18 部活勧誘はほどほどに
メアの猛烈な部活勧誘は止まることを知らなかった。
体育館に逃げれば、体育倉庫のボール入れから現れ。美術室に逃げ込んだら、石膏の中に紛れてたり。音楽室に逃げようとしたら既にいて、『運命』を演奏しているときは軽くホラーだった。
そして、今日この日。
「ふふふっ!!ついに追い詰めたぞー!!なこっち!!ひかりん!!」
「あっ、あわっあわっ……」
「ほんまにしつこすぎるわお前ーッ!!」
逃げ場のない廊下の一角へと追い込まれた。
「今日こそ、部活勧誘をするからね。ゲーム部の体験入部……来てもらうよ!!」
2人は首を横に振る。そしてふたりぼっちの背の高いピンクの方、曜がいままで会うたびに再三言ったことを繰り返す。
「だから嫌やって、ゆーとるやろが!!あたしらはあんたの部活に入る気はありませーん!!」
「そう言わずにお願いっ!!この通り!!……それとも他に入りたい部活あった?」
「いや、あらへんけど」
「み、右に同じく……」
「じゃあいいじゃん!!この学校は部活入るのを"推奨"してんだよー?だから、さ」
推奨という名の強制である。部活には何かしらの形で入らなければならない。
かと言って、2人が入りたい部活も他にないのも事実だった。
「せやけど、お前のはないわ。嘘つきの部活なんて誰が入るか」
「うん……うん……」
「そ、それは本当に悪かったって。あれは、つい。英雄マンの名前に釣られて、上手い人来ないかなあって思って……実際君たち来たし」
「英雄マンはお前の商売道具とちゃうんやぞ?舐めんとんのかワレェ」
「ごっ、ごめんってー!!」
曜がグーのポーズをして、メアが弱腰になる。たがそれでもまだ引き下がらない。
「頼むーっ!!じゃあ、せめて……せめて!!幽霊部員でいいから!!このままだと部活メンバーいなくて廃部にされちゃうんだよー!!」
「知るかぁ!!あんた人気者なんやからその辺の奴テキトーに入れときゃええやろ!!」
「ぐぬぬぬぬ……」
そりゃあ、メアが呼び掛ければ、我先にと、10秒で10人くらい集まるに違いないだろう。
しかし、そんなことで来るような奴は今まで何度も入部をお断りしてきた。
「私は、このゲーム部をお遊びでやるつもりはないんだよ……」
「っ……!?」
突然、メアの表情が怒気をはらむ。眉間に皺を寄せて、こちらをじっくりと見ると、両手を上げて、わきわきと。
「こうなったら、実力行使でやってやる……!!」
「ひいっ!?」
ついに出るところに出たメアの威圧感に気圧され、さっきまで罵声を浴びせていた曜は那古の影に隠れた。
「あ、あの曜さん?」
「ご、ごめん」
「なんでわたしを盾に……」
「那己ちゃんほんっっまにごめん……!!怒らせてもーた……!!どないしよ!!」
「ど、どないしよって、知りませんよ……!!わた、ぁわたしの事守れるぐらい強くなるって言ってたじゃないですか……!?」
「ヴィクトリアスではな!!リアルは……無理っ!!」
「ふぇぇ……」
やっぱり見てくれだけなんだなと思った。
いやしかしどうする。後ろは行き止まり、リアルファイトに持ち込もうとしても、曜が使えない以上、相手は強敵(メアの運動神経は並)。
(どうする……どうしよう……)
右を見る。左を見る。なにか、なにかこの状況を崩すとっかかりが……。
(あっ!!)
とっかかりは、幸いにも向こうからやってくる。
「2人を確保っ!!」
「鐘望さん」
「へ?」
ドスの効いた声が、後ろから発せられ、びしゃんと、廊下中に響き渡る。
誰の声か。声の主は、大人の女性の方である。
しっかりとしたスーツ、右手には画板。ペンを持ち歩く。この学校という環境での大人。
「せ、先生?」
そのにっこりとした表情に隠せない、青筋。これは怒ってらっしゃる。
「鐘望さん。貴方は名家のご息女ですので、今まで多めに見てきましたが、これはいただけませんね」
「あ、あの……」
「強引な部活勧誘はいけませんッ!!場合によっては停学、廃部処分にしますよ!!」
「ひぃぃ!!その、これにはわけが」
「わけもワカメもありません!!ちょっと職員室に来てもらいます!!」
「ひぇぇぇ!!たっ、助けて、なこっち!!ひかりーん!!」
問答無用。連行である。
あれは学校一厳しいと言われる灰谷先生だ。おそらく反省文は免れないだろう。
2人は安堵した。そして顔を見合わせて笑った。
「ふう、よかったなぁ」
「先生が来て、助かりましたね……」
と、緊張の糸がほぐれて言葉を交わす……のも、束の間だった。
「2人とも、自分らは関係ない顔してますけど、はやく部活希望出してくださいね?」
「「へ??」」
後ろから釘をぶっ刺された。灰谷先生は、全ての生徒に対して厳しい。
「ちゃんと、部活動には入るように。"校則"ですからね?わかりましたか」
「「わか、わかりましたっ……」」
ビシィっと、背筋を伸ばして直立不動のまま。緊迫して硬くなった顎をどうにか動かして返事するのであった。
生徒から見た先生とは、これほどにも恐ろしい存在なのである……。




