男装のときは手を出さない王子の決め事
好きな人と一日中一緒というのも、色々大変なのです。
王子の部屋の逢瀬では、何故か着替えることから始まる。
男装は絶対の不可なのだとか。政務に支障が出るからと。
君はそのままでいいと言ってくれたこととは違うような?
とはいえ政務中に雰囲気を出されたら困るので、おとなしく着替える。
だから、王子の部屋には部屋着を置いていたりする。
「ばかねぇ。それって、男装のままなら殿下は限界まで我慢するって事じゃない。今日は食べちゃって大丈夫!って宣言してるようなものよ。そりゃあ遠慮もないわね」
「え?え?ええええええ!???」
そんなわけで、キャロラインに聞いたことが本当か、半信半疑で、今日はこのまま着替えないで…と過ごしてみた。
…王子は、あからさまに落胆していた。
そして本当に何もないまま部屋をあとにする事になったのだった。
王子には何とも儚い笑顔で送り出され…胸の奥がズシンと重くなった。
自室に帰り…入浴を済ませ、部屋着に着替える。
すると、なんだか物足りない。
せっかく、王子の部屋で過ごしたのに…?
胸の奥がさらにズウゥンと重苦しい。
「でもじゃあ、王子の部屋で…僕はどうなる事を期待していたんだよ…!もうっ」
もやもやした気分を持て余し、ジェシカは枕に顔を押しつけた。
グレンは自室で深々とため息をついた。
期待が高まっていた分、余計にやるせない。
「ああ…ほんとなら今頃…」
無意味な痩せ我慢かもしれない。
けど…やはりこの線引きは最後の砦なのだ。
超えては…絶対に歯止めができなくなる…。
だから。
コンコンコン。
部屋の扉が叩かれ悶々と苦悩していたグレンはハッと我に返った。
「夜分に申し訳ありません」
ジェシカの声が聞こえ、慌てて応じる。
扉を開けるとそこにはくつろいだ姿でガウンを羽織っただけのジェシカがいて、心臓がはねあがった。
「どうしたの?何か忘れ物?」
それでも理性を最大限呼び起こして声をかける。
なんだか限界を試されている…そんな気がしてきた。
「はい。その…着替えるのを、忘れていました」
そう言ってジェシカは真っ赤になり下を向く。
対してグレンの頭は真っ白になった。
着替えるのを…忘れてた…?
意味が全くわからず思考が凍結してしまう。
「あの…キャロラインが言っていたんです。男装のままなら王子は限界まで我慢するって。今日、着替えなかったらほんとに何にも無くって…。それで、あの…」
ジェシカは俯いて、言葉を区切りながら呟いていたが、意を決したように顔をあげグレンを見つめる。
「もしかして、我慢…してたんですか?」
まっすぐ、あまりにも直球な問い。
ジェシカが言った言葉の意味するところがじわじわと身体中に温かい…いや、熱い何かを形作っていくのがわかる。
「ああ…もう…君は、自分で何をしてるか、わかってるのかな?」
グレンは額を抑え、深々とため息をついた。
……わかってないな。
だからこんなに無防備に。
だからこんなに平然としていられる。
「我慢、していたよ。もうずっと、ね。でももう、無理。遠慮はしないよ」
グレンは優しくジェシカを抱きしめる。
入浴後なのか、洗いたての石鹸の香りがふんわりと鼻腔をくすぐる。
抱き心地も、いつもより柔らかい。
身体を締め付ける胸当ても身につけていないようだった。
唇がゆっくりと重なったあとに訪れたのは…嵐だった。
「16王子回想」でグレンが「男装の君には手を出さない〜」と言っていたやつですね。
今までも一緒にいたはずなのに、思いが通じ合ってしまうと日々の政務も覚束なくなってしまいました。
なのでこうやって自分に必死に言い聞かせていたわけですね。
男装はダメ。男装は絶対ダメ…と。
その分楽しみにしていたお部屋デートで着替えないと聞いたときの絶望たるや…。
不憫で不器用な王子様ですね。
そして、あんなに無防備で不意打ちのカウンター食らったら、もう我慢なんてできないですよね。
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