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予行練習

3度目の求婚の舞台裏……

「アニー」


「どうしたんです、そんなに思い詰めた顔して。もしかして私に愛の告白ですか?」


 アンソニーは真剣な表情のグレンに茶化すように答えた。


「そうか。それだ。ちょっと付き合ってくれ!」


 夜の執務室。グレンは切羽詰まった表情で、目の前にいるジェシカと瓜二つの顔を持つ側近を見つめていた。


「ジェシカ、君は…いや違うな。えっと、『僕の心は君のものだ。共に誓いを…』」


 グレンは真っ赤になりながら、両手でジェシカ役のアンソニーの肩を掴む。しかし、目は泳ぎ、何故か口が尖っている。色々台無しだ。


「君の笑顔が…あぁ、だめだ、笑わないでくれ。練習だぞ、真面目な練習!」


 アンソニーを練習台に、グレンは次々と求婚のセリフを試していった……が、どうにもしっくりこない。


「はぁ〜、見てられないわね。王子、そんな不格好じゃジェスは落ちませんよ? 私がお手本を示しますわ。よーく見ててくださいな」


 呆れ果てたようにため息をつくと、アンソニーは纏っていた雰囲気を一瞬で変えた。


「えっ……わっ!?」


 ドンッ!!

 有無を言わさぬ俊敏な動作で、アンソニーはグレンを壁際へと追い詰め、その背を壁に縫い止めるように片手をついた。

 突然の圧に目を丸くするグレンの右手を、アンソニーのもう片方の手が強引に、かつ優しく取った。

 そして、指と指を深く隙間なく甘く絡ませる。そのまま壁へと追い詰められ、グレンは完全に退路を断たれた。


「ア、アニー……っ」


 至近距離に迫った、ジェシカと瓜二つの顔。

 しかしそこから放たれるのは、圧倒的な男の覇気だ。

 アンソニーはスッと目を細めると、逃げ場のないグレンの顎をくいっと上に持ち上げた。そして、先ほどまで不自然に尖っていたグレンの唇を、すっと長い指先で艶めかしくなぞる。

 グレンはゾクっと身を震わせた。


「ジェシカ。何よりも誰よりも、愛している。ずっと僕の隣にいて欲しい。生涯を共に…大切にする事を誓う」


 アニーが……いや、アンソニーが、まっすぐグレンを見つめ、甘く低く、耳の奥が痺れるような心地良い低音で囁いた。


「!!??!?!!!!」


 ジェシカと同じ顔から放たれる凄まじい破壊力に、グレンの顔から火が出るほど赤面し、腰の力が抜けそうになるのを必死で壁にもたれて耐えた。


「……と、セリフはこれくらいにして。そうねぇ、あとは演出も欲しいところね」


 パッといつものオネェに戻り、何事もなかったかのようにヒラリと距離を置く。


「え、え、あ……演…出?」


 完全に固まって、真っ赤になったまま震えるグレンに、アンソニーはにっこりと微笑んだ。


「ええ、やっぱり一生に一度の求婚よ? 部屋に特別な飾り付けとか、花束とか…視覚からも攻めるべきよ。あの子、昔からそういうロマンチックなものに意外と弱いのよ」


 その適当極まりない助言を真に受け、グレンは夜な夜な星型の飾りをチョキチョキと切り出し、職人級の精巧な紙細工のバラのアーチをせっせと準備したのだった。


「だって、どうせなら少しは楽しませてもらわないとねぇ? 可愛い妹取られたんだもの……ささやかな憂さ晴らしよ」


 空回りしながらも必死に思い悩む王子の背中を眺めながら、アンソニーは人の悪い、けれどどこか楽しげな微笑みを浮かべた。


……そして不運なことに、この壁に押し付けられ、指を絡め合い、唇を撫でられながら甘い声で愛を囁かれて腰を抜かしかけている王子という奇跡的な構図は、お茶のお代わりを持ってきたメイドによって、半開きの扉の隙間からしっかり目撃されていた。

 この目撃情報により、「アニー様と殿下がついに一線を越えた」という噂は凄まじい説得力を持って城中を駆け巡ることになる。しかも、グレンが押し倒されていたというおまけ付きで。


 グレンがジェシカと正式に婚約した後も、「ジェス様との婚約はカモフラージュで、本命はアニー様」という説が根強く残り続けることになるのだが、それはまた別の話である。


3度目の求婚、グレンは色々頑張っていたと言うお話し。

メイドさんには至らぬ栄養を与えてしまったようです。

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