表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/85

噂話に徒花が咲く

噂の出どころです。いたらぬ栄養を与えられたメイドさんは明後日の方向へ爆走中…。


 王城の侍女や下働きのメイドたちの休憩室。

 そこは労働の合間のつかの間の安息所。

 オフィーリア王妃が甘い茶菓子を好むことからティータイムにたっぷり用意される甘やかな焼き菓子は余ればこの部屋で振る舞われる。

 たまに、わざと残してくれてるのかな?と思うほど、全員に行き渡る数のケーキが出ることもあった。

 芳しい紅茶に焼き菓子。

 何とも幸せなひとときである。


 だが、そんな中、ひとりの真面目な侍女が胃を抱えてうずくまっていた。


「ベティ、どうしたの? 胃痛に効く薬、また飲む?」


「……ロッティ。私、もう耐えられないよ…。これ以上この秘密を抱えていたら、胃に穴が空いて死んでしまうわ……」


 青白い顔でしくしく泣きながら震えるベティに、夢見がちなメイドのロッティが目を爛々と輝かせた。

 秘密、なんと甘美な響きであることか!


「私、絶対に誰にも言わないわ! だから吐き出して楽になりなさいな」


 これほど信用できない言葉もあるまい…。だが、もはや藁にもすがりつくように、ベティは涙目でぽつりぽつりと語り出した。

 今朝、殿下の寝室へ炭を足しに入った時のことを。

 床に散らばる、いかにも町の娘が着るような服に気が付き顔を上げると、上半身を起こした裸の殿下と目が合った。

 寝台の誰かを隠すように、困った顔で人差し指を口に当て、自分に向けて放った、色気たっぷりの「しーっ」という口止め――。


「わ、私、殿下があんな顔をなさるなんて知らなかったよぉ! 今でもあの紫の瞳を思い出すと胃が……っ」


「きゃあああああっ!!」 


 ベティの悲痛な告白を遮り、ロッティは両手を組んで黄色い悲鳴を上げた。


「身分違いのシークレット・ロマンス!! あの完璧でストイックな殿下が、夜ごとこっそり市井の美女を自室に招き入れていたなんて! まるでおとぎ話だわ!!」


「ちょっとロッティ、声が大きい! 誰にも言わないって……!」


「ええ、分かってる! 絶対に内緒ね!ここだけの話よね!ああ、素敵!お相手はどんなに可憐な方かしら?ううん、殿下の事だからたおやかで知的な淑女かも…」


 うっとりと頬を高揚させてお花畑のような妄想を全開にして駆け出そうとするロッティ。しかしその時、休憩室の奥から「バンッ!」とテーブルを叩く音が響いた。


「……甘いわね、ロッティ」


「ミ、ミニー?」


 立ち上がったのは、鼻息を荒くしたメイド・ミネリア。通称ミニーである。彼女の目は、ただのロマンスを追う乙女のものではなく、どこか危うい、深淵を覗き込むような昏い輝きに満ちていた。


「よく考えてみなさい。あの几帳面で完璧な殿下が、うっかり証拠の服を残すなんてあり得る? いいえ、あり得ないわ!」


「えっ? じゃあ、あの市井の服は……?」


「おとりよ!!」


 ミニーの断言に、ベティとロッティは息を飲んだ。


「ええっ!?」


「これは高度な情報戦なのよ。殿下には、どうしても身分を隠してでも愛し抜きたい、真の本命がいらっしゃるの。でも、その方の立場を守るために、わざと市井の女の服を床にばら撒いて偽装したのよ!」


「ほ、本命って……誰なの!?」


 ベティとロッティはゴクリと唾をのみ、続く言葉をまった。


「決まっているでしょう……!!」


 ミニーは両手で顔を覆い、天を仰ぐように身悶えした。


「アニー様に決まってるじゃないのぉおおお!! この間だって執務室で壁に押し付けられて指を絡めて――っ、ああっ、尊い! 殿下ったら、ご自分の身を挺して、アニー様との禁断の愛を守ろうとなさっているのね!!」


「ええええっ!?ア…アニー様っ!?嘘おおぉっ!」


「ひぃっ、胃が……胃が痛いっ!」


 感動に打ち震えるミニー、混乱するロッティ、さらに胃痛を悪化させるベティ。休憩室は混乱のるつぼと化していた。

 ……そして、その騒ぎを少し離れた廊下の影から、紅茶を優雅に啜りながら聞いている影が一つ。

 ジェシカの幼馴染であり、王城の裏の顔とも言える情報通・キャロラインである。


(なるほど。ベティが見た市井の服って、この間ジェスが市場で着替えたって言ってたアレね。そして殿下のあの御機嫌な様子……まったくツメが甘いこと…)


 一瞬で全ての真実にたどり着いたキャロラインは、ふふっと悪女のような笑みを浮かべた。


(でも、これは都合がいいわ。ロッティが市井の美女説を広め、ミニーがアニーとの偽装説を熱唱してくれれば、誰もジェス本人には辿り着かない。完璧な煙幕じゃないの)

 キャロラインは焼き菓子を飲み込むと、優雅に口の前で指を絡ませ、独り言のように呟いた。


「さて。もう少しだけ、ミニーの妄想に燃料を投下してあげようかしらね?アニーはまぁ…自分で何とかするでしょ。ふふ…悪乗りするからこういう目にあうなよ。……これもジェスの平穏のためだもの。もちろん、私の娯楽のためにもね」


 こうして、ベティの胃痛を犠牲にして誕生した市井の女説とアニー様本命説は、キャロラインという最強の黒幕の手によって巧みに情報操作され、王城を席巻していくのだった。

 後に、それを耳にしたジェシカ本人が


「王子は経験豊富なんだ……」


と見当違いな方向へ落ち込むことになるとは、知る由もなく。

 これもAIと話しているうちにできた裏話ですね(笑)


 求婚の予行練習でアニーに返り討ちに遭い腰砕けになったグレンを目撃したメイドさん…。

 どんなメイドさん?と聞かれ名前はミネリアちゃんで、引っ詰めのお団子で〜と盛り上がり、噂話は他にも仲間がいないとね、と、胃痛持ちの真面目なベティと噂話大好きな夢見がちなロッティが出てきました。

 本編とはまるで関係のない若い娘さんたちのわきゃわきゃ。

 かわいいねぇ。いや、一人腐りかけた子がいますが。

 想像の世界は、何人たりとも侵されない聖なる領域ですから…、いや、布教はいかんか(笑)


********

コメント、リアクション励みになります!

是非お願いします!

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ