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17 学園in逃亡劇



 土日、体調崩した月曜。そして火曜日、3日ぶりの登校。ベッドから出たくないという魔力に縛り付けられ、数ヶ月前の引きこもりデイズに戻りかけていた。


 インターホンが鳴って、曜が来て、正気に戻った。友達を持つとはこういうこと。那己は目を擦りながら制服に着替えて外に出る。



「お、おはようございます」


「おはよう……」



 出迎えた曜は、やけに小さい声だった。周りを気にするようにチラ、チラ、と。なにかやましいことでもあるのか?



「どうしたの」


「しっー。静かに行くで……」


「……??」



 口の前で人差し指を立てながら、手を引かれる。まるで忍者のように足音を消して、家の塀や角に沿って歩く。

 那己は謎のスニーキング登校に疑問が浮かんでならない。



「あの……曜さんなにやってんの?」


「なにって、鐘望から隠れとる」


「あぁー」



 昨日強引な部活勧誘をして家の前で一悶着あったのは記憶に懐かしい。曜は血眼になりながら、高速で首を回し、偵察に次ぐ偵察を重ねていた。厳重警戒!!という四文字が那己には見えた。



「そんな警戒しなくても、朝は、来ないと思いますよ?」


 鐘望とは登校路も住んでる地区も違うし、と付け足す。しかし口をへの字にして眉を顰めながら「いんや」と返される。



「舐めたらあかんで、アイツ、マジで神出鬼没なんや」


「そうかな……」


「せやで。鐘望は常にこっちを見てると思った方がええ────」







「なに?ひかりん、私の話してるー??」


「「げっ!!?」」



 いた。鐘望メア、すでに背後を取っていた。曜は反射的に飛び跳ねると、猫のように毛を逆立てて、しゃーっ、しゃーっ、と鳴く。

 だがそんなのお構いなしに、那己に向かって話しかけてきた。



「それでなんだけど。どう?なこっち?部活に入る気は」


「え、えと」


「逃げるで!!那己ちゃん!!」


「あっ、はい。すみません鐘望さん」


「あ、ちょっと!!待ってよー!!」



 2人は颯爽と去る。そのスピード感たるや。関東のシューマッハ。



◆◆




 比窟 那己、約1年以上ぶり、渾身の全力ダッシュの末、無事死滅する。

 曜との走力に差がありすぎた。



「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……ひっ、ひがっ……ひがりざっ」


 バタン。


「なぁ!?那己ちゃんが死んだ!?大丈夫か!?」



 元引きこもりの、それも病み上がりに全力で走れと要求するのも酷な話である。そりゃこうもなる。顔がブルーベリーみたいな青紫色にもなる。

 きっと明日は全身バキバキの筋肉痛になるだろう。



「ほ、ほら、元気だしーや……もう学校ついたで。だから、な?」



 水を飲ませる。背中をさする。クラクラした頭を上げる。

 那己の視界に校門が映る。



(学校……学校……!?うわぁぁ!!〔絶望〕)


「……!!」


「なぁ!?どしたぁ!?那己ちゃんがまた死によった!!?」



 元引きこもりにとって、学校とはいい場所ではない。

 見てくれ、那己のこの透き通るような寝顔を。死んでる(意訳)んだ。



◆◆




「今朝は2回も死ぬなんて、散々やなぁ」


「ごめんなさい」


「ええて、ええて。悪いのは大体、鐘望のせい」



 怒涛の朝登校を終えて。午前授業をこなし、昼休みへと突入する。

 那己と曜はそれぞれ2年生と1年生だ。フロアが違うので、学校で会うタイミングがあるとすれば、登校と下校以外ならこの時間だけだ。



「よし、お昼しよか??購買で揚げパンこうてきたで」


「すごい、この学校の揚げパンすぐなくなるのに」


「こういうのはコツがあんねん。前の中学校んときもやってたんなけどな?4時限目の後半から争奪戦は始まってて……」



 と、いかにして、揚げパン盗塁王ヒカリが大立回りをしたのか話ながら、昼食を食べるために中庭に出る。

 春の暖かい木漏れ日が差し込み、ベンチに座る仲良しこよしが沢山。


 眩しい。景色が色々と眩しい。那己は思わず目を背けたくなった。

 ……自分もその眩しい光の中の一員であることを忘れがちだ。



 さて、そんな学校の充実スポット、"中庭で昼食"。そんな場所に来れば当然エンカウントする相手がいる。

 この学校で最も華があり、最も可憐で、そして最も輝くアイドル的人物。そう。



「あーっ!!やっと見つけたー!!」


「「げっ!!」」



 鐘望メア。再遭遇。



「那己ちゃん、コイツに合わんような食事スポットある?」


「トイレ」


「……教室いこか」



 足速に去る。まるでカマイタチの如し。



「待ってよー!!え?何サイン?後にして、ちょっ、みんな邪魔ーーっ!!」



 ただし学校というフィールドで、メアは大量のファンという名の足枷を抱えている。大勢に囲まれて身動きが取れず、追いかけるには至らなかった。


 助かった。

 

 


◆◆



「ねえ、なんで逃げるのさー」


「「げっ!?」」



 安心したのも束の間。放課後、突如ゴミ箱の中から出現し再び遭遇する。なんだこいつは。ゴキブリか何かか。茶髪だから余計そう思える那己だった。



「逃げるで!!」


「あ、はい。ごめんなさい。ボッシュート」


「えっ。ちょっ、待っ、きゃあっ!?」



 那己に押されて、ゴミ箱の中に押し戻される。ゴミはあるべき場所に。

 鐘望メア、燃えるゴミ。



◆◆



 2-A組。ここは那己の教室。放課後は誰も使わない部屋なので、がらんとしている。



「はぁ、はぁ、ここなら大丈夫やろ」


「うんうん、安心だねー。ところでちょーっと話聞いてくれない?」


「ひえっ……」


「あっ」




 いた。窓の外にいた。



「おい、どないなっとんねん。ここ3階やぞ」


「そりゃ屋上から梯子出して。私のボディガードさんに頼んで、ちょいちょいっとね」


「ちょいちょい……」



 流石人気者が成せる技なのか。ただのネットの有名人ならこれはできない。役者をやってたり、メディアでも大きな存在だからなのか。

 こんな大胆かつ豪快でカッコいい校則違反を目の当たりにした那己は、羨ましいなあ、なんて。ちょっと思ったりする。


 それはそれとして。



「あ」



 ぴしゃん。と窓を閉じた。



『ちょっとー!!窓開けてよー!!』という口の動きをしている。



 しゃっと。カーテンも閉めた。





 

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