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形見

嫁ぐ娘と家族の団らん

 誓いの儀に合わせ、オニクセル侯爵も1週間前から王都へ滞在していた。三日後になればジェシカは王子妃となる。オニクセル家の一員として家族と過ごすのはこれが最後だった。

 晩餐はジェシカ、アンソニー、オニクセル侯爵の三人ですすめられた。


「まさかこんな日が来るとはなあ…。やんちゃな二人が王宮勤めも冷や冷やしていたが…ワーズウェントの未来が不安で堪らんよ」


 オニクセル侯爵は酒を煽り、ふうーっとため息をついた。


「娘の晴れの門出に何言いやがるんですか。この狸親父。だいたい最初に貰ってくれないかと王子に持ちかけたのは誰ですか?」


 ジェシカは呆れて父親に毒づいた。

 まあ、しんみりするのはガラではない。


「うふふっ!ジェスを貰ってくれる物好きが王子くらいだったんだから、しょうがないじゃない!多分、王子が強引じゃなきゃ、騎士団長まで登り詰めてたわよ、この子!感謝しなきゃね!」


 兄アンソニーも大概失礼である。

 まあ騎士団に居座り続けたのは事実だろう。父親も、戻ってこいだの、婿を取るだの大概しつこかったが、王子の話が出て諦めたようだった。


「母様にお前の晴れ姿を見せてやりたかったな」


 晩餐の酒も進んだ頃合いで、オニクセル侯爵がポツリと呟いた。

 父親から母親の話はほとんど聞いたことが無い。

 肖像画で見る母親は自分たちによく似ていて、だが儚げだった。


「昔から、母様の話はされなかったのに、珍しいですね」


「ん、ああ…。思い出すだけで涙が止まらなくなるからな」


「は?」


「なぜ、なぜわしを置いていってしまったんだ…ロゼリア〜!」


 ジェシカもアンソニーも唖然として食卓に突っ伏した侯爵を見下ろす。堰を切ったように泣き続けている。


「父様、まさか、母様を愛していらしたんですか!?」


 完全に政略結婚だと思っていた。しかし侯爵の嘆き様は尋常ではない。


「当たり前ではないか!見ていてわからなかったか!?」


 いや、まったく。

 母親の話題が少しでも出ると眉間に縦皺が深く刻まれたし、そのうち誰も触れなくなった。


「そう…だったんですね。母様はどんな方だったんですか?」


 自分たちが愛しあう夫婦から生まれてきた事が、何だか無性に嬉しく、ジェシカは温かい気持ちになった。


「母様との出会いはなぁ…」


 それから延々と、よく、新婚から一ヶ月のメニューまでスラスラ出でくるものだというくらいに詳細に父と母の幸せな日々を、今までの分を取り戻す勢いで聞いた。


「母様は身体が弱かったから、お前たちが人一倍丈夫な事をそれは喜んでいたよ。何でも好きなことをして欲しいと願ってた。そうだ、これを…」


 侯爵はゴソゴソとポケットから指輪のケースを取り出した。

 中には薔薇彫りの珊瑚があしらわれた金細工の指輪が。


「昔、わしがロゼリアに贈ったものでな。大切にしてくれておった。ジェシカがこの指輪が似合う年頃になったら使って欲しいと言うておった。だが、似合う頃合いと考えるとなかなか渡そうと思えなくてなあ…」


 いい話なのに茶化すのが狸親父の悪いところだ。

 ジェシカは指輪をはめようとして…。


「小指にしか、入りませんね…」


「ああ、母様華奢だったから…それ、中指につけていたぞ」


 狸親父はくっくっと苦笑した。

 それでも母の思いが込められていると思うと嬉しかった。


「ねぇ!私には母様のアクセサリー無いのかしら!?」


 アンソニーが侯爵にねだる。


「あ、ああ…そうだな…。指輪とお揃いのピアスなら…」


「あ、まさか、親父がいつもつけてるカフスも!?」

 

 よく見ると侯爵がいつも使っているカフスも同じ珊瑚のようだ。

 肌見放さず思い出の品を身につけていたわけだ。

 純愛だ…。


「僕も、そんなふうに思いあえたらいいな」


 ジェシカは柔らかく微笑み呟いた。


「あらやだ、ごちそうさま!うふふっ王子の溺愛ぶりから言って心配しなくても良いわよ!」


「ああ、ロゼリア、何で…」


 こうして久しぶりの団らんの夜は更けていった。

 狸親父ことオニクセル侯爵。

 双子が物心つく前に最愛の妻に先立たれ、以降独り身のまま。

 ロゼリアさんは侯爵の剣の師匠の娘さんでした。

 呑気な三男坊で、剣の稽古はサボりがち。遂に性根を直すと師匠の屋敷に呼び出され、完膚なまでに叩きのめされました。


「父は見込みがなければ見向きもしませんのよ」


 泥まみれ、涙まみれの自分を手当てしてくれた小柄なお姉様に、気づけば恋を。

 師匠に稽古をつけてもらう建前で通い続け、木陰で読書をするお姉様に声もかけられず。

 16歳になった時に結婚の申し込みます。

 身体が弱く、とても務まらないと固辞するロゼリアにどうしてもと頼み込み承諾してもらいました。


 妻の身体を気遣い、子どもは作らず静かに暮らそうと考えていた矢先、父と兄を相次いで亡くし侯爵を継ぐことに。

 若く健康な妻を迎えて欲しいと離縁を申し出るロゼリア。

 拒否をする侯爵にそれでは子どもを授けて欲しいと押し切られ、2年の後、双子を授かります。


 ロゼリアは双子が3歳になる前に亡くなりますが、病弱な自分に似ず丈夫すぎる子どもたちの成長を心から喜んでいました。


 狸親父のロマンス、ちび双子はまた機会があれば書きたいと思います。


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