15 ゲーマーズ、プロローグ
「で、できた。新アカウント」
いま、目の前にあるVRヘッドギア。貯めに貯めたお小遣いと、お年玉を全て崩し、その上で親にねだった結果ようやく購入に至った代物。
なぜ2台目を買ったのか?
(これで、明日、曜さんと一緒に遊ぶ時に、「英雄マン」だって身バレしないで済む!!)
そういうことである。ユーザーネームは「ナコ・ヒクツ」
文字通り「比窟 那己」としての名前を持ったアカウントだ。
この頃、曜と一緒に遊ぶ頻度が多くなってきた。それはもちろん喜ばしいことだ。
放課後は毎日のようにゲーセンに通っていたし、仲も良好。
だが問題が起きたのは先週のこと。
◇◇
「那己ちゃん!うち遊びにこんか?自分のヘッドギア持ってきてさぁー!!」
「げっ!!」
◇◇
と、いうわけで初期データである2台目を取り敢えず全武器解放まで進めよう。
今日は土曜日。これから48時間もあれば、余裕という算段だ。
タイマースタート。
◆◆
『ヴィクトリアス』の武器解放の条件は基本的に通算の使用数や勝利数、キル数といったノルマをこなすことにある。
例えばこの隠し武器、"レイピアソード"は剣系の武器を通算10回使用すると手に入る。
剣系の武器といえば?ご存じ"双剣"はその代表筆頭格である。
「よし、ランクマッチ潜ろう……わたしのランクは、そうだよね。最初からだからブロンズだよね」
そもそもランクマッチとはなんぞや。ゲームをあまりしない人には聞き慣れない単語かもしれない。
ランクマッチとは、全世界のプレイヤーの中で実力が近いもの同士を選出して行う対戦形式を指す言葉。
ちなみにこれは『ヴィクトリアス』に限った話ではない。対戦ゲームだと度々登場する単語だったりする。
『ヴィクトリアス』におけるランクは下から、ブロンズ→シルバー→ゴールド→プラチナ→ダイヤ→マスター。勝てば勝つほどこれが昇格していく。
そして最高到達点、プレイヤーの上位500名の選ばし精鋭たちのみがその戦場に立つことを許されるグランドマスターランク。
この高みを目指し、プレイヤーは日々努力を積み重ねていくのである。
先程言った通り「ナコ・ヒクツ」のランクはブロンズランク。最底辺だ。
「ちゃっちゃとあげよう」
ちなみに「英雄マン」は?と聞かれたら。それはもちろん────グランドマスター。
◆◆
「とりあえず、条件緩い隠し武器は全部回収したし、ゴールドに乗せたし、休憩しよ」
鬼の連勝を重ねて爆速で上げた。当たり前である。最高ランク帯で297連勝なんて記録を弾き出している、世界トップクラスのプレイヤーがこんな下の方で止まるわけがない。
休憩中、那己はいつもどおりツウィッターを開く。英雄マンアカウントでエゴサを繰り返しながら、承認欲求を満たす。この瞬間が1番気持ちいい。
「あっ、なんか、質問箱来てた……なになに?『英雄マンさんに質問です。友達のランクを直ぐに追いつくにはどうしたらいいですか?』」
おっと、ちょうど今自分がやっていることだ。那己は上機嫌になりながら、匿名の誰かへ、英雄よりアドバイスを送る。
「『キル性能が強い武器使う。最適な立ち回りをする。ゲームを終わらす』」
以上。この比窟 那己。空が飛びたいと言っている人に羽根を生やせと言うタイプのプレイヤーである。
Q.「キル武器は苦手で上手くできないよー」
A.「なら練習してください」
Q.「最適な立ち回りがわからない」
A.「ならネットで調べて学んでください」
Q.「ゲームを終わらすってどういうこと?」
A.「1人で試合の流れを作れるぐらいの強さを持てということです」
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英雄マン @auman_19275_ .1分前
強くなりたいとか、上手くなりたいとか、ランク上げたいって質問。よく来ます。
でも答えは「強い武器使って、練習を重ねる」以外、説明できないです。
脳筋でごめんなさい。
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こうして那己はランクを上げ続けた。要は回数だ。回数をこなせ。負けたら勝つまで考えろ。さすれば道は開かれる。
Q.「さては、人に物を教えるのが下手くそなタイプ?」
A.「はい」
◆◆
………。
……。
…。
48時間が経過した。
しかし、全武器解放へと至っていない。
一体なぜ。
「うええええ……気持ち悪ぃ……」
久しぶりにぶっ続けでやったらVR酔いして体調を崩してしまった。この頃ちゃんと学校に行っていた弊害(正常な身体反応)である。
夜が明ける。登校時刻がやってくる。しかしベットから出る気力があるはずもなく。
「今日は……学校休もう……うぷ……」
比窟 那己、新学期早々にお休みである。




