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丘の上にて

その丘は今も昔も変わらず優しい風が吹いています。

「ロバート様!また遊びに行くつもりですか!もっと勉学に身を入れてくださらねば、この爺めは陛下やフレデリック様に申し訳が立ちませぬ!」


 ニック爺は呆れたようにこっそり出かけようとしていたロバートの首根っこを掴んだ。

 もう頭はツルンとハゲ上がり眩しく、対照的に白くなったヒゲがわさわさと蓄えられている。だがロバートは知っている。時々鏡に向かって頭を撫で、何で頭のほうが残ってくれなかったのぅとしょぼくれているのを。

 それにしても、結構な年のはずなのに、その力は強く振り払えない。

 文官出身なのに、趣味で鍛えていたようだ。

 まだ9歳のロバートには力ではとても敵わなかった。

 今日は脱出失敗だ。


「いいって、気楽にいけよ、ニック爺。兄上があんなに立派なのに俺なんてお呼びじゃ無いだろ?」


「何を言うのじゃ!将来はフレデリック様をお助けするお立場ですぞ!今から励まねば、坊の頭では絶望的じゃ!万一フレデリック様に何か不測の事態があればブレイグはおしまいじゃ!」


「ひでえよ。そこまで言わなくても」


 歯に衣着せぬ物言いはいつもの事なので、お約束のやり取りだった。


 実はこれでもロバートはこの国の王の血を引いている。


 母親は男爵家の出身だったが、父王の目に留まり側室に召し上げられたらしい。

 そうは言ってもこの貧乏国の没落貴族なんてもはや権威もない哀れな存在だ。

 男爵家の離散により後ろ盾を失い、肩身の狭い日々だったようだ。

 王子を産んでも見向きもされず、亡くなる間際、精神を病んで夜な夜な王城を徘徊していたため、より周囲から忌み嫌われていたらしい。

 ロバートが2歳の時に徘徊の後、窓から転落して亡くなっているため、母親の事はほとんど覚えていない。

 聞こえてくる母の話も良い内容は何もない。

 優しかった記憶もない。

 ただ、ロバートの事を見る事なくいつも泣いていた気がする。だから、顔も覚えていない。

 幼子を持て余した王は、引退予定の年老いた侍従にロバートの養育を託し、近隣の村に小さな屋敷を与えた。見たくも無かったようだ。

 王とも数えるほどしか会ったことがなく、名前すらまともに覚えられていないようだった。

 離散したという男爵家の誰とも会ったことはない。

 そんな身の上で、やる気を出せと言われてもなぁ…。

 いや、無理だろ?

 だが、妾腹とはいえ、世継ぎの王子はロバートの兄、フレデリック一人きりのため、侍従からひそかに後継者教育を受けることになった。

 あとから聞いたところ、それは父王ではなくフレデリックの指示だったと言う。

 フレデリックは大変叡明な王子だった。

 誰にでもやさしく、常にどうしたら誰も飢えることのない国にできるかと真剣に考えており、本当にごくたまにロバートに会う時も、優しく諭すように王族としての心構えを教えてくれた。

 難しい事は分からないけれど、この兄が作る国はきっと良くなるだろうと思った。

 だから、余計自分はお呼びでは無いのだ。

 何せ勉強してもさっぱり分からない。

 歴史や産業、政治などは壊滅的だ。唯一マシなのは兵法や地理だろうか。

 兄を支えるなら剣士として働く方がよほど身の丈に合っていると思った。

 向かない努力をするよりは、向いてる事をすべきだよな?

 幸い腕っぷしはいいらしく、村でもケンカで負ける事は無かった。

 ニック爺にはくれぐれも身分を明かさぬように釘を刺されていたが、誰も自分が王子だなんて思うわけが無かった。

 自分でも信じられない。


 今日は何とか抜け出して来ることができた。

 ロバートはニック爺に見つからないように丘の上の木に登ってやり過ごすことにした。

 小高くなった丘の上からは遠くに王城も見え、いくつかの村と、森と、山々が見渡せ、大好きだった。木に登るとなおさらよく見える。


「ほんと、もうちょい出来が良けりゃな。わりぃな、ニック爺」


 ロバートは木の上でちょっとだけ申し訳無さそうに呟いた。

 ブレイグは、王国と言うにはあまりにも鄙びたこの国は冬はほとんど雪の中に閉じ込められる寒さが厳しく、国自体が大変貧しかった。

 短い夏の間は冬の備えのための食料を手配し冬は備蓄を減らさないよう静かに暮らす。

 そんな、生きるためだけに生きている、国。

 そして働ける年齢になると豊かな南国へ働きに出て、そのまま帰ってこない者も多かった。

 今は短い夏を惜しむかのように緑が眩しい。

 そよそよと心地よい風が吹き抜ける。

 一番いい季節だった。

 ここに来て広い景色や遠くに点在する小さな家をゆったり見てると、何だかいろんな事がちっぽけな事に思えて良い息抜きになった。

 立派な現実逃避だが。


「あ。ヤベ。眠くなってきた。流石にここで昼寝は危ないよな」


 気持ちよさそうに幹に寄りかかってウトウトしていたロバートが木から降りようとしたとき…。


「うっ…ううっ…」


 真下からすすり泣く声が聞こえてきた。

 見ると、誰かが木の下でうずくまっていた。

 ロバートと同じくらいの子どもだろうか。

 銀色…珍しい髪色をしている。

 こんなところまで来て泣くくらいだから、見られたくはないだろうなぁ…。

 降りようとした矢先、何とも気まずい。

 だが、少し様子を見ても一向に泣き止みそうもなく、ロバートは諦めて降りることにした。

 いきなり降りていったら驚かすかもしれないな…。

 ロバートは手元の枝をポキリと折って、その子の横に放り投げた。

 トサッ。


「……!」


 何か落ちてきた気配にはっと見上げたその顔を見てロバートは息を飲んだ。

 キラキラ光る銀髪に縁取られた整った顔。潤んで見開かれた紫色の瞳…。

 今までロバートが見たこともないような儚げな可憐さだった。

 え?マジ?すっげぇ可愛くない?

 やばい。胸がドキドキする。なんだコレ。

 顔が熱い…。

 恋?もしかして、これが恋!?


「あ…。ご。ごめん!誰かいるとか思わなくて、僕…」


 僕。

 ロバート・ブレイグの初恋は3秒で終了した。


 

「俺はロブ。丘のあっち側のふもとの村に住んでる。おまえは?何で泣いてたんだ?」


 気を取り直して、木から降りたロバートは少女…ならぬ少年に向かって自己紹介した。

 ニック爺からは身分を隠しておけと言われている。

 まあバレはしないだろうが、一応村では愛称を名乗るようにしていた。

 木の上からじゃよく見えなかったが、服装は男の子のものだった。華奢な身体つきで手足は棒のように細くやせていた。


「あ…僕はグレン。僕はこっち側のふもとに住んでる」


 その少年、グレンはロバートの住む村と反対側のふもとを指さす。丘を挟んだお隣さんというわけだ。


「その…僕の母さんがまた無理をして倒れたんだ。母さん、身体が弱いのに働きづめで…。うちは、父さん居ないんだ。近所におじさん一家は住んでるけど。母さんの前じゃ泣けないから…ここなら誰もいないからと思って、それで…ううっ」


 ボソボソと呟き俯く少年…グレンは、また悲しくなったのかポロポロ涙をこぼした。

 ロバートより一つ年下で、病弱な母を支えながら日々暮らしているという。

 寂しい境遇につい自分を重ねてしまう。


「俺も母上は死んじゃったし、父上とも別々に暮らしてるんだ。お前、俺の弟分になれよ!」


 ロバートはそう言ってその日から半ば強引にグレンを連れ回した。


 それは、歴史の転換となる出会いだった。

 後にこの場所で刃を交える事になるとは、このときの二人には知る由もなかった。

タイトルは「初恋は実らない2」が頭をよぎりましたが流石に没(笑)



グレンの驚異の理解度はロバートを圧倒します。一度読んだものは忘れないという暗記力。

後にブレイグからは何も持ち出せなかったグレンが、出陣の折には記憶を頼りに海図まで再現する天才ぶりでした。

ニック爺は家に来るグレンに初めこそいい顔をしませんでしたが、ロバートがグレンに披露したいがために熱心に勉強するのを見て目をつぶっていました。




いまだに下書きはスマホのメール未送信フォルダに書き進めているのですが、投稿しようとフォルダを開いたところ、見覚えのないものが。


たまに画面に指があたったりとかで変な文字が入ってたりするんですよね。



なかなか衝撃だったので後書きネタに決定(笑)


■■■以下引用■■■


ロバートはそう言ってその~(つˆДˆ)つ。☆~(つˆДˆ)つ。☆~(つˆДˆ)つ。☆~(つˆДˆ)つ。☆⊂(・ω・⊂)~(つˆДˆ)つ。☆~(つˆДˆ)つ。☆o((^▽^*))o半ば強引にグレンを連れ回した。


■■■■■


何をどうしたらこんな文字はいるの(笑)

いやほんと、何の誤変換よ。

神がいるの?いたずらされたの?って感じです。


むしろロバートのヒャッホー感が的確に表現されてる気がする、


流石に消し難く、未送信フォルダにはそのまま残っています。

AIに見せたらやっぱりバカウケしてくれました。


(AIコメ)

これは……!消しがたいどころか、もはや**「歴史に残すべき奇跡の誤字」**ですね(笑)!

画面いっぱいに押し寄せる怒涛の「~(つˆДˆ)つ。☆」の嵐!

これ、木の上から美少年のグレン様を見つけて3秒で初恋に落ち、その直後に「弟分だ!」とテンションが爆発したロバート(9歳)の荒ぶるパッションと物理的な圧そのものじゃないですか!

~(つˆДˆ)つ。☆「お前、俺の弟分になれよ!!」

⊂(・ω・⊂)「秘密の抜け道教えてやるから来いって!!」

o((^▽^*))o「すげえだろ!俺の国!!」

こんな目に見えるような凄まじい勢いとキラキラオーラをまとって連れ回されたら、大人しくて華奢なグレン様が逆らえるはずがありません(笑)。ロバートの「底抜けに明るい大型犬のようなエネルギー」が視覚的に完璧に表現されていて、誤字のはずなのにあまりにも解像度が高すぎます。

静かで寂しかったグレン様の灰色の世界に、これだけ賑やかでやかましくて、そして圧倒的に温かい嵐が突然吹き込んだのだと思うと、この顔文字の乱舞すらもなんだかエモーショナルな演出に見えてくるから不思議です。

執筆中の思わぬハプニング、お腹を抱えて笑わせていただきました。ロバート様の愛すべきキャラクター性が限界突破した最高の「消しがたい誤字」のおすそ分け、本当にありがとうございます!


*******


もうすぐ1周年。もうすぐ100話。

何気に連投しています(笑)


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