよ?お父様は普段ああだから想像もつかないでしょう?見ててご覧なさい」


クラウディアはニッコリ微笑んだ。


「母様、むっちゃつえーぞ!」


「そうだよ。ブレイグの騎士団のみんなが鬼教官って言ってるし」


「母様、父様よりも強いものね!」


 ロビン、アレン、エルンがアーサーとカインに興奮気味に言った。


「はは。みんなよく見てるな。父様は剣じゃ母様には敵わないよ」


 心の中で『夜は僕の圧勝だけどね』と呟くグレン。


 お互いの切っ先を合わせると、それを合図にジェシカがアンソニーの懐に斬り込む。

 アンソニーはその剣をくるりと受け流し、返し手でジェシカに振り下ろすが、するりとかわされまた斬り込まれ…。

 そうして凄まじいスピードで剣戟が続いた。

アンソニーはジェシカの打ち込みをすべて受け止めているが、自分から繰り出す前にジェシカの次手が飛んでくる。


 子どもたちは全員あんぐり口を開けている。


「いや、母様むっちゃ強いけど、普段あれで全然本気出してなかったのか!?」


「騎士団のみんなに『遅すぎる』って言ってる意味がわかった…」

 ロビンもアレンもジェシカが騎士団の誰と手合わせしてもこれほどの速さで打ちあう姿を見たことがなかった。


「ごめんなさい父様。勝てるわけ、なかったよね…」


 エルンは心底申し訳なさそうにグレンを見上げた。


「そうだね。母様はとっても強いから。うん、やっぱりジェシカは最高にカッコイイ…」


 グレンは全く気にすることもなく、エルンの頭をよしよしと撫でた。


 対して女王と王子たちは…


「父上、さすがにきゃっきゃする余裕はないようですが…これは驚きました。いや見事です…」


 どんな時もおっとり構えているアーサーが驚嘆している。


「母上、兄上…父上と大公妃様、凄い…強い…!凄い!」


 カインに至っては興奮してずっと凄いと叫んでいた。


「全力で当たれる相手がお互いしかいないのよねぇ。貴重な機会よ。よーく目に焼き付けておきなさい」


 クラウディアは子どもらしい一面を見せる二人に母としての微笑みを向けた。




 練習場にはいつの間にか騎士団や城仕えの者たちが駆けつけ、人だかりが出来ている。


 長い剣戟から一旦離れ、かなりの間合いを取って二人は肩を上下させていた。


「もうっ!相変わらず速いわ!受けるばかりで精いっぱいよ!でも持久戦に持ち込めば私の勝ちよ!」


「はは…その前に勝負をつけるさ!けど、当たれたのは久しぶりだ!やっぱり楽しいな!」


 ジェシカは左右に揺れ、右に踏み込んだ直後に左へ飛んだ。

 一瞬バランスを崩したアンソニーの真下に潜り込み剣を脇腹で寸止めした。


 アンソニーの剣はジェシカの頭上のだいぶ上で止まっている。


 どっと大歓声が巻き起こった。



「まだまだよっ!」


 続けて2戦目に突入。

 今度はアンソニーが先制で重い一撃を放ち、正面から受けたジェシカを剣ごと弾き飛ばした。


「くっ、やっぱりまともに受けたらひとたまりもないな!」


 地面をゴロゴロ転がったジェシカはすぐに剣を拾い構え直した。

 観客はみな固唾を飲んで行く末を見守った。



 勝負は3勝3敗の引き分けで、二人は訓練場の床の上に大の字に倒れ込んだ。


*****


 子どもたちが二人に駆け寄り、大公、女王もそれに続く。



「母様、今まで手加減してたのかよ!いや、本気だったら俺ら敵わないか。スゲェな。双星、最高だぜ!」


「母様のスピードに目が追いつかなかったよ。どうしたらあんなに軽やかに動けるの?僕にも教えて!」


「母様、凄く素敵だったわ!大好き!」


 子ども三人がジェシカに抱きつき、矢継ぎ早に声をかけた。


「ありがとうみんな。ロビン、アレンはこれから特訓だな!」

 

「ええ!マジかよ!?」


「はい!頑張ります!」


「ふふ!応援するね!」


 みんなで笑いあっているところに、グレンがジェシカを抱きかかえた。


「うわ!みんなの前で恥ずかしいです!」


「でも立ち上がる気力もなさそうだよ?」


「あーもう………そのとおりです」


 ジェシカは観念してグレンの胸にぽすっと頭を乗せた。


「相変わらず君はカッコよくて最高だよ。夜は僕の相手もしてほしいな」


 最後は耳元でささやくように告げ、にっこり微笑んだ。


「明日、起きられなくなるじゃないですか…」


 ジェシカは真っ赤になって抗議した。




「父上!父上がこんなに凄いなんて…尊敬します!僕も父上みたいになりたい!」


 いつも大人しいカインがアンソニーに飛びつき、大興奮で告げた。


「父上、何でオネエやってるんですか?普通にカッコイイじゃないですか」


 アーサーも弟に続きおっとりと聞いた。その顔は生き生きと輝いている。

 

「うふふ!ふたりとも、ありがとう。照れるわね!いいトコ見せられたかしら?」


 アンソニーは立ち上がり、王子達の頭を撫でた。


「なかなか貴重な姿を見せてもらったわ。惚れ直したわよ」


 クラウディアがそう告げると、アンソニーは赤くなり、その場に跪いた。

 そしてクラウディアの手の甲に口づけする。


「我が剣と生涯は貴女とともに。女王陛下(ユア・マジェスティ)」


 クラウディアは跪いているアンソニーの頭に、そっと口づける。


「ええ、ともにいきましょう。どこまでも」


 この日の光景はアーサーとカインの生涯の指針となった。


 そう言えば、アンソニーの剣技ってまともに書いたこと無かった…と双星の対戦です。

 小さな頃からこの調子でしたから、二人とも懐かしかったと思います。

 カインは将来オニクセル侯爵領で流星候の名で呼ばれる剣の達人になりますが、この時を境に剣の道に突き進みます。

 ロビンとアレンもまた、母の剣を受け継いでいきます。



********

明日はついにARCADIA王国編なろう投稿1周年です!

何とか100話も達成できそうです。


並行してアニバーサリー企画で短期連載していた、

「溺愛が過ぎる王子は敵国の策略で身ごもり失踪した妃を地の果てまで追いかける」

も無事ハッピーエンドを迎えました。

よろしければそちらもご覧ください。


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