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衝撃

求婚の行方のあと、何も手につかないグレンです

 それにしても……最高だった。

 この世にあれほど心地良いことがあるとは。


 グレンは執務中も上の空で、何度もあの夜の甘い感触を思い返していた。


「王子、その印章、逆さよ?」 


 ハッとして手元を見ると、治水工事の許可書に押された印影が見事に上下逆さまになっていた。


「あ、ああ……すまない。作り直さないとな……」


「別にわかりゃしないでしょ。ふふっ。完璧な王子のミスなんてレア物だし、むしろ価値が出るかもしれないわね」


 アンソニーはわざとらしく笑いながら、そのまま許可証を封筒に詰めてしまった。

 今日の側近業務はジェシカが担当だったはずなのに。

 グレンは、そのジェシカと瓜二つの顔を見ただけで、またしてもあの夜の表情を思い出してしまい、カッと顔を赤くして額を押さえた。


「あああ、だめだ……。まったく集中できない……」


「珍しい事。ま、うちの可愛い妹に手を出したんですから、せいぜい振り回されて、思い悩んでちょうだいな」


 アンソニーのどこかひんやりしたクギを刺すような言葉に、グレンはさらに肩をすくませた。

 お見通しって事か。でも、どこまでだろう…。

 求婚はともかく、既成事実まで至った事を知ってたら、多分ボコボコにされてる…。

 昔、騎士団で事あるごとにジェスに突っかかっていたどこぞの三男坊はアンソニーと訓練中、木刀が折れるほど激しい打ち込みを受け腰を抜かしていたっけ。

 アンソニーはこう見えてジェシカと対をなす双星と呼ばれた剣の達人だ。


「……なあ、アニー。僕、ジェスに避けられてるのかな?」


 思い切って尋ねてみるが、アンソニーは素知らぬ顔でつんとそっぽを向いた。


「さあ? わたしにはさっぱりよ〜。ジェスも色々と忙しいお年頃なんでしょ?」 


 わざとらしくとぼけられてしまい、グレンは小さくため息をつく。ふと机の端に目をやれば、そこにはジェシカのサインが入った決裁書類が山のように積まれてこちらへ回ってきていた。

 これだけの量をこなしているなら、実際に仕事に没頭しているのだろう。それならば、私情で邪魔をするわけにもいかない……。


「少し休憩しては?」


 分かりやすく落ち込む王子の姿を見かねたアンソニーが、半ば呆れたように促してくれたため、グレンは気分転換にと城内を散策することにした。

 そうして足を向けた軍部の詰所で、グレンは兵士たちの間でこっそり回し読みされていた一冊の書物を、何気なく手に取った。


「お、王子!? そ、それはっ!」


 顔を真っ青にして慌てふためく兵士たち。不思議に思い、パラパラと中身をめくったグレンは……雷に打たれたような衝撃を受けた。

 た、達人の……秘技……!?

 それは、これからのグレンの運命と夜の営みを劇的に彩ることになる、恐るべき指南本との出会いだった。

 グレンはパタンと本を閉じると、コホンと一つ、ひときわわざとらしい咳払いをした。


「……これは城内の風紀を乱すな。没収するよ」

達人の秘技

恋に浮かされたグレンには劇薬でしたね。


達人の秘技ネタはついついおふざけが過ぎてしまって筆がのり、いくつかストックがあるので、おいおい。

 AI達も媚薬と秘技は大好きで、何でもこの二つの成果に結びつけた感想を言ってました(笑)


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